疲労回復効果を求めて、疲れや眠気を感じたときに思わず手にする栄養ドリンクやエナジードリンク。しかし、大阪市立大学大学院医学研究科疲労医学講座の特任教授で「東京疲労・睡眠クリニック」院長の梶本修身先生は、ビタミンB1やタウリンを主成分とする一般的な栄養ドリンクには「疲労を取る成分は一切入っていない」と断言する。

前編では疲労と栄養ドリンク、エナジードリンクにまつわる真相をお話いただいたが、後編では、栄養ドリンクに多量に含まれるカフェインや、疲労に本当に効果的な成分についてお聞きした。

◆死を招くカフェイン中毒とは?

――栄養ドリンクは疲労回復に効果がないとのことですが、それにもかかわらず1日の摂取量が決められているのはなぜですか?

梶本修身先生(以下、梶本) 栄養ドリンクの大半にはコーヒー2杯分以上のカフェインが含まれているので、過剰摂取による中毒化や死亡事故を防ぐ意味合いが大きいでしょう。栄養ドリンクやエナジードリンクの過剰摂取による死亡事故は最近でも起きていて、アメリカでは13件の死亡事故が報告されています。そのためFDA(アメリカ食品医薬品局)や小児学会は注意喚起もしています。でも、日本では、今のところ「自主規制」という形で各社の自主判断で上限摂取量を決めさせているのが実情です。

――カフェインは摂り過ぎると危険なんですね。


梶本 カフェインは眠気を覚ますので、一時的に疲労感を麻痺させるには効果的です。しかし、実際には自律神経の興奮を高めることでさらに疲労を悪化させるため、必ず“ぶり返し”が起こります。そのぶり返しを消すためにカフェインがほしくなり、効果が切れるとより強いぶり返しに襲われるのでまた摂取する……と繰り返していくうちに、依存的になり、カフェイン中毒を引き起こします。日本疲労学会も「カフェインは抗疲労物質ではない」と明確に抗疲労効果を否定しています。

 また、カフェインを摂取すると、交感神経優位となって心臓の脈拍が速くなります。ですから、過剰摂取はもちろん、疲労がたまっているときや運動中、飲酒時など脈拍が速まっている状態で摂ると、死に至るリスクもあります。


――カフェインが強いコーヒーは、栄養ドリンクやエナジードリンクと効果は同じですか?

梶本 コーヒーにもカフェインが含まれているので、飲みすぎには注意が必要です。ただ、クロロゲン酸という非常に優れた抗酸化物質も含まれているので、自律神経の細胞に発生する活性酸素の蓄積を防いでくれる作用があります。そのため、コーヒーは、疲れを軽減させる効果が期待できます。クロロゲン酸はノンカフェインのコーヒーにも含まれています。同じカフェインを摂取するなら、栄養ドリンクよりコーヒーを飲んだ方が絶対にいいですよ。



◆疲れにくい体が手に入る成分「イミダペプチド」

――栄養ドリンクに頼れないとなると、何に頼ればいいのでしょうか?

梶本 疲労を起こしにくくするという点では、2つのアミノ酸が結合したたんぱく質の一種で、抗酸化作用のある「イミダペプチド」がベストだと思いますよ。
先に話したように、疲労は活性酸素により自律神経中枢の神経細胞にサビがついた状態ですから、抗酸化物質でサビ付きを防げばいいのです。イミダペプチドは消化管ですぐにアミノ酸に分解されるので、血管から脳血管関門(脳を守るフィルターのようなもの)を通過して、自律神経の活性酸素の発生場所まで到達できます。自律神経中枢に到達したアミノ酸は、細胞内のイミダペプチド合成酵素により再結合されてイミダペプチドになるので、活性酸素による細胞のサビ付きを防いでくれるんです。

――抗酸化作用といえば、ポリフェノールの名前もよく挙がりますよね。

梶本 例えば8時間集中して作業したとすると、活性酸素は8時間ずっと発生し続けることになります。ほとんどのポリフェノールは代謝されやすく、抗酸化作用はせいぜい2時間以内ですから、残りの6時間は活性酸素にさらされてしまうんですね。
だから、ポリフェノールで抗疲労効果を得るには、こまめな摂取が必要になります。その点、イミダペプチドは、アミノ酸がある間は常に合成され続けるので、持続的に抗酸化作用を発揮することができるんです。

――イミダペプチドはどうすれば摂取できますか?

