漫画でも映画でもアニメでも絵本でもテレビ番組でも、いわゆる食事をするシーンや食べ物を食べるシーンはたくさん登場します。この、作品に登場する食べ物に焦点を当て、研究したのが今回紹介する「ゴロツキはいつも食卓を襲う フード理論とステレオタイプフード50」という本なのです。


フード理論とはどういうものなのか。これは、物語に登場している食べ物に注目すると、登場人物の性格や感情、置かれた状況を説明するのがわかるというものなのです。具体的には三原則にまとめられていて

1:善人は、フードをおいしそうに食べる
2:正体不明者は、フードを食べない
3:悪人は、フードを粗末に扱う

というものになります。例えば、どんな作品でもかまいません。食事をしているシーンで料理がひっくりかえされ、無駄になってしまったとします。たいていの場合、ばしゃーんとひっくり返したりしているのは悪人の方ですよね。
善人である主人公が自ら料理をひっくり返したり粗末にするシーンというのは、ほとんど思い浮かばないんじゃないでしょうか。

そしてこのフード理論的観点から作品を見るようになると、次のことに気づきます。「数多くの作品でよく似たフード表現が慣用句のように繰り返されている」ということ。そう、優れたフード表現は繰り返し繰り返し使われているうちに、もう○○が登場したら■■になるに違いない! という慣用句表現にまでなっているのです!

例えば、女の子が「遅刻遅刻!」といいながら、食パンを加えて道を走っているとしましょう。もうこれは、絶対に曲がり角で男の子とぶつかりますよね。さらに、その男の子が転校生だったりしますよね。
さらにさらに、その男の子が隣の席に座ることになって恋に落ちますよね。そう、これがフードの慣用句表現なのです。これを作者は「ステレオタイプフード」と呼んでいるのです。

この本にはそういった「ああ、あるある」「そうそう、確かにこういうフード表現が出たらこうなったら!」というステレオタイプフードを50種類紹介しています。前述の女の子が食パンを加えて走っていたら(略)もそうですし、タイトルになっている「ゴロツキが食卓を襲っている」もそうです。そう、ゴロツキは一家で食事をしているところに乱入して机をひっくり返したりしますよね。


この本にはステレオタイプフードが登場した具体的な作品名はほとんど出てこなく、それがまた「ああ、あるある!」感を増しているのが素晴らしい点だったりします。だって、具体的な作品名が出てこなくても、そのステレオタイプフードのお話を読むだけで、ありありとその情景が浮かんでくるのですから!

でも、中には具体的な作品名が挙げられているものもあるのです。そのうちのひとつが「動物に餌を与えるひとは善人だ。自分が食べるより先に与える人は、もはや聖人並みである」になります。どうです、この言葉から何が思い浮かびましたか? 「風の谷のナウシカ」のナウシカとテトが思い浮かんだんじゃないでしょうか。

この章では、ナウシカの登場によって、物語世界の各方面に与えた影響は大きく、「英雄的に大活躍するヒロイン」のひな形を新たに生み出したと断じています。
でも、そんなナウシカとフォロワーの違いをフード的に説明しているのです。それは「餌を与える行為」があるかどうか。そう、餌をあげるのはいい人なのです。ましてや、自分が食べるよりも先に餌を与える人は、かなりいい人=聖人並なのです!

宮崎アニメといえば、ナウシカだけでなく他の作品でも食べ物を美味しそうに食べているシーンが印象に残っているという人も多いでしょう。でも、今度からはよーく注意して見てください。美味しそうに食べているのは誰か。
食べ物を粗末に扱っているのは誰か。誰と誰が一緒に食べているか。そういう細かいところにまで気を遣っているので、宮崎アニメに出てくる料理はあんなにも美味しそうに、印象に残っているのでしょう。

ちょうど本稿が掲載される5月11日(金)は金曜ロードショーで「風の谷のナウシカ」が放映されます。食べ物に注目をして見てみてください。

この本を読んで目から鱗が落ち、実際に宮崎アニメやいくつかの作品を見てその通りだったので、さらに鱗が落ちまくりました。
もちろんここに挙げた以外の章の面白さも満点です。フード理論を念頭に置いて作品を読むと、面白い作品の多くは、食べ物描写の細かいところまで気を遣っているということがわかるでしょう。食べ物好きだけでなく、映画好き、ドラマ好き、漫画好きにもオススメです。
(杉村 啓)