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「昭和元禄落語心中」5話。知らざぁ言って聞かせやしょう

2016年2月11日 11時00分

ライター情報:杉江松恋

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「はなしか」が「しばい」をするから「鹿芝居」。その舞台が見せ場となった第5話が先週放映された。アニメ「昭和元禄落語心中」である。
雲田はるこ原作の漫画『昭和元禄落語心中』のほうでも動きがあり、最新刊の9巻が発売されたほか、それに続く10巻で物語が完結することが発表された。ファンにとってはいろいろ慌しい1週間だったのである。
『昭和元禄落語心中』雲田はるこ/講談社

ジャンボ鶴田の女装のようなもの


原作では第3巻の冒頭にあたる部分で、同期の相棒・有楽亭助六の企画で二つ目・前座だけが参加する鹿芝居を上演することになり、嫌々ながらも有楽亭菊比古(のちの八代目・八雲)も付き合わされる。しかし実際に舞台を踏んでみると、自分の一挙手一投足が観客の心を操っているという実感が湧きあがり、菊比古は初めて表現者としての快感を味わう。
そういう意味では重要な回だった。芸人の言葉に「キレイゴト」と「ヨゴレ」というものがあり、字義通りに芸の性質を指す。客を弄ったり、下がかったことを言ったりしないのがキレイゴトである。そのキレイゴトの菊比古が芸に開眼したのが芝居の舞台だった、というのが物語運びの妙味だ。

前回も書いたように鹿芝居は落語家の遊びとして人気があり、以前には頻繁に催された。ちょうど今、国立演芸場でも仲入り後に上演されているので関心がある方はどうぞ。
もっとも、あくまで余芸であるので菊比古のようなキレイゴトが拝めるかは保証の限りにあらず。鹿芝居について書かれたものも、素人役者ゆえのドタバタについて触れたものを多く見かける。喩えとして適切かどうかわからないが、往年の正月番組「新春かくし芸大会」で当時の全日本プロレスの所属選手たちが、しろうと芝居に興じていた(ジャンボ鶴田の意味のない女装!)。鹿芝居と聞くと私は、あれを思い出してしまうのである。

──私も昭和二十七年に、落語研究会のメンバーが神田立花で行なったのを見たことがある。演し物は『弁天小僧』。浜松屋店先の場の弁天小僧は故古今亭志ん生。なんだか海坊主か、ほうずきのお化けみたいで、あぐらをかいて、右の足先を左手で握って、グイと手前に引いたら、危く引っくり返りそうになったので、見ている方がびっくりした。
──稲瀬川勢揃いの場の方の弁天は故桂文楽(先代)。これは水もしたたるようないい若衆で、芝居もスムーズに進行していたが、赤星十三郎の柳家小さん(先代)が台詞を忘れて、赤い顔で、やたらに傘を上下して助けを求めていた。

ライター情報

杉江松恋

1968年生まれ。小説書評と東方Projectに命を賭けるフリーライター。あちこちに連載しています。

URL:Twitter:@from41tohomania

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