“パズーは武器を持たない「活劇」の主人公、という矛盾した存在だ。まるで軍隊を放棄した日本の憲法のようだが、これはぼくは本気で言っているのだ。

というのは、『ジブリの教科書2 天空の城ラピュタ』に収録されている大塚英志『天空の城ラピュタ』解題の記述。
二つの対立するリアリズムが作中にある、という論を展開していく中で出てくる。
こう続く。
“戦後まんが史の中で武力を持たない和平大使だった手塚のアトムが正義のロボットとなり、『ナウシカ』のまんが版と同じ時期、「アニメージュ」の誌面を飾っていた『ガンダム』のモビルスーツが戦車の如き兵器として「リアル」にデザインされていたように、まんがやアニメーションの主人公たちがいかに「武装」していったかはやはりこの国の憲法の受けとめられ方の暗喩だと思う。”
この後、押井守による宮崎駿批判のテキストを引用し、「天空の城ラピュタ」は「活劇」と「リアリズム」の矛盾を「漫画映画」であることによって乗り越えようとして見せた作品であると読み解く。

『ジブリの教科書2 天空の城ラピュタ』は、文春文庫とジブリによるシリーズ。
4月に『ジブリの教科書1 風の谷のナウシカ』、5月に『ジブリの教科書2 天空の城ラピュタ』が出て、6月に『ジブリの教科書3 となりのトトロ』が出る。
大塚英志の解題は、宮崎駿と高畑勲のせめぎあいを軸にジブリ作品を読み解いていく連載になっていて、スリリングで興味深い。

『ジブリの教科書2 天空の城ラピュタ』は、他に、
・公開当時の宮崎駿インタビュー
・高畑勲のラピュタ記者発表資料
・音楽:久石譲インタビュー
・作画監督:丹内司インタビュー
・原画:二木真希子インタビュー
・原画:友永和秀インタビュー
・原画:近藤勝也インタビュー
・ラピュタ・アフレコ3日間密着レポ
・公開当時の記事再録
・宣材コレクション(カラー)
・ラピュタ、タイガーモスのカラー図解
・荒俣宏によるラピュタのシンボリズム解説
・金原瑞人による児童文学とラピュタ
・山本史朗によるラピュタと英国
・ヤノベケンジによるラピュタと大阪万博

など、読み応え十分。
鈴木敏夫プロデューサーの語る「借金を背負って発足した『スタジオジブリ』」に出てくる創作現場のエピソードがおもしろい。
シナリオを読んだ鈴木さんと高畑さんは、同じ感想を持つ。
“「話の構造がムスカの野望と挫折になっているよね。
これでいいのかな?」”
パズーをもっと主人公らしくするために年齢を少し上にするといいのではないか。そう宮崎駿に言いに行くと、宮崎駿は怒る。
「小学生に見せる映画だ。年齢を上げたら元も子もない!」
それで、そのまま制作がスタート。
鈴木敏夫は、ムスカは宮崎駿、ドーラは宮崎駿の母を投影していると考える。“キャラクターに自己や母親を投影しているなんて、本人にしたら恥ずかしいことで、人には言われたくなかったんでしょう”。
だから宮崎駿は怒ったのだ、と。
『天空の城ラピュタ』のおもしろさをいろいろな角度から再認識できる文庫本、オススメ。(米光一成)