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――今まで何本くらいゾンビ映画観られてるんですか?

伊東 『ゾンビ映画大事典』の300本以上はこれはほぼ観てますから、今回70本くらいで、まあ、400~500本くらいは観てるのかなぁ。合わせるとそれくらいはいってますね。


――最初にゾンビ映画に興味を持ったのはいつ頃なんでしょうか?

伊東 10代の頃からです。もともとホラー映画は大好きだったんですけれど、最初に「ゾンビ」を観て、えっと、今おいくつですか?

――今年33です。

伊東 それだと世代は違いますけど、80年代前後ってスプラッターブームでビデオレンタル店がポコポコできたんですよね。それで出てるものを片っ端から観ていった。「ゾンビ」に当たって、他に面白いのあればと思って次に「ゾンビ3」を観てしまったり。内容も暗いし、しかも面白くない。
ただ、10代に観た映画の記憶って自分のなかで発酵していきますよね。やっぱりその頃の映画って「なんじゃこれ」というかんじがあった。イタリアのゾンビ映画の鬱々とした雰囲気だったりとか、ずっと自分の中で消えずに残ってるんですよ。

――温度も湿度が高くてゾンビもグズグズに腐ってたりしますよね。

伊東 イタリアのホラーって当時はひとつのブランドでしたね。そのなかでも圧倒的にバイオレントなゾンビ映画に影響を受けてて、いまだに好きです。
面白かったっていってももちろんワクワクするぜって感じでは無くて。なんだろ、ああいうムーディーなホラー映画、ちょっと怪奇趣味があっていかがわしい感じがあって、そういうのは今のゾンビ映画にはあまり無いですね。

――今のお話を聞いていると、自分の世代でゾンビが好きな人と、伊東さんの世代でゾンビが好きな人って魅力を感じてる側面が違うのかな、と思いました。

伊東 たぶん違うんでしょうね。『ゾンビ映画大マガジン』の座談会でも言ったけど、ぼくらがスプラッタを喜んでるとき、ひとつ上の世代はやっぱりハマーフィルムが良いって言ってたんですよ。自分はそうはなりたくないなと思ってたんですけど、そういうのって繰り返されるんだと思います。
あと、ぼくの個人的な好みからいえば、やっぱりスプラッタやシリアスな作品が好きで、楽しいゾンビ映画にはあまり興味がない。

――楽しい、というと、私はコメディの「ショーン・オブ・ザ・デッド」が好きです。

伊東 正直いうとあまり好きじゃないですね。面白いと思うんですけど、面白いのと好き嫌いっていうのは別なものだと。甘さとおいしさは違うように、面白いと好き嫌いはまたぼくの中では違うんですよ。つまんなくても好きな映画ってあったりするし、「ショーン・オブ・ザ・デット」はすごく面白いと思ったんですけど、好きではないです。


――面白いと好きの違いって今初めて意識しました。

伊東 たとえば映画全体はつまんないんだけどこの設定はすごく怖いだとか、このモンスターの造形は好きだとか、この残酷シーンはエグくていいとか。「墓地裏の家」なんか、まあそんなに面白い映画ではないですけど、フロイトシュタイン博士がグロかっこよくて好きだし、「エル・ゾンビ」のドクロのゾンビが馬に乗って走ってくるのがほんとにグッとくる。なんだろう。そういう怪奇趣味みたいなところに惹かれるのってあるじゃないですか。そういうことですよね。


――一枚絵でかっこいいとか、音がいいとか。

伊東 イメージを喚起してくれるようなものって好きだな。たとえばそれは映画全体じゃなくてもワンシーンだったり、単に特殊効果であったりかもしれないけど。

――そういうのを探しながら観ている?

伊東 そうですね。もうほんとにつまんない映画はでもここだけは面白いとかあるじゃないですか。ダリオ・アルジェントの言葉ですけど、「どんなつまらないホラー映画にも一カ所はいいところがある」っていう。
どうせ観るんだったら面白いところを探したほうがいいと思うし。

――つまらないけど好きなゾンビ映画ってたとえばどんなものですか?

伊東 ブルーノ・マッティのくっだらない「アイランド・オブ・ザ・デッド」とか、結構好きなんですよ。さっき話した怪奇趣味のかけらもない作品だけど、あれは推したい。ゴミ映画を紹介しやがって、と怒る人もいるだろうけど。

――どういうところが好きですか?

伊東 過去の名作からたくさんパクってるんですけど、インディーズ映画によくあるオマージュとも違うんですよね。商売しようという下心がちゃんとあるのに、まったく見当違いのところに行きついてしまってる。

――商売っけがあるからサービス精神があるという……

伊東 ブルーノ・マッティの映画も誰も楽しませてはないんだろうけど、説明しにくいなあ。つまんないのを撮ろうとしてるわけじゃなくて、わかんないですよねえ、そのへんは。

――狙ってやってるかどうかも分からないんですか?

伊東 なに考えてるかさっぱり分からない。デタラメなことは確かなんだけど、本気なのかギャグなのかも分からない。ブラックボックス。ある意味ミステリアスともいえる。

――解釈の余地がいろいろある。そこが魅力ですか?

