豪華声優陣の共演と過剰なパロディ、常軌を逸した下ネタの連発などのアナーキーなギャグで大きな話題を呼んでいる赤塚不二夫原作のアニメ『おそ松さん』
ネット大騒ぎ。収録中止「おそ松さん」“幻の第1話”を徹底的に振り返ってみた
「おそ松さん 第一松」DVD/エイベックス・ピクチャーズ

いろいろな意味でハラハラしながら成り行きを見守っていた視聴者も多いことと思うが、11月5日に衝撃のニュースが飛び込んできた。

Blu-ray&DVDパッケージ『おそ松さん』 第一松 収録内容変更のお知らせ
1月29日に発売予定の『おそ松さん』第一松に収録予定の第1話「復活!おそ松くん」を
製作委員会の判断により、未収録とさせていただく事になりました。また、変更後の収録内容は、下記の通りとなります。
・完全新作アニメーション
・第2話
・第3話


なんと、第1話「復活!おそ松くん」がBlu-ray&DVDに収録されないことが決定したのだ。また、各サイトで現在配信中の第1話も11月12日をもって配信終了となる。

第1話が文字通り「幻の第1話」になりそうとのことで、ネットを中心に大騒ぎになっているのだが、はたして一体どんなエピソードだったのか? あらためて検証してみたい。

いきなり昭和風のモノクロ画面でスタート


「ふっかつ おそ松くん」
いきなりモノクロの画面でスタートした『おそ松さん』。「?」となる間もなく、物語はモノクロのまま進む。
画面も音声もノイズ混じり、コマ数も省略されているようで動きはカクカク。ご丁寧なことに、画面サイズはアナログ放送時代の4:3になっている。なお、アニメ『おそ松くん』第1作は1966年に放送されたモノクロ作品だった。

「赤塚不二夫生誕80周年で、僕たち六つ子のアニメがまた復活するんだって!」と高らかに告げる長兄・おそ松。しかし、三男・チョロ松は自分たちのような昭和のアニメがいまさら人気が出るのか心配そうだ。

そんなチョロ松の心配を吹き飛ばすべく、おそ松たちは昭和のギャグを連発する。
「非常にキビシー!」(財津一郎)、「どうもすみません」(林家三平)、「ガチョーン」(谷啓)、「お呼びでない」(植木等)。

そこへフランス帰りの男・イヤミがやってきて、これも昭和を代表する持ちギャグ「シェー!」を披露。さらには、チビ太、トト子、デカパン、ダヨーン、ハタ坊も登場し、メンバー全員揃って復活の喜びにむせび泣く。

しかし、彼らの「昭和顔」を見て心配するチョロ松に、おそ松が「いい作戦がある」と耳打ち。ここまで約2分50秒、ずっとモノクロのまま、アニメの中で自分たちのアニメについて語り続けるというメタフィクションをやりきっている。

『うたプリ』『ラブライブ!』『進撃の巨人』……!


ここで時空は1962年(これは原作の連載が始まった年)から一気に2015年へワープ。画面は鮮やかなカラーになり、観客で埋め尽くされたアリーナにまったくデザインの違うイケメンキャラになった六つ子が登場。
元ネタはもちろん、大ヒットした『うたの☆プリンスさまっ♪』シリーズだ。

六つ子が歌い踊るのは「マジLOVE1000%」風の曲だが、
「大人になりきれない(We are!)
なりたくない(お粗末!)
これでいいのだ Let’s have fun」

という歌詞は、大人になった後の六つ子の心の中そのままだったりする。

イケメンキャラはそのまま続き、舞台はコンサート会場から巨大な「私立おそ松学園」へ。赤塚不二夫財閥に属する六つ子は、FUJIOの頭文字Fから「F6」と呼ばれている。元ネタは「F4」が登場する『花より男子』

途中、BLネタや『コードギアス 反逆のルルーシュ』に登場する紋章によく似たペンダントをつけた一松(演じるのはルルーシュと同じ福山潤)などのネタを挟み、F6に揃って求愛されたトト子は鼻血を出して死亡


しかし、六つ子たちはイケメン姿を保つことができず、徐々に昭和の姿に。金髪イケメンになったイヤミが登場して女子人気も盛り返すかと思われたが、ヤンキーキャラのダヨーンとハタ坊が登場し、アニメのテイストが混線しはじめると、ここからは支離滅裂なアニメパロディの連発となる。

