神木隆之介橋本愛主演で、今月11日に公開された映画『桐島、部活やめるってよ』。製作の日本テレビが中心になって連日、大々的なプロモーションが展開され、作品の評判も上々なのだが、この映画をめぐっては一つだけ気になることがある。

 それは、一連のプロモーション活動に原作者の朝井リョウの姿をまったく見かけないことだ。朝井といえば、先の第147回直木賞にもノミネートされた手有作家で、最近の作家には珍しく、テレビや雑誌の取材などにも積極的に応じることで知られている。ところが、今回の映画がらみでは、小説の版元である集英社の文芸誌「小説すばる」に登場したくらいで、ほとんどメディアに露出していないのだ。

「『桐島』の公開に合わせてインタビューを申し込んだんですが、映画がらみは基本的にNGだといわれました」(雑誌編集者)

 メディア露出だけではない。朝井は映画公開初日の舞台挨拶でも、観客席にいながら一切舞台には上がっていない。

 これはいったいなぜなのか。

映画化された『苦役列車』を「どうしようもなくつまらない」と酷評した西村賢太のように、映画の出来が気に入らなかったということではなく、自身のTwitterでは作品を絶賛し、打ち上げで大はしゃぎしたことなども報告しているほどだが……。

 実は、朝井は現在、今回の映画の製作・配給元とはまったく無関係な大手映画会社に勤務しているのだという。

「朝井さんは大学2年生の時に『桐島、部活やめるってよ』で小説すばる新人賞を取ってデビューしたんですが、今年春に大学を卒業して、大手映画会社の東宝に正社員として就職しているんです。『桐島』の配給会社はショウゲートですから、宣伝に協力すれば、就職先の競合会社に手を貸すことになる。それで表立った活動を自粛しているようです」(映画業界関係者)

 不可解な行動の裏には、サラリーマンとしての立場が関係していたというわけだが、それにしても驚いたのは、大学時代にすでに売れっ子作家になっていた朝井が、わざわざ就職していた事実だ。

 朝井は「小説すばる」新人賞を取った時、石田衣良との対談で、両親や姉から「就職はしなさい」と言われていることを明かし、石田からも「就職はしといたほうがいい」とアドバイスを受けている。

東宝への就職はそのアドバイスに従ったということのようだが、出版業界には、朝井が二足のわらじをはいていることを心配する向きもある。

「別の仕事をもっていながら執筆を続けている作家は多いですが、ほとんどは売れない作家ばかり。売れっ子がサラリーマンをやり続けるのは大変ですよ。森見登美彦さんも国会図書館の職員を辞めずにずっと二足のわらじでやってきましたが、去年、無理がたたって体調を崩し、すべての執筆を中断してしまいました。しかも朝井さんの場合は、今回のように作品の映像化などで就職先と利害が対立するケースもありますからね。先行きが心配です。

就職先を辞めるというだけならまだいいですが、小説家としての活動に支障をきたすことになったら、出版界にとって大きな損失ですから」

 くれぐれも『朝井、小説家やめるってよ』なんていう結末にならないよう、祈っておこう。
(文=須田林)