「さあ、海賊の時間だ!」
主人公・加藤茉莉香が宇宙海賊になることを決意し、ようやく、女子高生と宇宙海賊の兼業生活がスタート。今後の展開がさらに楽しみな、痛快スペースオペラ「モーレツ宇宙海賊」
佐藤竜雄監督へのインタビュー後編では、茉莉香をはじめとしたメインキャラクターやキャストについて。さらに、6話以降の見どころも伺いました。特別に、6話の先行カットもお見せします!
前編はこちら

――茉莉香は、ビジュアルだけじゃなく、声や芝居からも独特の格好良さを感じます。CVの小松未可子さんは、オーディションで決まったそうですが。声優としては新人の小松さんのどういった点に、茉莉香らしさを感じたのでしょうか?
佐藤 真っ直ぐさ、ですね。これは声質の問題だけではなく、今のこの時期にしか出せない声というところで。
僕が、わりと新人の子をヒロインにするのはどうしてかというと、芝居の上手い子はいくらでもいるんだけど、今しかできない芝居ってものが、欲しい時があるんです。
――「今しかできない芝居」とは、具体的にどういったものなのでしょうか?
佐藤 小松さんは、声優を初めて日が浅くキャリアもない分、目の前のことを一生懸命やている感じが、そのまま声に出てる。これから上手くなっていくと、そうしたものが無くなっていくのかもしれない。だからこそ、今その瞬間を切り取って、フィルムに固定したいなと。そうした映像と声のコラボを経て、この子(茉莉香)が見る宇宙はどういう世界なのか、この子が宇宙をどう進んで行くのか……。見ている人が、興味を持ってくれれば良いなと思ってます。

――茉莉香を見ていると、決断力や気っ風の良さが本当に魅力的で。僕は高校一年生の茉莉香より20歳も年上ですが、「この子の下なら、働いても良いな」と思えます(笑)。
佐藤 そうですか(笑)。「決断は自分のベスト。それを信じて!!」と、セリフでも言わせていますが、いつもベストの状態を選択していく子なんです。しかも、その決断を修正するのにも躊躇がない。

――周りには自分よりも優秀な人がいるし、自分が何でもできるとは思ってない。でも、自分が決断しなきゃいけないのなら、しっかり決める。そういう格好良さを感じます。
佐藤 主人公の茉莉香が万能じゃないってところが、今回の肝で。何もできませんからね(笑)。死んだ船長の娘だから海賊になれるって展開に、「海賊船の船長って血筋でなれるのかよ」と反発を感じた方もいると思うんですね。
ただ、そういうきっかけであったとしても、話の展開とともに「この子が船長になって良かったね」と、感じてもらえるようになったら良いなと思ってます。
――他のキャラクターについても伺わせてください。ある記事で、佐藤監督のお気に入りはチアキだというコメントを見たのですが。その理由は?
佐藤 チアキは、自分が一番になれないことを分かっている子なんですよ。自分に誇りはあるけれど、(海賊船の船長の娘で)周りは大人ばかり。自分より優れてる人もたくさんいるけど、そこで頑張ってる。
だから、同じ立場(船長の娘)なのに、すでに海賊船の船長になろうとしている茉莉香には、否定的なところから接していくんです。常に突っかかっていくような言動ばかり。でも、どんどん距離が詰まっていく過程で、彼女の本音が見えてくる……。そこが可愛いところかな。まあ、自分でそう設定してるんですけど(笑)。
――花澤香菜さんのお芝居も良いですね。

