現在では強いイメージのあるプロ野球の北海道日本ハムファイターズだが、実は、2004年に北海道に移転する前は30年間で1度しかリーグ優勝していない(1981年)。その年は、大沢親分が監督で江夏豊投手を擁していた。
大沢親分のメディアでのインパクトが強いので、日ハムは強かったかのような印象を受けるが、実はそうでもなかったわけだ。

 それが、今年で北海道に移転して10年目の同球団は、なんとこの9年間に4度もリーグ優勝している(2006年、2007年、2009年、2012年)。しかも、北海道移転後は3人の監督(ヒルマン、梨田、栗山)全員が優勝を経験しており、監督に左右されない強さを誇っている。

 なぜこのように球団は変身できたのかをビジネス的観点から見てみようということで、担当している番組、テレビ北海道「けいざいナビ北海道」で先日特集を組んだ。今回はその内容をご紹介する。

徹底した顧客サービスを貫く姿勢

 ファイターズの強さの秘密を球団の津田社長に聞いてみると、徹底したファンサービスがその一因だとのこと。

ファンサービスファーストが球団の行動指針で、ファンが球場に来た時にいかに喜んでもらえるか、その点にこだわっているという。

 これまでにファイターズが行ったユニークなファンサービスとしては婚活シートが有名だ。野球観戦をしながら婚活もできてしまうというもの。

 そして今回の番組では、ファミリーデイの取り組みを紹介した。子供連れでも楽しめるように子供向けの遊具施設の設置しているほか、ファンクラブ会員の子供たちには、「4番レフト中田」など球場のアナウンス、グラウンド整備、ボールボーイなどの体験機会を提供している。

 またデーゲームの日に限ってだが、試合後にグラウンドを開放し、子供たちがキャッチボールができる。

またファンクラブの子供たちには、選手がノックまでしてくれる。子供たちにとっては球場に行きたくなる仕掛けが満載というわけだ。

データ分析と統計で野球を強くする

 ファンサービスの拡充が、観客数増加につながり、ファンの応援が選手の力となりチームが強くなって優勝の常連になった、というストーリーはキレイではあるものの、それだけではないだろう。

 特にファイターズは観客動員数はリーグ1位ではなく2位(ソフトバンクホークスが1位)である。そこで、津田社長にファンサービス以外では何が強さの理由かと聞いてみると、ベースボールオペレーションシステム(BOS)と呼ぶデータ分析、それにスカウティングと育成がその要因だと指摘する。

 BOSは、中身は企業秘密とのことであるが、端的には映画や小説になった「マネーボール」をイメージするとよいであろう。

「マネーボール」は財力が大きくない大リーグの球団アスレチックスが、統計手法によるデータ分析を活用することで強くなっていったという実話をもとにしたものである。

 映画では、勘に頼った旧態依然としたやり方で人員の補強を図ろうとするスカウト陣に対して、ブラッド・ピット演じるGeneral Managerが統計手法を駆使したデータ分析で対抗するシーンがある。昔からいたスカウト陣の一人が、統計で野球ができるわけないだろ、という捨て台詞を残して球団を後にする。が、アスレチックスはその後どんどん強くなっていく。

 今やファイターズに限らず、このデータ分析、統計的手法をチーム運営に活用する球団は日本でも少なくない。その点を津田社長に質問してみると、データを活用するのは人ですから、とのコメント。

やはりこのBOSには自信を持っている様子であった。

 たしかに、よく考えてみると、ファイターズはダルビッシュなど有力選手を手放すことはあっても、札束で有力選手を引っ張ってくることはない。しかし、勝てるというのは緻密な分析に基づくものなのであろう。

2軍の鎌ヶ谷球場は観客数がリーグで1位

 なお、スカウティングと育成にも強みがあるが、ファイターズの2軍は北海道にはいない。千葉県の鎌ヶ谷にいる。1軍の首脳陣が2軍の選手を見る機会がないことも、BOSによるデータ活用の重要性が増す要因となる。

 そんな鎌ヶ谷の球場であるが、観客動員数は2軍ではリーグ1位とのこと。球場に沖縄の砂を敷き詰めたり、今年は球界で初めて2軍球場に大型ビジョンも設置したそうである。特に今年は大型ルーキーの大谷翔平選手が1軍と2軍を行ったり来たりしているし、斉藤佑樹投手も2軍にいるので、ビジョンの活躍場面は多そうだ。

 1軍が本拠地としている札幌ドームは札幌市などが株主となっている第三セクターが保有しており、サッカーのコンサドーレも本拠地としている。札幌ドームの座席は可動式となっており、野球の日とサッカーの日で席の配置が異なる。鎌ヶ谷の球場はファイターズが保有しているので自由に手入れすることができるそうで、野球ファンに特化した球場を作り出すという面はある。

