『BRUTUS』(マガジンハウス)最新号(No.821)の特集は「BIZARRE PLANTS HANDBOOK 2 まだまだ珍奇植物。モードな園芸2016 開幕編。」

衝撃!珍奇植物「BRUTUS」キテレツ造形に再びマニア悶絶

これは、昨年(2015年)9月に出た珍奇植物特集の第2弾にあたる(第1弾レビュー)。

マニアの欲望に火をつける、キテレツな“造形の美”


なにゆえ、お前はそんな姿をしているのか?

思わずそんな言葉をかけてしまいたくなるのが、BIZARRE PLANTS(珍奇植物)である。あるものは奇妙にねじれ、あるものは錆びた鉄のような質感を持ち、あるものはまるで怪獣のような姿……。そのへんちくりんで、見るほどに味わい深い姿に夢中になる好事家は少なくない。私も、ささやかながら気に入ったものを見つけたら、時たま購入している者の1人だ。

本特集の扉ページでは、珍奇植物への欲望が以下のように説明される。

部屋にグリーンを置きたいなんて曖昧模糊とした想いではなく、コレ欲しい! と一度思ったら何が何でも手に入れたくなる欲望。
そんな極めてエゴ丸出しの趣味世界。同じ素敵なグリーンライフでも癒されない方の担当(後略)。


多肉植物専門店などに行けば、静かに、しかし熱い眼差しでお目当ての品をためつすがめつする珍奇植物愛好者の姿を見ることができるはずだ。確かにマニアックな世界である。しかし、そのキテレツな造形美を目の当たりにすれば、所有欲をくすぐられる方も少なくないのではなかろうか。

奇異なルックスにも意味がある


珍奇植物といっても、例えばアロエのように、馴染みのある植物ジャンルもある。道を歩けば、軒先に無造作に置かれていたりするし、ヨーグルトのトッピングとしても定着してる。
しかし、一口にアロエといっても、その種類は膨大で「これもあのアロエの仲間なのか!」と驚かされるものも多い。

鋸歯(トゲトゲ部分)が赤く、どこかクリーチャーじみたルックスの「アロエ カスティロニアエ」、葉がニラのように細長く、ワシャワシャと伸びる「アロエ コルトリリオイデス ウーリアナ」などは、言われなければ違う種類の植物と思うかもしれない。

あるいは蘭も(特に胡蝶蘭などは)、贈り物として人気が高く、日常的に目にする機会も多い。しかし、「珍蘭奇蘭。」と題されたページで紹介されるそれは、これまた「蘭と言われれば蘭かもしれないが……」というものから、まったく蘭には見えない不気味なものまでさまざま。よく知っているようでいて、じつはそのごく一部にしか触れてこなかったのだなと思い知った。なんせその数、2万5000種というのだから驚くではないか。


ラン科の植物は、植物の歴史上かなりの後発組で、地球上に登場した時にはすでに他の植物に場所を占領されていたため、無理やり生息域の隙間に入り込もうと進化した結果、現在の姿になったそうだ。例えば、「コリアンテス マクランサ」という食虫植物を思わせる見た目の蘭について、研究者の齊藤亀三はこう説明する。

虫をアロマオイルで誘って、バケツのような唇弁の中に落とし込みます。内側はツルツルと滑る壁になっていて、もがく虫に花粉をまとわりつかせるんです。

つまり、「コリアンテス マクランサ」の蘭とは思えぬルックスは、過酷な環境で確実に受粉させるためのもの。

でも、そのまま虫が中で死んでしまったら元も子もないので、ある程度もがいたら辿り着けるところに、ちゃんと脱出口が開いているんですよ。


私たちの目には奇異に映るその姿にも、すべて意味がある。こうした「機能」を知ることで、その造形がより魅力的に見えてくるのである。

珍奇植物Loversの凄まじいこだわり


その他にも、読みどころは多い。

例えば、元酒屋の地下にあるワインセラーを改造して熱帯植物を栽培する者や、あるいは、家庭用ワインセラーを改造して、難しい高地性植物の栽培をするツワモノたちを紹介した「植物とワインセラーの不思議な関係。」。自宅の真隣に、自宅とほぼ同じ大きさの巨大な温室を作ってしまった元植物学者など、ドイツの筋金入りのマニアを紹介する「ドイツ珍奇植物紀行。」などは、そのこだわりっぷりに半ば呆れつつも、やはり羨ましい。

それからもう一つ、馴染み深いところとしては、昔懐かしのジャポニカ学習帳の表紙写真を長年1人(!)で撮り続ける昆虫植物写真家・山口進のインタビューが面白い。
世界最大にして酷い腐臭を発することで知られる花「ラフレシア」を撮影すべくスマトラ島に赴き、花の前にバラックを建ててもらい2週間待機したエピソードなど、興味深い話が満載である。

ちなみに、ジャポニカ学習帳の表紙はきれいな花の写真が多いが、裏表紙には、珍奇植物が多数掲載されているという。また「現在発売中の『アフリカ編』は、珍奇植物愛好家にとってはまさにコレクターズアイテム!」とのことなので、その筋の方たちはチェックされたし。
(辻本力)