『新装版 限りなく透明に近いブルー』(著:村上 龍)
◎小川優子書籍第一販売部 20代 女
□思春期を支えてくれた1冊
「東野圭吾・伊坂幸太郎・西尾維新」──恥ずかしながら、全て入社してから読んだ作家だ。この方達が活躍し始めるのは、2000年前後。
よくその時点まで、新旧の概念なしで文芸書を読んできたものだなと思う。実際に書籍販売の仕事に携わるようになると、なるほど、もう安部公房や遠藤周作は新作を書けない。未来の読者がつくかどうかは、どれだけ教科書などで過去の作品を目にできるかで決まってしまうのではないか。新しい作家を発掘することが、出版社にとって肝であることを改めて認識した。だが、自分が生まれる前に書かれた本ばかりが並ぶ親の本棚の中で、唯一「自分と同じではないか?」と思うほどに「同時代性」を感じた本があった。それが村上龍の『限りなく透明に近いブルー』だった。
自分の置かれた状況や鬱屈した心境を、文字にしてくれたと思った。当時私が住んでいたのは、夏になると気温が45度を越すインド。治安がよくないため、外国人学校は高い壁に囲われ、警備員はアメリカ兵だった。教育に厳しい学校で、一見すると優等生学校のようだったが、そうではなかった。学校内に自由がない生活の中で、唯一生徒がはじけるのは夜。
酒やドラッグで意識をなくすクラスメートを醒めた目で見つつも、輪の中に入っていなくてはと焦る。『限りなく透明に近いブルー』も同じだった。主人公は荒れた行為を、一枚のベールを通すように語り、まるで当事者じゃないかのように、ひどく静かで醒めている。
本書に何度となく救われ「同時代性」を感じたと言うと、「え!?」と驚かれる。奥付を調べてみると発行は1978年、私が生まれる8年前だ。確かに日本で生活していたら、先に伊坂さんや東野さんの作品を読んでいただろう。だが、個々人の心境や置かれた環境に合えば、書かれた時代は関係ない。
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■執筆した社員
◎講談社社員 人生の1冊
小川優子【書籍第一販売部 20代 女】
※所属部署・年代は執筆当時のものです
■本の紹介
◎新装版 限りなく透明に近いブルー
第19回群像新人文学賞、第75回芥川賞受賞のデビュー作!
米軍基地の街・福生のハウスには、音楽に彩られながらドラッグとセックスと嬌声が満ちている。そんな退廃の日々の向こうには、空虚さを超えた希望がきらめく──。著者の原点であり、発表以来ベストセラーとして読み継がれてきた、永遠の文学の金字塔が新装版で登場。
- 『新装版 限りなく透明に近いブルー』
- 著:村上 龍
- ISBN:9784062763479
- この本の詳細ページ:http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062763479