佐藤 今回のオーディションでは、(若手の)女性声優さんには、茉莉香、チアキ、マミと、これから出てくるグリューエルの4役くらいを、みんなにやってもらったんですよ。たぶん、花澤さんも茉莉香がメインのつもりだったと思うけど、とりわけチアキが良かったんですよね。
――花澤さんのお芝居のどういったところに、チアキらしさを感じたのですか?
佐藤 声がクレバーなんですよね。しかも、それだけじゃなくて、どこか愛嬌があるんですよ。
――確かに、チアキはドジっ子な面もありますし、ぴったりですね。茉莉香の同級生である遠藤マミに関しても教えてください。
佐藤 マミは、海賊になるという茉莉香の決断を理解し、応援もしてるけど、自分は宇宙に行くよりも、白凰女学院の芝生でお弁当を食べている方が良いなって子。そのへんを芝居で出してくれと注文したので、小見川(千明)さんは、最初はかなり混乱したはず。「なんで、この芝居にダメ出しをされるんだろう」っと思ったでしょうね。
――アフレコはすでに全話分が終了しているそうですが。その他に、キャラ作りやキャスト決定の過程で、特に印象に残っているキャラクターを教えてください。
佐藤 他は、わりとバランスを見ながら決めていきましたね。以前、一緒に仕事をした役者さんは、どんな芝居になるか予想してキャスティングした人もいるし……。あ、ヨット部副部長のリンの芝居は、意表を突かれました。
――CVは日笠陽子さんですよね。どういったところで意表を?
佐藤 日笠さんに関しては、音響監督の明田川(仁)さんの方でキャスティングして下さったんですね。リンは外見がボーイッシュなので、わりと乱暴で男前な感じかなと、漠然と思ってたんですよ。でも、芝居を聞いたら全然男前じゃなくて、結構チャラい。でも、面白かったんですよね。ハッカーという設定で、陰のあるキャラクターだと考えてたんだけど、単に面白がって(ハッキングして)る人間みたいで。最初の台本では、「俺」と言ってたんですけど、これは「私」だなと思って変えたり。リンはずいぶんキャラが変わりましたね。
――佐藤監督の作品に日笠さんが出演するのは初めてですか?
佐藤 初めてです。すごい元気な子ですよね。今回は女の子が多くて、しかもみんな同世代だったりするので、収録スタジオのロビーは女子校みたいでした。本当の女子校を知らないですけど。後半になって出てくるキャラもいますし、女子率は高まる一方な感じで(笑)。みんな口を揃えて、こんなに同世代の女性声優が集まった現場は無いと言ってました。
――では、役者陣のチームワークのようなものは自然に生まれた?
佐藤 はい。なんだかんだいって、主役の小松さんが中心になってたと思います。みんなが彼女の成長を見守るという形で、座長として機能していました(笑)。伊藤静さんなんかは、演じているミーサも茉莉香を見守る役ですけど、母のような目で見守ってましたよ。
――ベテラン勢では、百眼役の藤原啓治さん、クーリエ役の堀江由衣さんのキャスティングが、意表をついて面白いなと思いました。
佐藤 百眼は、普段の藤原さんって感じなんですけどね(笑)。堀江さんとは随分前から親しくさせてもらっているんですけど、本格的にキャスティングするのは今回が初めて。いつも可愛らしい役が多いんですけど、けっこう面白いことをやれる子なんで、せっかくだから、(可愛い役でなく)ちょっと外してやろうかなと。今回は堀江さんが兼役でいろんな役もやっているから、(第6話以降で)何をやってるのか探すのも楽しいと思いますよ。「ほっちゃんを探せ」状態で(笑)。
――探してみます(笑)。あとは、毎回、冒頭に流れる小山力也さんのナレーションも、スペースオペラっぽい雰囲気を醸し出してて大好きです。
佐藤 序盤でなかなか宇宙に行かなかった分、小山さんの声で宇宙を感じてもらえたのは、すごく助かりました。小山さんは、いつもスタジオに一番早く来て、練習をしてますから。さすがですよね。その誠実さで、今回は宇宙というものに向き合ってくれている。僕から何も言わずとも、願っていたものを出してもらえました。
――冒頭に流れるといえば、ももいろクローバーZの歌う主題歌「猛烈宇宙交響曲・第七楽章「無限の愛」」ですが。すごく不思議な曲で、放送前に聞いた時は正直、「なんじゃこりゃ?」と思ったんです(笑)。でも、アニメが始まって毎回見ていたら、不思議と馴染んできて……。
佐藤 そうなんですよ。僕も最初に聞いたときは、賛否両論ありそうだなと思いました(笑)。おそらく話の内容的にも、今くらいが、ちょうどしっくり来てる頃でしょうね。一方で、エンディングのNARASAKIさんの曲(「LOST CHILD」)は、「モーレツ宇宙海賊」がどんな作品かを、ももクロ的に表現してくれている。すごく対称的ですね。
――確かに、エンディングは1話から、すごくしっくり来ました。3月7日には、主題歌CDと同時に、Blu-ray&DVDの第1巻もリリースされますね。
佐藤 Blu-rayは全26話を7巻までに収めているし、価格設定もお得だと思うんですよね。特典の方でも、ドラマCDとかいろいろとサービスしているし(笑)。5話までを見て、面白いと思ってくれた方は買って頂けると嬉しいです。
――わかりました! では、6話以降の見どころを少し教えて頂けますか?
佐藤 5話の茉莉香はすごく格好良かったんですけど、弁天丸に乗り、大人の中に入っちゃうと大したことはないんで。下っ端から、やり直しですね(笑)。まあ、そのあたりの悪戦苦闘ぶりとか……。あとは、掛け持ち海賊なので、マミやヨット部の連中たちと疎遠になるわけではなくて。むしろ、宇宙に出たことで、人間関係がダイナミックに広がっていく。その様を見て欲しいです。意外とマミが重要な役だったりしますからね。
――物語はまだまだ続いていきます。この物語の終わりに、視聴者たちを、どんなところまで連れていき、どんな気持ちにさせたいと思っていますか?
佐藤 一言で言うと、宇宙って良いなあ、と。すごい単純ですけど。スペオペって面白いじゃん。ここまで行っちゃうんだっていう、そのへんの物語の弾み具合を楽しんで欲しいですね。おそらく、5話までを見てるだけだと、26話まで行っても、そんなに遠くまで行かないんじゃないかって心配してると思いますけど(笑)。まあ、宇宙の果てまでは行かないまでも、かなり遠くまで行きますから。一気に世界が広がっていく加速感みたいなものを、感じてくれたら良いなと思います。
(丸本大輔)