私たちはいつの間にか、人生を「勝ち組」「負け組」という物差しで測り、他人との比較で自分の価値を決めてしまいがちです。
精神科医・和田秀樹氏は、『落ち込まない 考えすぎない気持ちの整理術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)の中で、「他人との比較は不幸の始まり」だと指摘します。
今回は本書より一部抜粋・編集し、同窓会を前に揺れる一人の男性の例から、勝ち負けの呪縛を手放し、自分で自分の幸せを決める生き方について考えます。
■「同窓会に行きたくない……」自分は“負け組”だと悩む45歳男性
Fさんは、大学時代のサークル仲間から十数年ぶりの同窓会の案内をもらい、懐かしさに心躍りましたが、すぐに迷い始めます。
迷ってしまうのは、「会いたい気持ちはあるけれど、みじめな気持ちになるかもしれない」と思うからです。
地方都市在住のFさんは、現在45歳。独身で、交際をしている人はいません。地元の高校から東京の大学に進学、卒業後は都内の大手企業への就職を希望するも、内定が取れずに、親戚のツテを頼ってUターン就職しました。
現在勤めているのは社員30名の中小企業です。課長職にあるとはいえ、年収は大卒サラリーマンの全国平均より若干少ないくらいです。
十数年前の同窓会では独身だった友人も、次々と結婚し、毎年送られてくる家族写真入りの年賀状を、いつもちょっと複雑な心境で眺めています。
また、同窓生には、都内の有名企業に就職した人もいます。中には部長や役員に昇進している人もいれば、高収入を得て、都心に住んでいる人もいます。
「自分のような負け組は、昔のように打ち解けて話ができないかもしれない」
そんな思いにとらわれて、なかなか出欠の返事を出せなくなってしまったのです。
■他人との比較は不幸の始まり。無意味な「勝ち負け」の呪縛
このように、ものごとをつい「勝ち負け」で考えてしまうことがあります。
しかし、勝ち負けと関係のないものまで、勝ち負けで判定して、優越感に浸ったり、敗北感で落ち込んだりするのはナンセンスです。
「他人との比較は、不幸の始まり」といわれますが、実にその通りです。Fさんは自分を負け組だと思っているようです。
Fさんに問いたいのは「あなたは今の生活には不満しかないのですか? 幸せではないのですか?」ということです。
■都会の“勝ち組”より幸せ? 地方暮らしの充実したリアル
40代男性の未婚率は、2020年国勢調査人口等基本集計によれば、40代前半で29.1パーセント、40代後半で27.2パーセントです。4人に1人は未婚ですから40代で独身など別に珍しくはありません。
また、Fさんの勤めている会社は、和気あいあいとした家族的な雰囲気のある会社です。
ノルマがあるわけではなく、営業成績を社員同士で争うこともなく、皆で協力して業績を伸ばしています。Fさんはそんな部署のリーダーとして、部下からも慕われています。
それに、大都市ほど物価は高くなく、数年前に相次いで亡くなった両親の家に住んでいるため家賃も要らず、生活に困ることはありません。休みに旅行をしたり、月々預金したりする余裕もあります。
自分の趣味に結構な額のお金をかけても、誰にも文句はいわれません。隣近所は子どもの頃から交流のある人たちばかりで、地域のお祭りなどにも、幼馴染と積極的に参加して楽しんでいます。
家から15分ほど歩いたところにある小さな池には冬になると渡り鳥も飛来してきます。そんな風景に心和ませながらの散歩は、Fさんの休日の楽しみの一つです。
このようなFさんの生活は、Fさんが「勝ち組」と思っている人たちから見ると、うらやましく思えるかもしれません。
大企業に勤めていれば、苛烈な出世競争に巻き込まれることもありますし、社内で心を許せる人がいないことも珍しくありません。
首都圏では、すし詰めの電車通勤にも、耐えなければなりません。都会に住んでいると、隣に住んでいる人の顔さえ知らないのは普通のことで、ご近所との交流などありません。
首都圏は、住宅費にしても、子どもの教育費にしても高額になりがちで、決して生活が楽なわけではありません。
Fさんの暮らしと「勝ち組」の暮らし、どちらを取りますかと問われても、答えられないのではないでしょうか。
■「自分で自分の幸せを決められない」ことの危うさ
ここで先のFさんへの問いに戻りますが、Fさんは少なくとも自分が不幸だと考えてはいないし、今の生活に大きな不満を抱いているわけでもなさそうです。
ただ、久しぶりに会う同級生のことを考えて、自分を「負け組」だと思ってしまったのです。
そうならば、厳しい言い方になりますが「自分で自分が幸せかどうかを決められない」という主体性のなさや「誰かより上にいることで安心したい」という判断を見直すべきです。この書籍の執筆者:和田秀樹 プロフィール
1960年大阪府生まれ。東京大学医学部卒。
東京大学医学部卒附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学学校国際フェロー、高齢者専門の総合病院である浴風会病院を経て、現在は精神科医。 国際医療福祉大学教授、ヒデキ・ワダ・インスティテュート代表。一橋大学経済学部・東京医科歯科大学非常勤講師。川崎幸病院精神科顧問。和田秀樹こころと体のクリニック院長。立命館大学生命科学部特任教授。
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