「インスタ映え」至上主義の時代、承認欲求との付き合い方を精神科医に聞いてみた

Instagramなどで「いいね!」をもらうことで承認欲求を満たすことが増えています。「インスタ映え」ばかりを気にする姿を揶揄する「インスタ蝿」という言葉も登場しました。
そんな時代に承認欲求とうまく付き合うにはどうすればよいか、精神科医の「シロクマ先生」こと熊代亨先生(@twit_shirokuma)に聞いてみました。

SNSと承認欲求が強く結びついている理由


――なぜ人は承認欲求を満たそうとするのでしょうか。昔からそうした欲求はあったのでしょうか?
「人間は昔から群れて生きてきた生物なので、人間関係にまつわる欲求は生得的に備わっています。ただ、人間関係のかたちが変わったり、欲求を満たすための方法が増減したりすれば、それに伴って欲求のかたちは変わります。現代社会は、旧来の社会に比べて人が群れて過ごすことが少なくなりました。核家族化、一人暮らし化、契約社会などの浸透による村社会の衰退、等々が昔と現代の違っているところです」

――時代に合わせて変わっていくんですね。
「そして次第に群れなくなり、群れるユニットも不明瞭になった現代社会では、所属欲求が満たしにくくなってしまいました。
所属欲求はしがらみ(たとえば家父長的抑圧)とも表裏一体でしたが、ともかく群れなくなった以上、所属欲求が満たせなくなったわけです。そのぶん、社会的欲求として求められるウエイトが承認欲求に傾いた、ということなのでしょう。こうした変化は20世紀前半の米国などでは始まっていました」

――Instagramが人気なのも承認欲求を簡単に満たせるからでしょうか。
「近年ではその承認欲求を満たすための手段として『モノの消費』が、最近は『コトの消費』が言われるようになりました。SNSやインスタは、承認欲求をみんな満たしたいという背景によってフィーバーしたと言えますし、それら自体が承認欲求を煽っているとも言えます。ただ、最近は承認欲求に加えて、シェアやリツイート等によって所属欲求を満たせることも周知されてきて、いろんな悲喜劇の要因となっているようには思います」

――承認欲求に振り回されないためにはどうしたらいいですか。

「この承認欲求が正しい/正しくない、といった区別をして考えるのは難しいと思います。ただ、承認欲求や所属欲求の虜になってしまわないためには、持続的にそれらの欲求が満たせる関係、欲求不満や行き違いが時にはあっても続く関係を持っておくことが大切だと私は思います。それらの欲求を求めるか否か、ではなく、その欲求の求め方の習熟度、巧さ、みたいなものを高めて上手に満たせるようになるには、多少の摩擦や不満があっても続いていく関係が大切です。オンラインでもオフラインでも、そういう関係を志向していくことを私はお勧めしたいです」


「いいね!」に左右されない人間関係をつくるには


「身も蓋も無いことですが、『いいね!』に左右されない人間関係をつくれるか否かは、小さい頃からの経験蓄積と、個々人の遺伝的傾向によって大きく左右されます。反面、持続的な人間関係の経験蓄積は生涯にわたって続くので、子どもなら、友達関係でも部活動でもなんでもいいので、自分の居場所、自分にとっての先生、みたいなものと長く付き合えればそのぶん上手になります。若者もだいたいそうです。
私も、10代から20代、20代から30代でだいぶ変わりました。そのカギになったのは、いろんな人との長い付き合いだと思います」

――人間関係の実践あるのみということですね。
「だから『長い付き合いができそうな仲間や先輩や師匠』を見つけたり『長く属していられる居場所』を手放さなかったりするのが秘訣だと思います。それが難しいとおっしゃる人もいるとは思いますが、見つけたら、安易に捨てたりしないことです。少し不満があっても、なるべく信頼関係を続けていきましょう。これで全員が助かるわけでないとしても、これでいける人はかなりいるかと思っています」

――最後に質問です。
承認欲求を得る際の男性ならではの難しさはあるのでしょうか。男性のシロクマ先生だからこそ伺えたら嬉しい部分です。

「今はだいぶ問題が軽くなったかとは思いますが、ある時期までは、『モテ』が問題になったかと思います。つまり女性と付き合ったことがあるかどうか、付き合える資質があるかどうか。
『モテ』の問題というよりは、男性的なジェンダーにまつわる承認/所属の問題と言うべきでしょうか。女性が女性から降りにくいのと同じく、男性もまた男性から降りにくい状態がありました。
今の独身男性は、おそらく昔ほどではないのでしょうけど。でも、私からみれば女性に比べればややこしくないと思います。あの納豆がねばつくような、女性のコミュニケーションの難しさに直面しなくて良かったのは、私自身は助かったなぁと思ってはいます」


SNSを上手く活用しながら、実際に顔を見て関係を築く努力をしていくことが承認欲求を満たす最善の方法だということですね。承認欲求については熊代先生の著書「認められたい」でも詳しく解説されています。

熊代亨先生 プロフィール

精神科専門医。「診察室の内側の風景」とインターネットやオフ会で出会う「診察室の外側の風景」の整合性にこだわりながら、現代人の社会適応やサブカルチャーについて発信中。

通称“シロクマ先生”。近著は『融解するオタク・サブカル・ヤンキー』(花伝社)『「若作りうつ」社会』(講談社)『認められたい』(ヴィレッジブックス)など。

(ポンコつっこ)