「もっと先へ___<加速>したくはないか、少年」
うおお、中二病チックでゾクゾクする表現だなおい! そもそも加速ってなによ!?
川原礫原作のライトノベル「アクセル・ワールド」がアニメ化されました。
「加速」の描写がいまいち映像にしづらいかった作品でしたが、見事にラノベらしい青春活劇とSFっぽさを融合させた映像になりました。

アニメはあんまりなー、というSFファン層と、SFって読まないしなー、というラノベアニメファン層をうまーく引っ張り込む作りになっているんですよ。
面白いSFギミックがわんさか出てくる、女の子たちはかわいい、主人公は熱血で成長していく……ワクワクしますな。

この世界のネットワークシステムがえらい面白いんです。ちょっと段階を追って説明します。
まず現実社会ではスマホやケータイをもって常時ネットと接続出来る環境になっていますよね。電話やメールはもちろん、インターネット検索もアップロードも可能。すごい時代ですよ。
これを携帯型ではなくメガネにして、自由に動き回れるようにしたアニメが『電脳コイル』でした。メガネにすることで眼前にヴァーチャルリアリティの世界が広がるので、あたかもその世界にいるかのように感じられます。しかし、あくまでも映像なので触れることはできません。
さらに踏み込んだのが『攻殻機動隊』や「マトリックス」などに出てくるインプラント直結型になります。
体に機械を埋め込んで、神経回路にネットの情報をダイレクトに伝える、という段階です。
現時点ではここはまだ可能かどうか見えない世界ですが、理論的にはできそうなのが恐ろしいところ。実際研究も進んでいるので「あり得ない」とはいえないのです。

「アクセル・ワールド」はさらにもう一歩進むんです。直結型も残っているのですが、それは行動半径が限られる、余計なものが流出(個人情報どころか考えていることまで!)しやすい、というデメリットがあります。
この世界では改良をほどこし、脳細胞と量子レベルの無線通信をする「ニューロリンカー」という機械を首に巻き、さらに高速で安全な身体とネットの接続を可能にする描写をしてしまったんです。
「脳」→「ニューロリンカー」→「インターネット」、ここが全部無線です。
さらにこれを便利に改良。メモやメールや電話など、ケータイ・スマホで出来る機能は全部ニューロリンカーで制御します。お金のやりとりも財布と持たず、ニューロリンカーの電子マネー化でお支払い楽々! 一人に一台ニューロリンカー!

もっとも「ニューロリンカー」の存在自体、今の量子の理論で可能かどうかは微妙なところですが、実際に可能であるとしたらどうすればいいのかはは一部のSFファンの間で話し合われています。
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実現可能かどうか検証するのは面白いですよこれ。既存の色々なSF作品のネタを引っ張りながら、新しい展開を見せてくれます。

「攻殻機動隊」などでもそうですが、実際にヴァーチャル世界に入り込むと脳はそちらの情報を受け取り続けるわけで、現実世界の情報、つまり五感は完全にシャットアウトされます。

主人公の少年ハルユキはデブで弱気で、いじめられっ子。目を覆いたくなるほど惨めな日々を送っており、現実社会を地獄だと言い放ち、ヴァーチャル世界に逃げ込みます。
でも人間全員がヴァーチャル世界に入れる時代なので、ここでもいじめはあって、せっかく作ったアバターも奪われブタのアバターに差し替えられている始末。彼は逃げて逃げて、一人でできるゲームのハイスコアを狙い続けるようになります。ヴァーチャルの隅っこの隅っこでこそこそがんばっちゃうんです。
便所飯ならぬ、便所バーチャルダイブ。体は無防備なのでこうするしかないんだな。

さて、量子単位での回路であれば負荷もかからないし、他の人が思考する1000倍のスピードで脳を反応させることが可能ではないか?という、この世界でも「無茶だよ、ありえないよ!」という考え方を可能にしてしまったのが、「ブレインバースト」というソフトウェア。
これが「加速」です。
一秒の1000倍ですから、16分以上。これはすごいですよ?!
と言っても脳が1000倍だからといって自分が1000倍で動けるわけじゃないでしょう? うん、そのとおり。思考が1000倍になるということ。

ここがまた生々しいんですが、例えば他の人の1000倍で行動してみるには周囲にあるカメラに入り込んで自分や周辺を客観的に見るなどの仕掛けが必要です。
そこもこの作品のうまいところで、学校や町中に「ソーシャルカメラ」があるので、どこでも監視出来る状態なんです。そこにアクセスして1000倍のスピードで脳をまわせば、これやばいですよ。
1000倍のスピードでカンニングもできるし、格闘技の一撃を見切ることもできるし、女の子のぱんつだって見られる。便利!
その便利もいくらでも使えるわけじゃない。回数制限があります。その回数を増やすために「ブレインバースト」の世界で同じ加速したやつら、バーストリンカーと戦い、勝つ必要があります。ここでの戦闘時間はまさに1000倍なので、現実世界では一瞬ですね。

ハルユキはこのプログラムを黒雪姫という学校のヒロイン的存在にもらうのですが、欲をふくらませることはしないんです。こんなに便利なのに。加速を便利に使うこともしません。
もっと純粋で、この地獄みたいな世界から救い出してくれたこと、その一点に深く感謝をして黒雪姫のためにバーストリンカーの戦いに出ることになります。


さてずらーっと書いてきましたが、これが映像になるとどうなのかは見てのお楽しみ。関東では金曜日に24:30から放映されています。
ヴァーチャル世界も面白いんですが、現実世界の描写が非常にユニーク。常時ニューロリンカーをつけているので、一人称視点になると画面の端にゲーム機みたいにゲージやらなんやらが視界に開いているんです。脳が直接ウィンドウを目の前に開いてるように見せているんですよ。
また現実からヴァーチャルリアリティにダイブする描写、加速した世界が唐突に訪れるシーン、バーストリンカーとしての格闘の世界、切り替えがきっちり描かれています。
中にはどこからどこまでが現実なのかわからなくなるような描写もあります。特に格闘世界(加速状態)での姿は、自分の深層心理の中にある強烈な思い、つまりトラウマから自動的に作られているというのもいやらしいけど生々しい。そっかー、脳波が直接つながるとそうなるのかー。丸見えかー。

SF的な面白さを持ち合わせながらも、どん底にいた少年が力強く拳を握って前に向かう熱血展開も見所。加速加速っていうけど、最終的にはやっぱり心の強さだよなあと深く感じさせられるアニメになっています。

しっかし、アニメになって主人公ハルがものっすごく、「さすがの猿飛」の肉丸くんみたいに可愛く見えて仕方ないんですが。デブカワイイです。
神風の術とか1000倍だったら使えませんか。

アクセル・ワールド 1(初回限定版)

(たまごまご)
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