十四松が『ハイキュー!!』の日向翔陽に、カラ松が『黒子のバスケ』の黄瀬涼太に、トド松が『弱虫ペダル』の小野田坂道になった後は、フリップ芸「こんなおそ松くんはイヤだ」。登場するのは、六つ子が『北斗の拳』のザコキャラに扮した「くそ松くん」と『ラブライブ!』風の「おと松くん」だ。十四松が高坂穂乃果に変身しているが、カツラの被り方が雑だった。なお、以前、SMAPが『おそ松くん』のパロディで「音松くん」というキャラに扮していたことがある。


そこへ巨大な足音が響く。巨大化したチビ太が学園の巨大な壁を破壊してやってきたのだ。元ネタはもちろん『進撃の巨人』(アニメのほう)。ちゃんと劇伴が澤野弘之風になっているのが、芸が細かい。おそ松が「よう、27年ぶりだな」とエレンばりのセリフを言うが、数字は前作の『おそ松くん』(1988年)からのインターバル。

日向(十四松)も黄瀬(カラ松)も小野田(トド松)も巨人に吹き飛ばされるが、『NARUTO』『BLEACH』『ドラえもん』『ドラゴンボール』『美少女戦士セーラームーン』『ポケットモンスター』『となりのトトロ』『バーチャファイター』らのキャラクターが次々と巨人に攻撃を加える。
ずっとツッコミを入れ続けているチョロ松の苦労がしのばれる。

「このアニメ、今日で最終回だ……」と落ち込むチョロ松。すると時代はモノクロの昭和に逆戻り。どうやらすべておそ松たちの妄想だったようだ。

「赤塚先生、怒ってないかなぁ?」「平気だよ、だいぶ前に死んだから」

そして10数年の時を経て、六つ子たちはそのまま成長、ニート同然のごくつぶし「おそ松さん」になった。ここでOPテーマ。ここまでずっとアヴァンタイトルだったということになる。六つ子による『SMAP×SMAP』風のトークのみが本編で、EDテーマ、おそ松が余った1分以上の間をトークで埋める予告編でようやく第1話は終了となる。

「こっちがブレーキ踏まないようにはしようと思ってます」


パロディ満載の本編を作り上げたのは、アニメ『銀魂』でやはりパロディをやりまくった藤田陽一監督。脚本とシリーズ構成は、やはり『銀魂』を手がけていた松原秀が担当している。松原はかつて『ナインティナインのオールナイトニッポン』のハガキ職人だったらしい。

藤田監督は時事ネタやパロディを入れる際に気をつけることとして、
「こっちがブレーキ踏まないようにはしようと思ってます」
と、とても気をつけているとは思えない力強い発言を行っている(『劇場版銀魂 完結編 万事屋よ永遠なれ』公開時のインタビューより)。

藤田監督はさらに「どっちかっていうと、やりすぎぐらいやって、ダメだったら周りが止めてる」とも発言しているが、はたして今回はどうだったのだろう?

とはいえ、今回の「収録内容変更」と「配信終了」が、パロディが原因だったと考えるのは早計だ。パロディだけなら、『それゆけ!アンパンマン』の凶悪なパロディ「ほれいけ!DEKAPAN-MAN」をやってのけた第3話のほうがいろいろ問題ありそうに思える(その後、BSなどで放送される際に修正が入るという騒ぎになった)。銭湯で六つ子のポコチンの形を当てる「銭湯クイズ」の下品さも素晴らしい。

そもそも、あくまで製作委員会の判断で「変更」しただけで「封印」とは言っていない。第1話の代わりに入る「完全新作アニメーション」が、ひょっとしたらものすごい作品なのかもしれないし、第1話とオマケが収録されたBlu-ray&DVDがリリースされるかもしれない。もう少し事態の推移に注目してみよう。

ところで、1989年に公開された劇場版『おそ松くん スイカの星からこんにちはザンス!』は、チビ太が『聖闘士星矢』の姿になったり、トト子が『ひみつのアッコちゃん』のコンパクトを使うなどのパロディが含まれていた(配給は東映で、東映作品のパロディだからリスクは少なかったと思われる)。なお、アニメーション制作は今シリーズと同じ、ぴえろだったりする。

赤塚不二夫の原作からしてパロディの要素は少なくないわけだから、もはや『おそ松くん』シリーズにパロディはつきものだということで、藤田監督にはブレーキを踏まないまま今後もバク進していただきたいと思う次第である。とりあえず、まだ第1話を見ていない人は、各配信サイトで12日までに急いで見てみてください!
(大山くまお)