総合型選抜(旧AO入試)に関心を持つ高校生や保護者が増えています。一方で、「全国大会レベルの特別な実績がないと無理なのでは」「高校中退や不登校の経験があると不利になるのでは」と不安を感じる人も少なくありません。


今回お話を聞いたのは、高校中退・高卒認定試験を経て、神戸大学に総合型選抜で現役合格した嶋崎まあやさんです。現在は大学に通いながら、総合型選抜に特化した塾「キャリナビ」を運営しています。

「カナダ留学」や「スポーツ強豪校」という一見華やかな経歴を持つ嶋崎さんですが、その実態は「学校の空気になじめず、うつっぽくなって居場所を失った」という、誰もが抱える地続きの挫折から始まっていました。

一見ネガティブに見える「レールを外れた経験」を、どうやって大学合格、そして未来への原動力に変えたのか。総合型選抜の本質である「自分の人生を言語化する力」についてお話を聞きました。

■強豪校での挫折——「みんなと同じ」になじめず、心をすり減らした日々
幼少期からアルペンスキーに打ち込んできた嶋崎さんは、全国を目指す選手が集まる強豪校へ進学しました。しかし、入学してすぐに強い違和感を抱くようになったといいます。

「私は強豪校に入れば、1人の選手として競技を追求できると思っていました。しかし実際には、競技そのものよりも部の伝統や上下関係が重視される場面も多く、入学前に思い描いていた環境とのギャップを感じるようになりました。

監督やコーチが『これをやりなさい』と言えば、生徒は『はい、分かりました』と従う。練習メニューに対して、『なぜこれをするのか』と問い直す空気もありませんでした」

その環境に適応できる選手もいましたが、嶋崎さんにはどうしても「自分で考えることを放棄させられている」ように感じられて苦しかったそうです。周囲に合わせられない自分を責め、毎日義務感だけでスキー板を履く日々。
全国大会を見に来た母親には、後に「あの頃のあなたはうつ状態だった」と言われたほど、精神的に追い詰められていきました。

その後、家族で何度も話し合い、嶋崎さんは高校1年の終わりに退学を決意します。外から見れば「強豪校からのドロップアウト」でした。

「当時の私は、いわば居場所を失った不登校生と同じです。『この先どうなってしまうんだろう』という強い不安しかありませんでした」

■カナダで知った「自分で決めて、自分で責任を取る」という自由
高校を辞めた後、宙ぶらりんになった嶋崎さんは「このまま終わりたくない、最後は世界でやり切りたい」という一心で、カナダのスキークラブへ渡ります。しかし、そこでの経験が彼女の人生観を180度変えることになります。

ある日の練習で、現地の子がコーチに向かって「このトレーニングは何のためにやるんですか?」と普通に質問していました。日本では反抗的だと怒られかねない行為です。さらに驚いたのはコーチの返答だったといいます。

「『これはコーチ陣が考えた提案だ。でも、やるかやらないかを決めるのは君自身だよ。やる自由も、やらない自由もある。
その代わり、結果の責任は自分で引き受けなさい』と言っていたんです。目からうろこが落ちました」

教育とは、大人が決めたルールに盲従させることではない。「自分で考え、選び、その結果を引き受ける経験」を積ませることなんだ——。この時、嶋崎さんが高校時代に抱いていたモヤモヤの正体が「自分で考えて選択させてもらえない苦しさ」だったのだと、初めて点と点がつながりました。それと同時に、自分の中に教育への関心が芽生えていったそうです。

■総合型選抜は「すごい経験の品評会」ではない
帰国後、嶋崎さんはこの気付きをベースに「人が主体的に育つ教育とは何か」を大学で学びたいと考え、総合型選抜という入試スタイルを選択します。

受験した神戸大学の入試は、評定平均(学校の成績)による足切りがなく、高卒認定試験の資格があればフラットに評価してくれる制度でした。学校の調査書がきれいでなくてもチャンスが開かれているという事実は、当時の彼女にとって大きな救いだったといいます。

しかし、ここで筆者には1つの疑問が浮かびます。「カナダ留学」や「スキー強豪校」という経験そのものが、合格の後押しになったのではないか? という疑問です。率直にぶつけてみると、嶋崎さんは首を振りました。

「よく総合型選抜は珍しい実績がないと受からないと誤解されますが、それは違います。
大学側が見ているのは、大学や学部が求める人物像と、自分の経験や学びたいテーマが合っているかどうか、それを言語化できるかどうかです」

経験の派手さではなく、「その経験から何を学び、大学での研究にどうつなげるか」というストーリーの深さが大事なのだといいます。

嶋崎さんの合格の理由は「スキーが上手かったから」でも「カナダに行ったから」でもありません。「高校中退という挫折を通じて、日本の教育にどんな課題を感じたか」「カナダでの体験を通じて、どんな教育の理想を見つけたか」という、世間的には「レール外れ」と言われるような経験を、自分の中で1本の「問い」として言語化できたからこそ、合格を勝ち取れたのです。

高校中退といった経験は、履歴書の上では一瞬ネガティブに見えるかもしれません。しかし嶋崎さんは、「その経験をどう受け止め、どんな意味を見出したのかは自分自身にしか語れません。私自身、総合型選抜の準備を通して人生を深く見つめ直すことができました」と語ります。

そのとき感じた葛藤やモヤモヤこそが、総合型選抜において他の誰にもまねできない強力な「志望理由」の種になります。かつての嶋崎さんのように、今レールの上で息苦しさを感じている受験生や保護者にとって、彼女の歩んだ道は大きな希望になるはずです。

お話を聞いたのは:嶋崎まあや さん
総合型選抜専門塾「キャリナビ」代表。神戸大学国際人間科学部在学。高校時代にアルペンスキーの強豪校へ進学するも、教育のあり方に違和感を抱き、高校1年で退学。その後、カナダで競技生活を続けながら「自分で考え、選ぶ」教育のあり方に触れる。
帰国後、高卒認定を経て神戸大学に総合型選抜で進学。現在は総合型選抜専門塾「キャリナビ」を開校し、通信制高校生や不登校経験者を含む高校生の進路選択を支援している。

この記事の執筆者: 廣田 美絵子
大手化粧品会社で人事部にて採用・教育・広報を担当。その後教育系のベンチャー企業を経てフリーランスで取材・編集・執筆を行う。キャリアコンサルタントでもあり、人のキャリアや生き方にフォーカスした記事執筆を得意とする
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