大人気のミュージカル『テニスの王子様』(通称「テニミュ)2ndシーズンにて、主人公・越前リョーマが通う青春学園テニス部部長・手塚国光役を演じ、一躍脚光を浴びた俳優の和田琢磨。すらりとしたスタイルに甘いマスクは、“イケメン”というより“二枚目”といった風情。
かつては建築を専攻し、好きな作家は村上春樹、ブログは必ずパソコンで書くという、ちょっと文系乙女狙い撃ち感のあるアクターだ。

昨年末に「テニミュ」を卒業してからは、舞台『スペーストラベラーズside;Winter』の主演、松山ケンイチ主演の舞台『遠い夏のゴッホ』への出演などを重ね、実力派俳優へと着実にステップアップ。6月にはミュージカル『冒険者たち ~The Gamba 9~』(つまり『ガンバの冒険』!)への出演を控えている和田が、初めての写真集『TAKUMA WADA』を6月29日にリリースする。「テニミュ」を卒業した今の心境、写真集のエピソードなどについて、たっぷり語ってもらった。


───「テニミュ」卒業から半年たちました。ご自身で振り返ってみて、いかがですか?
和田 丸2年間やっていましたし、僕にとって2つ目の作品だったということもあって、僕の基礎を形作った作品でしたね。
自分の過去の話をするときは、必ず避けて通れないぐらいの重大なものだというのは間違いないです。
───ハードな2年間でした?
和田 お休みがなかったですからね(笑)。乗り切れたのは、同じチームメイトのキャストさんたちとの結束のおかげです。本当に人間性の素晴らしい方ばかりで、兄弟のように接していました。
───物語どおり、団体戦だったわけですね。
和田 自分でメンバーを選んだわけではなく、偶然集まった人たちで同じ方向を向いて2年間やることができた。
それは間違いなく自分たちにとって自信になったと思います。

四六時中、手塚でいなきゃいけない

───冷静で真面目、完璧主義のテニス部部長という手塚国光というキャラクターを、和田さん自身はどう捉えていましたか?
和田 やっぱり最初は、頑なで完璧な人間だと思っていたんです。それが何公演か演じていくうちに、チームメイトへの愛情とか彼自身の弱さが浮き彫りになってきましたね。あと、「テニミュ」をやっているときは、舞台上はもちろん、舞台上にいないときでも、そのキャラクターのように見られることが多いんです。稽古中もそうですし、ファンの方も、僕がいると「あ、手塚だ」って。
───和田さんと手塚が重ねて見られると。

和田 四六時中、手塚でいなきゃいけないんです。稽古のとき、スタッフさんに「青学(青春学園)、集めて」と言われます。気づいたら、まわりが僕を部長として見ているんです。普段の生活も、少し演じている部分はありました。そういう意味では特殊な環境でしたね。
───丸2年、休まず手塚だったわけですね。

和田 僕たちは主人公が通う学校、つまりホスト校ですから、ずっと出演し続けるんですけど、対戦相手の学校は公演ごとに変わっていくんです。相手校がいますから、できるようになっていることでも、いつも以上に練習しました。朝練だって、どのチームよりもやりましたよ。相手校のキャストさんたちに「やっぱり青学さんはすごい」と言われたまま公演が終わるまで頑張り続けよう、と声をかけあっていましたね。

───和田さんたち青学キャストのみなさんは、他校に対するライバル心はありましたか?
和田 他の学校の方はわかりませんが、僕たちにはありませんでした。なぜかというと、僕たちが絶対的な主役だというプライドがあったからです(微笑)。

───氷帝だろうが立海だろうがドンと来いと。
和田 そういう気持ちはありましたね。
───お話を聞いていると、やっぱり「テニミュ」は他の舞台とずいぶん違いますね。
和田 舞台というより部活ですよね。部活ミュージカルです(笑)。大石秀一郎役の平牧(仁)くんがインタビューで「いつの間にか、役の成長と自分の成長がリンクする感覚がある」と言っていて、たしかにそうだと思いました。

───それは演技の成長だけでなく、人間的な成長も織り込まれている?
和田 それが「テニミュ」の魅力のひとつだと思います。技術的な成長プラス、人間的な成長も、ファンの方たちにとっては魅力を感じる一部だったんじゃないでしょうか。
───そういう部分も部活っぽいですね。
和田 いい経験をさせていただきました。お休みのないまま、駆け抜けた2年間だったので!(笑)

お前が一番油断しとるやないかい!


