ドラマ「ハロー張りネズミ」。サスペンス、ホラー、ロマンスなど、毎度ジャンルが変わることが注目されているが、「FILE No.6 残された時間」は、なんと主人公が替わってしまった。


五郎(瑛太)は、下痢という何ともシンプルな理由で主役の座をグレ(森田剛)に譲った。が、グレと依頼人・栗田(國村隼)の2人のロードムービー的な仕上がりは抜群で、1時間とは思えないほど、2人は馴染んでいた。それにしても、ゴールデン帯で本来の主人公である瑛太にウンコ漏らさせるとは、大根監督すげえ。
「ハロー張りネズミ」FILE No.6、なんと主人公が替わって『幸せの黄色いハンカチ』オマージュ
原作(6巻)

森田剛と國村隼のロードムービー



依頼人は、近所の中華屋の無愛想なおっさん栗田(國村隼)。生き別れになった娘の朋美(松本若菜)と息子の伸一(山中崇)を探して欲しいとのこと。しかし、栗田は捜査に必要な過去を一切語りたがらない。そして、捜査に同行したいと言い出す。

十年前に送られてきた手紙から、朋美の現在の住所を割り出そうとする最中、栗田は、殺人で服役していた過去を打ち明ける。2人はなんとか朋美の元に辿り着くも、息子の伸一の家に向かう途中で、栗田は持病の脳腫瘍で倒れてしまう。栗田の眼が見えなくなる前に、グレは再会させようと伸一の元へ車を走らせる。そして、伸一に「お父さんと会ってもいいなら、部屋の窓に黄色いハンカチをぶら下げておいてほしい」と伝える。


グレのオマージュは失敗だったのか?



今回の「ハロー張りネズミ」は、『幸福の黄色いハンカチ』オマージュだ。ロードムービー、刑務所上がり、そしてOKのサインに黄色いハンカチ。他にも、期限切れの免許証など、細かい共通点はたくさんある。


しかし、今話のポイントは「ハロー張りネズミ」が『幸福の黄色いハンカチ』をオマージュしたことではなく、グレ個人が『幸福の黄色いハンカチ』のオマージュをしたことに思える。

グレは高倉健が好きだ。その中でも、映画『幸福の黄色いハンカチ』が好きな様子。だから、「醤油ラーメンとカツ丼ください」と高倉健のモノマネをし、同じく高倉健好きの栗田のために、黄色いハンカチを掲げる名シーンを再現しようとした。

つまり、もともと『幸福の黄色いハンカチ』と重なる設定はたくさんあるのだが、グレ個人によって、より『幸福の黄色いハンカチ』感が演出されているのだ。これが、『幸福の黄色いハンカチ』を観たことも無い五郎だったらこうはいかない。

しかし、栗田の状況を何も知らない伸一は、黄色いハンカチをベランダに掲げることはしなかった。そこでグレは、栗田に「あったよ。黄色いハンカチがいっぱいあった」と、バレバレ嘘をつく。それを聞いた栗田は「不器用だな」とつぶやき、そのままこの世を去ってしまう。こうして、グレの幸福の黄色いハンカチオマージュは失敗に終わる。

そしてラスト、グレは栗田の思い出の地、多々戸浜に黄色いハンカチを大量に掲げた。


失敗こそが成功だ!



グレは口も上手いし、何でもそつなくこなすし、器用に生きている印象がある。今話でも、情報収集のために器用に嘘泣きで泣き落としに成功している。

しかし、栗田の事情を知った後、グレは小細工などせず、情報を収集するため、土下座で真っ向から頼み込んでいる。グレはここ一番、人情が絡むと、途端に不器用になってしまうのだ。だから、栗田の死に際に『幸福の黄色いハンカチ』のオマージュをしようとしても失敗する。嘘をついてもバレてしまう。

ラストの黄色いハンカチを掲げたシーンにしてもそうだ。黄色いハンカチは、そもそもOKのサインであり、人を弔うものでも何でもない。それでもグレは、自分がそうしたいから、栗田に喜んで欲しいから、その思いだけで黄色いハンカチを掲げた。オマージュとしては、別に上手く出来ているわけではない。

グレの黄色いハンカチオマージュは失敗に終わったが、そんな不器用なグレだからこそ、「ハロー張りネズミ FILE No.6 残された時間」の黄色いハンカチオマージュは、成功に終わったように思える。
(沢野奈津夫)
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