~簿価から大幅に減価される回収見込み額~


 3月18日に破産開始決定を受けた(株)テックコーポレーション(TSR企業コード:740278177、広島県、以下テック社)の余波が収まらない。環境関連機器を開発していたテック社だが、破産以降、取引先が相次いで破たんしている。


 東京商工リサーチ(TSR)は全国の支社店ネットワークを活用し、関連先へ取材した。

多くの企業を連鎖破たんへ追い込んだ取引スキームがみえてきた。

 テック社の破産申立書によると、売掛金と在庫商品の簿価の合計は30億円強だ。ところが、回収見込みとして記載されている金額は約5%の1億6,000万円に過ぎない。大幅な差はなぜ生じるのか。
 商品を受け取るはずの「エンドユーザー」の存在や様々な契約書などを取材し、債権者445名を巻き込み、負債総額191億9,486万円に達した大型倒産に迫った。

自社製品を自ら発注

 通常の商取引において商品はメーカーから問屋、そして小売店・エンドユーザーに届けられる。テック社の場合は少し形を変え、エンドユーザーを見つけた「取引先(販売代理店)」がテック社から商品を仕入れてエンドユーザーに販売していた。


 ただ、連鎖破たんが相次ぐ取引では、テック社が自らエンドユーザーを見つけてきたとして紹介し、取引先がテック社を通じて販売するスキームが多い。この場合、テック社は取引先へエンドユーザー名を明かすケースと明かさないケースが確認される。
 この取引スキームは難解だ。エンドユーザーに販売するテック社商品は、テック社の在庫を利用する。エンドユーザーが明かされている場合は、エンドユーザーが注文者となり、明かされない場合はテック社が注文者となる。
 そしてテック社が所有する商品を販売代理店である取引先が仕入れ、テック社に対して約束手形を振り出す。
同時に、テック社は取引先が仕入れたテック社商品を注文する。テック社は取引先へ手形決済期日の5日前に代金を振り込むが、その金額は仕入金額に5%を上乗せしたものだ。これを原資に取引先はテック社に振り出した手形を決済する。その後、テック社がエンドユーザーから代金を回収するというスキームだ。
 難解な理由は、テック社の在庫をエンドユーザーに直接販売せず、在庫を一度、取引先に販売して資金化しているとも受け取られかねない形でエンドユーザーに販売するためだ。

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テック社の在庫を取引先が決済

 テック社からエンドユーザー名を明かされなかったA社(取引先)は、「テックコーポレーションから口頭で販売先が決まっている」と説明を受けたという。同様に社名を明かされなかったB社は、「うち(テック社)の在庫をエンドユーザーが買うことになっているので、その代金を貴社(B社)にて一旦決済してもらいたい」と要請されたという。

一方、エンドユーザー名を明かされたC社は、「社名(エンドユーザー)が記載された注文書をテックコーポレーションが示してきた」と語る。
 いずれのケースでも取引先が約束手形をテック社に振り出し、テック社が手形を割り引いて現金化した後、テック社は手形の決済日前に取引先に代金を振り込み、その資金で取引先は手形を決済していた。
 決算への反映はどうなるのか。一部の取引先は、この取引による取り扱い高を売上計上していた。ただ、多くの取引先は売上計上せず、5%分のみを計上していた。
 テック社が破産に追い込まれたことで手形の決済資金がテック社から入金されず、取引先は自社が振り出した手形が不渡りに陥るケースが相次いでいる。
決済日がまだ到来しておらず、資金繰りに苦心する取引先もある。
 取引先からみると、支払いが先行するいびつなスキームだが、テック社は「エンドユーザーからの回収に時間がかかるため」と説明していたという。

寄託契約と預り証

 テック社商品を仕入れた取引先は、テック社と寄託契約書(混合寄託)を締結し、テック社が預り証を発行するケースもあった。取引先がテック社に商品の保管を委託する契約で、交わされた書面には「本件商品を本件商品と同一機種の商品とともに混合保管することができる」、「混合保管した受寄物の中から本件商品と同一機種の商品、同一の数量を返還できるものとする」などと記載されている。
 寄託契約は遅くとも2019年には結ばれている。
 今回の取材で、倉庫会社に商品在庫が確認された。ただ、取引先が遠く離れた倉庫に寄託された商品を都度確認することは難しい。

実際に、在庫を全く確認していない企業もいる。取材に応じた取引先のなかで、テック社より仕入れた商品実物の流通過程を隅々まで把握していた企業はいなかった。



テックコーポレーションの寄託契約と預り証
本社が入居するビル(TSR撮影)

本社が入居するビル(TSR撮影)

売掛金と在庫

 テック社の破産申立書の「資産及び負債一覧表(法人用)」によると、資産の名目額(簿価額等)のうち、売掛金は12億870万円が計上されているが、回収見込額は1,000万円と記載されている。
 売掛の実態はどのようになっていたのか。TSRは売掛金目録の「契約書等」の欄に「有」と記載された企業に注目した。TSRのデータベースと照合すると、実在するが、本社は全国に点在する。

当該企業の年間売上高とほぼ同額がテック社の売掛金として計上されている企業や、2022年9月に破産開始決定を受けている企業が確認された。「有」と記載された企業に取材をすると、「(テック社が自社を)売掛先として計上しているのはおかしい」と訝しがる。
 また、申立書の在庫商品には21億3,578万円が計上されているが、回収見込額は1億5,000万円と記載されている。実に93%もの減額だ。在庫商品目録には、機械(手洗い)5億598万円、機械(ESS)4億7,612万円、機械(バイオ)4億5,686万円、アクアファインプレミアム酸性1億6,089万円などが計上されている。
 下請けとしてテック社に商品を納品していた企業は、「実際に商品を製作し、納入していた」と証言する。様々な商品をテック社は展開しており、取引の実体に関して、破産管財人の客観的な調査が待たれる。


 今回の取材で明らかになった取引スキームではテック社が常に5%の損をすることになるものもある。手形割引を加味すると、さらに損失は拡大する。このスキームが全取引のどの程度を占めていたのか、本決算で黒字を維持できた理由は何なのか。

 テック社へ振り出した手形の期日をこれから迎える取引先もいる。ある取引先は、テック社が割引した金融機関に期日のジャンプを要請したが、「すでに交換所に廻している」と回答されたという。
 テック社の取引スキームは複雑だ。ある取引先は、「(エンドユーザーに)本当に発注したか確認したところ、テックコーポレーションに頼まれて発注書を書いたと説明された」と耳打ちする。
 テック社の債権者の代理人弁護士は、テック社や幹部などの責任追及も検討している。取引スキームの輪郭が徐々に見えてきた。TSRはさらに取材を続けている。



(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2024年4月23日号掲載「取材の周辺」を再編集)