───ゴールデンウィークに開催されたミュージカル『テニスの王子様』Dream Live 2013では、和田さんも久しぶりにステージに出られましたね。
和田 今回は手塚役ではなく、個人としての出演だったんですが……「帰ってきた」というより「立ち寄った」感のほうが強かったかな。卒業して大学に行ったOBが、ちょっと日曜の部活に立ち寄った感じでした(笑)。
───自分の成長を感じたりはしましたか?
和田 いや、ステージですっ転びましたので……(笑)。横浜アリーナの円形ステージで、お客さんが四方八方にいる中、手塚らしく「油断せずに行こう」(手塚の決め台詞)なんて思っていたら、バーン! って。「お前が一番油断しとるやないかい!」って感じですね(笑)。
───そもそも2年間手塚役をやっていて、転んだことなんてあったんですか?
和田 ないです、ないです。手塚の格好で転んだら一大事だったんですけど、自分の格好のまま転びましたから、ファンの方も「あ、和田さんが転んだ~」みたいな感じでした(笑)。

───完璧主義の手塚と、和田さんの素顔にはちょっとギャップがありそうですね。ブログの文章も端正ですし、キチっとした人なのかな、とも思ったのですが。
和田 文章を書くのが好きなだけで、普段からキッチリした人間というわけではありませんよ(笑)。文章は雑にしたくないんです、文字フェチ、活字フェチなので。
───村上春樹がお好きと聞きましたが、『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』は読まれましたか?
和田 はい。特徴のない主人公がいて、美女が出てきて、セックスする……ザ・村上春樹という感じの小説でしたね(笑)。大好きです(笑)。
───村上春樹以外に好きな作家などは?
和田 村上龍さんが好きです。『コインロッカー・ベイビーズ』にはのめりこみました。
───意外な感じですね。猥雑な世界で孤児たちが暴れ回るようストーリーです。
和田 「創造と破壊」がテーマなんですよね。今まで読んだ小説すべての中で、あれがベスト1です。読んでいて鳥肌が立ちました。18歳頃に読んだんですけど、当時シェアハウスしていたフランス人の友達に薦められたんですよ。

『コインロッカー・ベイビーズ』的な感性かも

───さて、和田さんの初めての写真集が発売されることになりますが、撮影は長崎で行われたんですね。
和田 はい、行ったのは初めてでした。すごくきれいな場所ですよね。天候にもすごく恵まれて。もっと“古き良き日本”みたいな風景かと思っていたんですが、写真を見ると外国みたいな感じがするんです。上手に撮っていただきました(笑)。
───長崎らしい坂や海、教会などのショットも多いのですが、路地裏のような場所で撮ったショットも印象的でした。
和田 ああいうゴチャゴチャした場所が好きなんですよ。以前、三軒茶屋に住んでいたときも、「三角地帯」という路地が入り組んでいて飲み屋さんがたくさんあるような場所が大好きだったんです。このロケ地も三角地帯を髣髴とさせるような場所でしたね。
───路地裏のどういう部分に惹かれるんですか?
和田 冒険心、好奇心がくすぐられるんです。田舎育ちなのと、建築を勉強していたこともあいまって、こういう人工的なものに惹かれるんでしょうね。
───『コインロッカー・ベイビーズ』的な感性かもしれませんね。こうした路地裏のショットが挟まれることで、“旅”感がよく出ている気がします。
和田 たしかに、一人歩きしているところを、知らない間に撮られているような感じがありました。

───以前、和田さんがブログで“旅”と“旅行”の違いを書いていたのが面白かったのですが、もう一度教えてもらえますか?
和田 僕にとって“旅”は逃避なんです。煮詰まったときとか、イヤになったときとかに逃げてしまうような。でも、そういうときに自分の知らない場所で知らないものに触れたりすると、すごく感覚が研ぎ澄まされていくのがわかるんです。普段生活しているとき以上に水を冷たく感じたり、おにぎりをすごく美味しく感じたり。でも、結局は現実からは逃げ切れずに、日常生活に戻らなければいけないんですけど……。村上春樹さんには、元の世界と別の世界を行き来する作品がすごく多いんですよね。僕はあれも“旅”だと思っていて。現実の世界で起こったことから、別の世界に逃げるようなところがありますが、僕が考える“旅”も、ちょっと似た感じかもしれません。
───では、和田さんにとって“旅行”とは?
和田 もうちょっとポップなもの(笑)。“旅行”は目的を持って楽しみを探しに行くようなもので、“旅”は偶然何かが起こったり何かを見つけたりするもの。そんな感じがします。
───村上春樹や村上龍の小説の登場人物って、定住しているイメージがないんですが、和田さん自身、ちょっと旅人っぽいですね。
和田 性に合うんでしょうね。自分の知らない場所に行くこととか、まったく抵抗ありません。
───今度、写真集を出せるなら、どこで撮影したいとか、ありますか?
和田 いえ、決めないのがいいんじゃないでしょうか? ぷらっと行って、そこで撮るみたいな(笑)。
───今回は東京、大阪、名古屋で発売記念トークショーが予定されていますね。
和田 関東以外のファンの方からもお手紙をいただくのですが、こうやって自分の写真集ができて、みなさんに来ていただくのではなく、僕が名古屋や大阪に行くことができるのは、ものすごくありがたいことですね。どんなお話をしようか、今から考えておきます(笑)。

(大山くまお)