伊東 うん、得体が知れないんですよね。そこはちょっとした面白味ではあるかな、と。

――そういうところを紹介していきたいという気持ちもあるんですね。

伊東 こう見ろって強制するつもりは無いんだけど、想像をしてたものとまったく違う作品に出会ったとき、どこをどう楽しめばいいのか戸惑ってしまうこともあると思うので。そんな場合のひとつの指針になれたらいいな、とは思います。

――今のお話で今年2月の東京国際ゾンビ映画祭を思い出しました。みんな同じスクリーンで観てるから、あ、ここ笑っていいんだ、って分かりやすくて。

伊東 ああ、あれは、すごくたくさん人が来て、いつもと客層が違ってましたよね。普通、ゾンビ映画の上映にはイイ歳の黒いTシャツを着た人がぞろぞろくるんだけど、ゾンビ映画祭には若い女の人が多かった。

――「ゾンビランド」も同じ劇場で観たんですが、カップルが多くて結構びっくりしたんですよね。映画祭の客層もそれに近くて。

伊東 某若手女優も開場前から並んでいた、っていう。どうなのかな評判はーと思ってネットを調べてみたらモデルの人が「みてきたよー」って。どうも客席に綺麗な人がいると思ったら。だから意外にファン層って幅広いんだなあと思いました。若い人も興味持ってくれてるんだなあ、という。

――その映画祭で上映していた「ヘルドライバー」も『ゾンビ映画大マガジン』で紹介されてますね。あともうひとつの日本発ゾンビ映画の「ゾンビ学入門」では伊東さんが監修されているとのことで。

伊東 「ゾンビ学入門」って最初はゾンビが発生した世界のサバイバルガイド的なバラエティだったんですよ。で、ゾンビ映画でよくある状況についてアドバイスがほしいから監修やってくれないかと言われて、ああやりますよって引き受けて。でも、キャスティングに難航してるうちに結局映画になっちゃったんですよ。

――キャスティングに難航すると映画になるんですか! ちなみに監修ってどういうことをやるんですか?

伊東 映画になった時点でぼくの出番はほぼ無くなったんですね。一応打ち合わせには参加してたんですけど。これをやりましたっていえるのは、登場人物のひとりがゾンビ映画マニアって設定で、その人のセリフくらいかな。そこにでてくるゾンビ映画のタイトルはぼくが決めました。

――撮影に立ち会ったりは?

伊東 していないんですよね。撮影現場を見た人から聞いた話だと、「ヘルドライバー」の西村さんが担当だからメイクがしっかりしているらしいです。あと主演が意外な人らしいです。

――日本発のゾンビ映画って海外と比べるととても少ないですけど、日本のゾンビ人気ってやっぱり厳しいですか?

伊東 そうですね。一時期は紹介記事にゾンビという単語を出すことすら嫌がられて。「28日後…」はそうでしたよね。あのころは。

――「ゾンビランド」のときにも「SAVE THE ZOMBIE」キャンペーンをやっているの見ました。ゾンビ映画の劇場公開が厳しいから応援しよう、という。

伊東 アメリカでゾンビ映画が大ヒットしていた時期にも日本では全然ヒットしてなくて、どんどんシアターNに追いやられていく状況でしたし。追いやられていく、というとアレか。シアターNさんが頑張って公開してくださってる。

――あとは銀座シネパトスとか

伊東 そうそう。

――レビュー以外にコラムも充実していて映画以外に小説、マンガ、ゲーム、ミュージカルまでカバーしてますが、こちらはどうやって内容を決めたんですか?

伊東 あ、コラムの内容はぼくが決めたんじゃないんですよ。

――えっ。

伊東 担当の編集者さんにお任せしました。ぼく、ロメロについての原稿も書いたんだけど、ページ数の都合で載りませんでしたし。まあ過去に書いたものの焼き直しで大した内容じゃなかったからいいんですけどね。

――いえ、そんなことないと思います。

伊東 読み返してみると、今のゾンビ映画に関するコラムがもう少しあってもよかったかなあ。走るゾンビの系譜とか、「バイオハザード」シリーズを総括したようなコラムなんかあれば…もうちょっとナウなかんじが出たかもしんない。

――「バイオハザード」が出てきて、走るゾンビが出てきて発展して、一方でわらわらとインディーズが出てきていろいろと方向性を模索しているというような流れとか。

伊東 今回は事前に全部の作品を観ていたわけじゃないので、ここ十年のゾンビ映画の全体像が把握できてなかったんですよ。作品を観終わって、『ゾンビ映画大マガジン』を出してみて、ようやく、ああこういうかんじなのねえっていうのが分かってきたという。作業している間は抱えた原稿で手一杯だったんですけど、今になって書いとけば良かったと思うことが出てきますよね。

――そのコラムは是非読んでみたいです。今回でたくさん売れたら愛蔵版を出してみたり。

伊東 この本がそれなりに売れた上で、気力と体力があればやりたいですね。ページ数増やして、索引つけて。索引はページ数とスケジュールの都合で諦めたんですよ。作業人員も必要だし。

――どんどん宣伝していきたいと思います。今日はありがとうございました。

ということなので、過去から現在までゾンビをまるごと理解するための教科書『ゾンビ映画大マガジン』。是非買ってください!(tk_zombie)