石原さとみ主演、野木亜紀子脚本の金曜ドラマ『アンナチュラル』。ついに今夜が最終回……! ずっと続いてほしいのに……。
この感覚と最終回にかけての視聴者の盛り上がりは昨年の『カルテット』のときとよく似ている。

先週放送された第9話は、これまで1話完結のフォーマットで進んできた中で、シリーズ全体の謎だった「赤い金魚」の謎が解き明かされるエピソード。六郎(窪田正孝)がずっと抱えてきた秘密も破裂寸前となる。サブタイトルは「敵の姿」。
今夜最終回「アンナチュラル」連続殺人犯は「不条理な死」そのものだった。どうなる異常殺人犯との決着
イラスト/まつもとりえこ

犯人は26人連続殺人犯!?


中堂系(井浦新)の恋人、糀谷夕希子(橋本真実)を殺した連続殺人犯は、第8話の火災現場から助け出された男・高瀬文人(尾上寛之)だった! 

火災現場の隣で見つかった女性の遺体から「赤い金魚」が見つかり、UDIラボのミコト(石原さとみ)らは彼女の死因を探る。中堂の恋人の死の謎を解き明かし、連続殺人犯を見つけるためだ。しかし、刑事の毛利(大倉孝二)は「赤い金魚」があった遺体の死因がバラバラであり、連続殺人であるとは考えられないと言う。


死因がバラバラなのは当然だった。犯人の高瀬は、アルファベットの26音を埋めるようにそれぞれの頭文字を持つ死因・凶器を選んで若い女性ばかり26人を殺していたのだ! 「犯人は毎回犯行の手口を変えている。殺しを楽しんでいるなら何でもありだ」という中堂の直感は正しかったということになる。「赤い金魚」とは、女性の口腔内に動物用のおもちゃ「おさかなカラーボール」を押し込んだ跡だった。

当初、UDIラボは女性の死因を「ボツリヌス菌」と特定するが、それを六郎から聞いたフリージャーナリストの宍戸(北村有起哉)は一笑に付す。「B(Botulinum)はもうやった」というのだ。
彼は高瀬と高瀬の犯罪のことを知っており、女性たちが殺された記事をさまざまな雑誌に売り飛ばしていた。彼が第8話のラストで歌っていた不気味な「ABCの歌」はこの事件のことだったのだ。

「夢ならばどれほどよかったでしょう」


第9話では、10年前の中堂と夕希子の出会いから残酷な別れに至るまでの様子も描かれた。定食屋で出会い、見晴らしの良い高台でデートする2人。夕希子が嬉しそうに最初の絵本「茶色い小鳥」を見せるシーンで、普段はエンディングで流れる米津玄師「Lemon」が流れる。「夢ならばどれほどよかったでしょう 未だにあなたのことを夢にみる」という歌い出しの歌詞は、夕希子を失った中堂の気持ちそのものだ。これほどまでにぴったりな曲はない。


米津はインタビューでこの曲をドラマの脚本にあてはめて作ったわけではないと語っている。もともとは「傷付いた人を優しく包み込むようなものにしてほしい」というオーダーを受けたが、曲作りの最中に自身の祖父が亡くなったことで「『あなたが死んで悲しいです』とずっと言ってるだけの曲になった」という(ナタリーより)。だからより曲が痛切に響くのだろう。また、米津はこの曲を「踊るようなリズムで人間の死をなぞるような曲」と表現しているが、まるでミコトたちUDIラボの仕事ぶりをそのまま表しているようだ。

夕希子が描いた「茶色い小鳥」は、「宝石のような鳥たち」の中の孤独な「茶色い小鳥」の物語だ。茶色い小鳥は死んでしまい、大きな美しい花となる。
「どういう理屈だ?」と問う中堂に、「理屈じゃないの」と笑う夕希子。

「あったかくて、いい匂いがする場所で、きれいな花になれたら、幸せだと思わない?」
「生きてるうちに幸せになれないもんか」
「幸せにしてくれる?」

夕希子の逆プロポーズを思い出しながら解剖を続けた中堂は、解剖が終わると一人で嗚咽する。彼は夕希子を幸せにすることができなかった。彼女の遺体が見つかったのは、あったかくも、いい匂いもしない、スクラップ置き場。中堂の無念はどれほどだったろうか。想像しようと思っても、しきれない。


「犯人を見つけ出して殺しても何も変わらない。死んだものは生き返らない。きれいな花になることはない。理屈ではな」

ミコトから「私たちは法医学者です。法で落とし前をつける」と犯人に報復しないよう念押しされた中堂の答えだ。理屈はわかっている。
だが、中堂の心には夕希子の言葉が宿っていた。そう、「理屈じゃない」のだ。犯人が高瀬だと知った中堂は、高瀬のもとへ一目散に走り出す。

