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「昭和元禄落語心中」6話。八代目有楽亭八雲の襲名問題

2016年2月19日 10時00分

ライター情報:杉江松恋

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アニメ「昭和元禄落語心中」が好調で、普段は聴かないはずの人からも落語の話題を振られる機会が増えた。たいへん結構なことである。アニメ公式ガイドブックも、初心者向けの落語本として親しみやすい内容になっている。放送で興味を持って実演も聴きたくなった、という人がお手にするのにはちょうどいいかもしれない。
『昭和元禄落語心中 アニメ公式ガイドブック』雲田 はるこ、ITAN編集部(監修/講談社

先週放映された第6話では成功した鹿芝居の後日譚が描かれた。前回も書いたように、鹿芝居で観客の視線を独占する悦びを知った有楽亭菊比古(のちの八代目八雲)は、ついに芸に開眼する。その後の流れが雲田はるこの原作にはなかったエピソードなども組み入れながら描かれたのが第6話の前半部だった。後半、前回は兄弟弟子の助六が口演していた「品川心中」を、菊比古が堂々と演じる。その高座が第6話のクライマックスとなった。

鹿芝居の起源について


前回は本が見つからなかったので触れられなかったが、「はなしか」の「しばい」、すなわち「鹿芝居」の起源について触れておきたい。六代目三遊亭圓生の著書『寄席楽屋帳』によれば、落語家がお座敷の余興として芝居の真似事をしたという例は、天保時代の初代金原亭馬生の逸話まで遡れるという。ただし、それが芝居小屋を借りての上演となったのは、1881(明治14)年12月20日から26日までの7日間に初代柳亭(のちに談洲楼)燕枝と六代目桂文治が肝煎りで催したのが一応の始まりと見なしていいだろうと圓生は言う。
同書の中には圓生自身が見聞した鹿芝居の滑稽な逸話がいくつも披露されている。三代目柳家小さんといえば、夏目漱石が作中で絶賛したことでも知られる名人だが、鹿芝居においては名優というよりも迷優の方であったらしい。

──なにしろ、やる役がみんな、『玄冶店』の与三郎とか、『菊畑』の虎蔵とか、『十種香』の八重垣姫とか、つまり、十五代目羽左衛門がやったような、いい男の役でなくっちゃァ当人もやりたがらない。それでいて、鼻はあぐらをかいているし、与三郎といったって、どうやってみても与三郎の顔にはならない……与太郎の顔だ……ほっかぶりを取って、顔を見せるとたんにお客がどッと笑うんですから、よほどひどい顔ですよね。(「滑稽鹿芝居」)

第6話では、弁天小僧を演じた菊比古の艶やかさに魅せられた女性ファンが、寄席にもやってくるというくだりがあった。たいへん残念なことに、現実の鹿芝居ではそういう色っぽい展開にはならなかったらしいのである。

ライター情報

杉江松恋

1968年生まれ。小説書評と東方Projectに命を賭けるフリーライター。あちこちに連載しています。

URL:Twitter:@from41tohomania

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