梶本 イミダペプチドは、鳥であれば羽の付け根、回遊魚であれば尾の筋肉など、消耗の激しい部位に多く含まれています。そのため、鶏の胸肉や、マグロ、カツオを食べるのがおすすめです。ただ、即効性は乏しいので毎日摂取することが肝要です。毎日食べるのが面倒な方は、合間にサプリメントを利用するのもよいでしょう。
効果が臨床試験で実証されているイミダペプチド量は、1日200ミリグラム。鶏の胸肉なら70~100グラムくらいに含まれる量です。ローソンの「からあげクン」なら2パックくらいですかね。ただし、揚げ物なので食べすぎたら太りますけど(笑)。ちなみに、セブンイレブンの唐揚げにはモモ肉も入っているので、胸肉のみを使用したローソンの方がイミダペプチドを多く摂取できますよ。



◆健康のための運動が自殺行為になることも

――すでにたまっている疲労には何が有効ですか?

梶本 やはり睡眠が一番です。
睡眠は疲れを取るための手段であり、眠気は体からの警告なんです。だから無視してはいけません。眠たいときは、栄養ドリンクなどでごまかさずに寝るべきです。ただ、寝ても疲れが抜けない場合は、前日の疲労が睡眠で回復できるキャパシティをオーバーしているか、睡眠中も寝汗やいびき・無呼吸で交感神経が働き続けて眠りの質が悪くなっているかのどちらか。疲労が回復せずに蓄積すると、老化が進行して寿命を縮めることになるので、まずは睡眠環境を整え、毎朝寝起きの疲れ具合をチェックして、行動量を調整することが望ましいです。

――健康維持の運動も、翌朝疲れが残るようなら、かえって寿命を縮めているということですか?

梶本 その通り。運動が推奨されるのは、肥満による生活習慣病などのリスクを減らすためです。日常生活で体重と筋肉を維持できるのであれば、歩く以上の運動をあえてする必要はありません。健康のためにと、運動やトレーニングを取り入れている人は多いですが、疲労が蓄積するようなやり方は逆効果。動物を使った実験でも、幼児期にたらふく食べさせて運動させた個体ほど早死にするとの結果が出ていますし、実際、健康のためにと始めたランニングやゴルフの最中に命を落とす人もたくさんいるのも事実です。

――疲労をため込まないことが大事なんですね。

梶本 ライオンを見てください。獲物を狩るとき以外はほとんど動かない。そもそも体力づくりに自主トレしている動物なんて見たことないでしょ? 狩りの途中でさえ、疲れたら諦めるんですから。動物は疲労感に忠実なんです。だから「ライオンが過労死した!」なんてことは絶対にありません。疲労感を意欲や達成感で消し去れるのは「欲」の中枢である前頭葉が発達した人間だけです。人間は貪欲ゆえに進歩しましたが、その代償として疲労蓄積による過労死を招いてしまっているんですね。

梶本修身(かじもと・おさみ)
1962年生まれ。大阪大学大学院医学研究科修了。医師・医学博士。現在、大阪市立大学大学院医学研究科疲労医学講座の特任教授で「東京疲労・睡眠クリニック」の院長を兼任。著書『すべての疲労は脳が原因I』『同II』(集英社)は15万部を突破するベストセラー。『たけしの健康エンターテインメント!みんなの家庭の医学』(テレビ朝日系)、『ためしてガッテン』(NHK)、『ホンマでっか!?TV』(フジテレビ系)など出演多数。