 また、鎌ヶ谷で2軍を応援していたファンが、選手が1軍になった暁には北海道に応援しにくる、あるいは、千葉ロッテマリーンズとの対戦時にマリンスタジアム(千葉県千葉市)に応援に来るなどの副次的効果もあると思われる。

選手が市町村を応援する取り組みがスタート

 北海道には現在179市町村が存在する。今年からファイターズは、これら市町村を応援する応援大使として選手を任命するという取り組みを開始した。

 毎年18市町村に2名の選手を任命し、10年がかりですべての市町村に対して選手が応援大使となる。球団のウェブサイトの説明では「(応援大使となった)ファイターズの選手を市町村のポスター・広報誌・ホームページ・ブログ掲載に起用したり、互いにアイデアを持ち寄りながら特産品等のプロモーションやイベント・行事に選手が協力するといったことが可能となります。また、球団が認可するものに限り、期間限定で肖像権を無償でご使用いただくことができます」となっている。

 オフシーズンになれば何名かの選手が実際に市町村を訪れることがあるかもしれないし、市民や町民にしてみると応援大使となった選手に対してより親近感を感じることだと思われる。こういう地道な取り組みもファン獲得につながっていくのであろう。

観客数減に対する有効策は?

 札幌ドーム自体は最寄りの地下鉄の駅から徒歩で行けるので、最寄駅からのアクセスはさほど悪くない。しかし、札幌の場合は、東京、大阪、名古屋などJR以外にも私鉄、地下鉄、バスのネットワークが充実している3大都市に比べると、どうしても自宅からドームの最寄駅にやってくるまでの「足」の面では分が悪い。

 そこで、北海道の各地から後援会や町内会主催でのファイターズ応援バスツアーなるものがたくさん存在する。自宅の近くから乗れて、同じ場所まで送り届けてくれるなら、非常に便利だ。利用者は様々とのことであるが、このバスツアーで初めてドームに観戦に行くという人も少なくないとのこと。

 ファイターズは皆が知っている存在だし、テレビでファイターズの試合を中継すると視聴率は20%を超える。そんな人気球団なのに、町内会で案内が回ってきて初めて行ってみようと思う人たちがいるということは、球団側にしてみるとまだまだ営業開拓の余地が残されているのではないだろうか。

 考えてみると、球場あるいは球団というのは待ち受け営業である。ファンが来てくれるのを待っている。球場にファンサービスのいろんな仕掛けはするものの、それらを知る、あるいは、触れるためにはまず球場に足を運んでもらわないことには始まらない。人々に球場に足を運ばせるには、球団側からの攻めの営業がもっと必要かもしれない。

 ファイターズは昨年優勝したにもかかわらず、観客動員数は一昨年比13万人減っている。1試合平均2000人弱の減少だ。ファンの声を聞くとダルビッシュが抜けた影響が大きいようではあるが、津田社長も「まだ理由は完全には分析しきれていない」。観客数の回復は重要課題であり、そのためにはやはり攻めの営業が必要ではないだろうか。

 手っ取り早いのは飛行機と同じで、空席の有効活用であろう。食べ物や飲みものの場合は試飲、試食があるが、スポーツ観戦の場合はなかなかそれがない。どうせ空いている席なら、ためしに一度来てみてよという形で席を有効活用するのは一手だと思われる。

 なお、ファイターズの選手は北海道ではアイドル的な扱いを受けており、憧れの選手がアップで見られることもテレビの視聴率が高いことの一つの要因かもしれない。そして、それが球場への観客数の増加の阻害要因になっている可能性もある。

 逆に言えば、テレビでは提供しきれない楽しさをどこまで球場で提供できるか、これが観客数増加には重要なのだろう。

 ふと私の頭をよぎるのは、以前神宮球場で阪神対ヤクルトの試合を観戦していた際の出来事である。

「おい、真弓!お前もう監督辞めろ!俺が監督やってやる!」。声の主を見てみると、スタンドに座っていた阪神ファンのタダのオジサン。こういうヤジも球場ならではの醍醐味であるが、ファイターズの試合はなぜかまったくヤジがない。ファンは非常に行儀がよい。

 しかし、セパ交流戦では、阪神戦の時はいつも札幌ドームは満員になり、大勢の阪神ファンもやってくる。多少行儀の悪いヤジ飛ばしオジサンも観客動員数増には多少貢献するということかもしれない。阪神の選手にしてみるともう勘弁してくれというヤジも、ところ変わればたまには欲しいもの、なのかもしれない。