◆職人の手仕事のように書き継ぐ
文芸誌だけで月に四冊出ている。季刊の雑誌を入れると、五冊出る月もある。
飯田章は「第十七回群像新人文学賞」を受賞した。今年が四十九回だから、実に三十二年前の受賞である。その受賞作を中心にこの単行本は出来ている。
今の時代に人の目を引くほど、刺激的な小説が入っているわけではない。寡作だが長く書き続けてきた著者の近作が入っているわけでもない。だが、コツコツと職人の手仕事のようにして書き継がれてきた小説が、ここにはある。
恥ずかしい話だが、私は飯田章という作家の小説を初めて読んだ。迪子(みちこ)と弘志と麻子の家庭の話を興味深く読んだ。タイガースに田淵がいて、JRが国鉄だった頃の話である。だが、不思議と古びた感じがなかった。そして、昔、こんな職人気質を思わせる小説が文芸誌にはいっぱい載っていたような気になるのは、私だけだろうか。
【書き手】
陣野 俊史
1961年長崎生まれ。文芸評論家、フランス文学者。ロック、ラップなどの音楽・文化論、現代日本文学をめぐる批評活動を行う。最新作に『戦争へ、文学へ 「その後」の戦争小説論』(集英社)。その他の著書に『フランス暴動 - 移民法とラップ・フランセ』『じゃがたら』(共に河出書房新社)、『フットボール・エクスプロージョン』(白水社)、『フットボール都市論』(青土社)など。
【初出メディア】
日本経済新聞 2006年5月31日
【書誌情報】
迪子とその夫著者:飯田 章
出版社:草場書房
装丁:単行本(265ページ)
発売日:2006-05-01
ISBN-10:490261605X
ISBN-13:978-4902616057