脚本:西田征史 演出:岡田健

唐沢寿明の登場でがぜん小気味いい展開に。
唐沢寿明にはスピードと熱と華がある。ドラマ「白い巨塔」(2003年)や映画「杉原千畝 スギハラチウネ」(15年)などのようなシリアスもキマるけれど、明るいコメディにも欠かせない。
唐沢演じる花山伊左次は、才能はあるものの性格がヘンクツ。
雑誌のカットを催促に来た常子(高畑充希)に対してへ理屈と大声で立ち向かい、ついには「憲兵を呼ぶぞ」とまで。
そこまで言われて帰ろうとする常子に「ほんとうに帰るのか」「説得してこそ編集者」「いかなる手をつかっても原稿や挿絵を描いてもらうようにしむけなければならない」などと言い出す。
そんな花山の性分を「めんどくさい方」とあっさり見切ってしまう常子。
一枚上手の常子に花山はごね続ける。「めんどくさい」とバッサリされてきっと悔しかったのだろう。
絵を描くには「気分が大事」だから今日は描かないと意地を張る花山に、常子は「賭けをしません」と持ちかけ、花山が描かざるを得ない状況にもっていく。やるもんだ、常子。
最初の出会いから常子と花山はみごとなコンビネーション。靴のかかとがとれて裸足で街を駆けていく常子とか、仕事が充実してない時に自慢話するはずだった清(大野拓朗)が、仕事がうまくいってるにもかかわらず自慢話しちゃうとかツッコミたくなるところもあったが、常子と花山の丁々発止の掛け合いが楽しくて、これからに期待が膨らむばかり。
ちなみに五反田(及川光博)は花山が苦手とカミングアウト。俳優同士は仲良しなのに。
常子は五反田とはセクハラコントを。これはお約束になるだろうか。
お約束といえば、69回は、仕事が軌道に乗って青柳家のために役に立っている清が使った「銭形平次」の「大変です!」ネタ。
1931年(昭和6年。「とと姉ちゃん」の現在が昭和16年だから10年前)に文藝春秋オール讀物号で連載がはじまった野村胡堂の「銭形平次 捕物控」が人気となって長期連載、何作も映画化、ドラマ化もされた。戦後首相になった吉田茂が「銭形平次」を愛読していたことが書かれた「随筆銭形平次」も青空文庫で読める。
子分の八五郎(ガラッパチ)が「親分、大変です!」と血相変えて駆け込んでくることが「銭形平次」のお約束。青空文庫をざっとみると9作目の「人肌地蔵」(1931年 12月号)で「親分、大變だッ」がみつかった。映像のほうが定番化しているのだろうけれど、原作でどれくらい「大変だッ」を言ってるか詳しく見てみたい、なんてことはまあどうでもいいが、せっかく雑誌が刷り上がったというのに、編集長・谷(山口智充)に大変なことが。どうなる、甲東出版!
(木俣冬)