不公平で残酷な「運命」を受け入れる
「たとえ死んだとしても、俺の心臓で弟が生きられるなら、俺の死は無駄じゃなくなる。……つうのは、ただのやせ我慢だ。正直、不公平だろ。あいつだけ母親に可愛がられて、俺の分まで生きられる。まぁ、……これが俺の運命か」
頭に銃弾を受け、余命わずかの律(長瀬智也)は、心臓に重い病を持つ異父弟・サトル(坂口健太郎)に自分の心臓を与えようとする。
律を訪ねてきた麗子が、その真意を尋ねる。「俺はあんたが捨てた子で、サトルは父親が違う弟なんだ」――そう言えばいいのに、律は言わない。2人を交互に映すカットバックは、明らかにそう言うタイミングを探っている。だが、言わない。律の返事は「わからなくていい」。
「愛されずに育った子どもってそうなるのよね。私、よく知ってる。本当は愛されたくてたまらないのに、自分から愛なんかいらないって顔をするの」
8話で塔子(大西礼芳)が語った言葉が頭をよぎる。これまではそうだったのかもしれない。だが、9話での律はそうではない。律は天使になったのだ。
「俺は、生まれてきた意味がようやくわかった」
麗子のスキャンダルを執拗に追いかけるジャーナリスト・加賀美(六角精児)と出くわした律は、自分の秘密を打ち明ける。
「俺はなぁ、もうすぐ死ぬ」
こう語る長瀬智也の顔を見て驚いた。以前、4話のレビューで長瀬から生命力が溢れすぎていて、幸薄感が足りないんじゃないかと書いたことがある。だが、このカットの長瀬からはまったく生命力を感じない。頬がこけ、死相が漂っている。体重もかなり落としているんじゃないだろうか。役者ってすごいな。
麗子の不倫が原因で姉を亡くし、復讐の炎を燃やす加賀美に、律は静かに語りかける。
「俺は、自分が生まれてきた意味がようやくわかってきた気がしてんだ。弟と、おふくろを守るためだ」
「あんたは、何のために生きてんだ? 恨みを晴らすためか? そんなことのために生きてんのか、あんたは。せっかくヨボヨボになるまで生きられんのに。もったいねぇよ……もったいねぇ」
いいこと言うなぁ、律……。律の言葉が胸に突き刺さった加賀美は1人で号泣する。
ゴミ溜めに落とされた男・律
「なんでお前に心臓をやるかって、お前が俺の弟だからだよ」
律はついにサトルに真実を告げる。
「俺もお前と同じ、あの人の息子なんだ」
「だったら、今までなんで黙ってたんだよ。なんでお母さんに言わないんだよ!」
サトルの疑問ももっともだ。
ゴミ溜めで倒れた律が、一度は拒絶した凜華(吉岡里帆)に助けられるシーンでは、まばゆいばかりの光が2人を包み込む。そういえば2話で律は若菜(池脇千鶴)に双子を運ぶコウノトリの例え話をしていたが、そのときも「ゴミの山に落とされる」という表現を使っていた。無事に運ばれて幸せに暮らす兄弟についてどう思う? と聞かれた若菜の返事は「良かったねって思う」だった。律はこのときの若菜の返事の心境になれたのだろう。
凛華は律を「愛情にあふれた人」と表現し、こう語る。
「あなたのことを思って、あなたのために泣くなんて嫌。私はただ、あなたと一緒にいたいだけ。あなたのそばにいて、一緒に泣きたい」
律だって、できるのであれば、そうしたいはずだ。だけど、できないから苦しんだ。そして今、己の運命を受け入れたのだ。
その後、2人はホテルで一夜を明かすが、律は凜華にキスしようとして思いとどまり、何もしないまま朝を迎える。自分がキスをしたら(そしてそのまま一線を越えたら)、凛華はまもなく死ぬ自分に想いを残してしまい、サトルと結ばれることはますますなくなるだろう。律は凛華に対して深い愛情を示したわけだが、天使だと思えばそれも当然。天使には性がないのだ。前後のシーンは黒いTシャツを来ているのに、このシーンだけ律がなぜか白いTシャツを着ているのも象徴的だと思う。
先週のレビューで書いたように、登場人物たちが激しく感情をぶつけ合うシーンはほとんどなかったが、グッとくるセリフが多かった9話。この抑えられた感じが『ごめん、愛してる』らしさなのだと思う。それもこれも、何もかも受け入れて飲み込んでしまう律というキャラクターに負うところが大きい。
さて、本日9時からの最終回。律が捨てられた真実、サトルが抱えている秘密、突然現れた塔子の意味、律と凛華とサトルの関係、律と麗子の関係、律の残された命、これらすべてのことに決着がつくはずだ。
(大山くまお)