自分の発言がネット上に大きく出てる! すごく目立ってるぞ!
おおおお!って、喜びアドレナリン放出して、自慢げにツイートすると。
恥をかくことになるかも。


ぼくも、自分が書いた記事が、検索順位一番になるのを見つけてニッコニコで自慢したら、
「ええー、こっちでは下のほうに出てるよー」
ってリアクション。あれーーー? ってことがあった。

パーソナライズの罠だ。
2009年12月4日、Googleが検索結果をパーソナライズすると発表した。
ログインの場所、使ってるブラウザ、ページ閲覧履歴、クリックしたページ、検索行動などなど、あなたをチェックして、あなた向けに検索結果をカスタマイズして表示するのだ。
もちろんGoogleだけじゃない。多くのWEBがそのようになっているし、そういう方向に進んでいる。
このパーソナライズの罠に警鐘を鳴らす本が『閉じこもるインターネット――グーグル・パーソナライズ・民主主義』だ。

あなたの行動や場所から、あなたが見たいものを推測し、フィルターをかけて、あなた好みのページを表示しようとする。著者イーライ・パリサーは、これをフィルターバブルと呼ぶ。
“我々は、あるせまい範囲の刺激に反応しがちだ。セックスや権力、ゴシップ、暴力、有名人、お笑いなどのニュースがあれば、そこから読むことが多い。
マラソン完走と書かれた友達の日記や、オニオンスープの作り方などの説明記事は「いいね!」ボタンをクリックすることが多いのでフィルターバブルを通過しやすい。”

これはエキサイトレビューで原稿を書いているとひしひしと実感する。
この記事も、もっとフィルターバブルで怖いことなるよって不安を煽りまくったほうがアクセスが伸びるだろう。
“これに対し、「タルブール、過去2年間最悪という流血の1カ月を経験」と題された記事などは「いいね!」ボタンをクリックしにくい。パーソナライズされた世界では、刑務所にいれられる人が増えているとかホームレスが増えているとか、重要だが複雑あるいは不快な問題が視野に入ることが減ってしまうのだ。”

新聞には、自分の興味のない記事がたくさん載っている。
“読者は昔から、政治関連の新聞記事を読まずに飛ばすのが普通だった”としても、トップページなど、一瞬は目にはいる。
“だから政治スキャンダルがあれば、世論に影響がでる程度に多くの人が知っていた。”
自分が読まなかった記事があることを体感として得ることもできた。
だが、興味のない記事がフィルターによって自分の目に入らなくなってしまったらどうだろう?
隠されていることを忘れてしまうかもしれない。

それだけではない。
カヤックという旅行情報サイトの例が登場する。

どこから収益を上げているのか?
収益源は2つ。
ひとつは、カヤック経由で航空券を買うと紹介料が払われる。
もうひとつは、あなたが、どういった旅行情報を調べたかというデータの販売だ。
「東海岸の情報を調べたあなた」というデータは、たとえば大手航空会社に売られる。
“あなたの行動が商品に”なっているのだ。

“ここで心配なのは、なにをどう考えて決定をくだしたのか、会社側に説明する義務がない点だ”
SNSや履歴の解析から、あなたは信用に足らないと分析される危険性だってある。
“ローンを返済しない人たちが好きなものを自分もたまたま好きだったせいで銀行から低く評価される”かもしれないのだ。
“過去のクリック履歴が未来を完全に規定してしまう世界だ”

三章でホイヤーの言葉が引用される。
“世界の「イメージをできるかぎり明確に把握するためには、情報以外のものも必要である……情報が通過してくるレンズについても熟知しなければならない」”

『閉じこもるインターネット――グーグル・パーソナライズ・民主主義』は、インターネットという情報ツールがどのようなレンズを装着しようとしているか、その仕組みと現状を知るためのひとつの本としてとても有効だ。(米光一成)

【関連】
『閉じこもるインターネット――グーグル・パーソナライズ・民主主義』:ハヤカワオンライン
危険なインターネット上の「フィルターに囲まれた世界」著者イーライ・パリサーの講演映像
IT社会の陥穽を指摘する問題提起の書:週刊文春WEB・山形浩生による評
「閉じこもるインターネット」の補足: パーソナライズとリアルタイムビッティングをごちゃまぜにして議論してはいけない:BLOGOS
「閉じこもるインターネット」で描かれたインターネットの形を変えつつあるパーソナライズの未来:Future Insight

【目次】
『閉じこもるインターネット――グーグル・パーソナライズ・民主主義』(イーライ・パリサー/早川書房)
はじめに
第一章 関連性を追求する競争
ジョン・アーヴィング問題/クリック信号/どこでもフェイスブック/データ市場
第二章 ユーザーがコンテンツ
世間一般という聴衆の興亡/新たな「中」/ビッグボード/アップルとアフガニスタン
第三章 アデラル社会
絶妙なバランス/アデラル社会/発見の時代/カルフォルニア島にて
第四章 自分ループ
「あなた」を表現するおそまつな方法/弱点を狙う/深くてせまい道/事件や冒険
第五章 大衆は関連性がない
クラウドの領主たち/友好的世界症候群/目に見えない選挙活動/細分化/対話と民主主義
第六章 Hello,World!
知者の帝国/新種の建築家/ご都合主義/500億ドルの砂の城/「どういうゲームをしているのか?」
第七章 望まれるモノを ― 望むと望まざるとにかかわらず
ゲイダーを持つロボット/すでに未来はここにある/理論の終焉/仮想世界でもタダのランチはありえない/変わる世界/失われつつあるコントロール
第八章 孤立集団の街からの逃亡
モザイク/個人にできること/企業にできること/政府と市民にできること
訳者あとがき
参考文献
原注
編集部おすすめ