犯人は「不条理な死」そのもの


ミコトと中堂は現場に残された蟻の死骸に不審な点を見つける。ここからのスピーディーな謎解きは圧巻だ。蟻の死骸からは蟻酸が検出されていたが、蟻は蟻酸を出さないクロナガアリだった。蟻酸はホルムアルデヒドが酸化することによって発生する。ホルムアルデヒドは水に溶けるとホルマリンになる。ホルマリンは遺体解剖に使うため、死因としては完全に盲点だった。犯人はホルマリンを点滴で投与して女性を殺害したのだ。六郎が宍戸から与えられた「F(Formalin)」というヒントに安易に頼らず、ミコトたちに自力で結論にたどり着かせているところが素晴らしい。

犯人は不動産業者の高瀬だった。遺体の女性、橘芹那(葉月みかん)はカフェを開くのが夢で、店舗にする物件を探していたときに消息を断っていた。しかし、高瀬は火災に巻き込まれて意識不明だったため、容疑者から外されていたのだ。だが、実際の犯行は火災のずっと前だった。盲点という意味で、ホルマリンと高瀬の存在は重なっている。

高瀬は「不条理な死」そのものだ。被害者の女性は全員、若い女性だった。高瀬は人生の転機を迎え、明るい未来へと歩みだそうとした瞬間を狙って殺していたのだ。被害者にとっては不条理きわまりな死ということになる。高瀬の動機は不明だが、たぶん動機などないのではないだろうか。「不条理」なのだから。

第1話で中堂に「敵は何だ?」と問われたミコトは「不条理な死」と明確に答えている。「不条理」とは「筋道が通らないこと、道理に合わないこと」という意味だ。ミコト自身、親に一方的に殺されそうになった子どもという「不条理な死」の体験者だった。「不条理な死」の理由を解き明かし、次なる「不条理な死」を防ぐことがミコトの目的であり、『アンナチュラル』というドラマのテーマでもある。

宍戸は犯人のことを「きわめて慎重で優秀な人間」と評していたが、高瀬が聴いていたのはブラームスの16のワルツ の一つ、ワルツ変イ長調第15番,Op.39。ブラームスは慎重な完璧主義者だったことで知られている。彼がブラームスを愛好しているのは、その完璧主義者ぶりが気に入っているのだろう。ツイッターで視聴者に指摘されていたとおり、イ長調の西洋題は「in A-flat major」で、最後に「A」の項を埋めることができた高瀬が悦に入りながら聴くのにふさわしい。

中堂は高瀬の家に乗り込むが、すでにもぬけの殻だった。中堂を追った六郎は、高瀬の家で遺体をバラバラ(Asunder)にした痕跡を見つける。そして高瀬本人は……警察にいたミコトと神倉(松重豊)の前に現れる! 自ら出頭して警察に身柄の保護を求めたのだ。
今夜最終回「アンナチュラル」連続殺人犯は「不条理な死」そのものだった。どうなる異常殺人犯との決着
イラスト/まつもとりえこ

そして今夜最終回──


最終回に向けて謎はまだ残されている。

一つは宍戸と事件のかかわりについて。宍戸は高瀬と親しい間柄で事件の全貌を把握しているが、犯行そのものにもかかわっていたのだろうか? そして、なぜ六郎と接触し、中堂に高瀬のことを教えたのだろうか? 予告を見る限り、宍戸は特ダネとして高瀬と接していたようだ。宍戸の態度を見て、ゲスな編集者の末次(池田鉄洋)が怒りを隠していないところが興味深い。予告で中堂のキックを浴びていたのは宍戸のようだ(映像を繰り返し見てみた)。

連続殺人事件に関して高瀬の家のアルファベット表に残された筆跡が違うことからSNSでは複数犯人説が話題になっているが、それは深読みしすぎだと思う。同様に、黒幕の存在説も否定しておきたい。

もう一つは、フォレスト葬儀社の木林(竜星涼)の存在だ。木林は中堂に「犯人、どんな顔してるんでしょうねえ?」と謎めいた言葉をかけていた。公式ツイッターでは「アンナチュラル最終回では、見たことのない木林さんが見られます。なかなかの衝撃ですよ」と予告されていた。気になる!

最終回では、六郎が『週刊ジャーナル』から派遣されていた記者だったという秘密もUDIラボのメンバーにバレてしまうようだ。六郎は「おかえり」と自分を迎えてくれた帰るべき場所を、また失ってしまうのだろうか? UDIラボそのものも危機を迎えるようだ。

最終回は今夜10時から。サブタイトルは「旅の終わり」。
(大山くまお)

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