年齢を重ねると、「健康のために運動しなきゃ」「付き合いで断れず食べ過ぎてしまう」と、日々の生活にちょっとした義務感や無理が生じがちです。

72歳を迎えた作家の林真理子さんは、「健康のためだけに歩く」「ノリを合わせて無理に付き合う」ことをやめ、自分が本当に心地よく、退屈しないペースでの生き方を実践しているといいます。


本記事では、林真理子さんの著書『80代になるとたいていボケるか死ぬ。70代は神様から与えられた特別な時間』(幻冬舎)より一部抜粋し、退屈なウォーキングを「五感を刺激する街歩き」に変える工夫や、人付き合いの中で無理なく心地よく過ごすためのヒントを紹介します。

■健康のためだけに歩いてはいけない
ジムにあるウォーキングマシーン、あれって本当につまらない。散歩道の風景やテレビが見られるようになっていますが、私はすぐに退屈する。

それよりも実際の道を歩く、歩く。タクシーを使うことも多いが、帰りは出来るだけ地下鉄で帰る。最寄りの駅から自宅までは歩いて10分。長ーい坂になってます。以前小学生ぐらいの男の子が2人、自転車を押しながら、

「ここらへんの人も、本当にこんな坂、上るのかよ」

と大きな声で文句を言っていたことがあった。今の私は、

「あ、これは自然のウォーキングマシーン」

と考えながら歩く。夏の昼間は本当につらいのでバテるが、それ以外は黙々と歩く私。

街を歩くことは五感すべてが刺激されること。
ウォーキングマシーンでは得られない効果だ。

「この家、ついにマンションになるのか」
「この豪邸、表札変わった」

と発見もいっぱい。季節によってはバラやキンモクセイの香りが漂ってくる。

また一回都心に出て、その後移動しながら歩くようにするのは実に楽しい。私は銀座に用事がある時は日比谷駅で降り、東京ミッドタウン日比谷の中を通るようにする。

先日は日本橋でランチがあったが、あまりなじみのないところだったので、あちこち歩き日本のウォール街(兜町)をスマホで撮ったりした。帰りは銀座まで地下鉄で行き、そして東銀座まで歩いて歌舞伎座へ。

東京の地下鉄のひと駅というのは、ほぼ3ブロックぐらいの感覚だろう。ビルだけの通りも、どういう会社が入っているのか調べたりすると全く退屈しない。困るのはやはり最近異常な真夏の暑さだ。そういう時は地下道にすぐ入り、地上では建物の中を通り抜け、といっても無理はしない。つらくなったらタクシーに乗る、というのは贅沢でも何でもない。


私は近い将来、高齢者施設に入ることになると思うが、郊外や海辺、山の中は絶対にイヤ。狭くてもいいから都心の施設に住みたいと考えている。

毎日映画やお芝居を見る、というのは無理としてもデパートに行くことは出来るだろう。デパートの中を毎日歩いていたら、ない筋力もついてくるはず。そして画廊や展示会でいろんなものを見られたら最高だ。

■食べ過ぎてはいけない
あたり前のことではないか、と言われそうであるが、これが守れないことが多い。つい付き合いや見栄で、オーバー摂取になってしまう。

70代前半の男性だと、まだまだパワフルで食欲を誇示する人が多い。よくそういう人から焼肉を誘われる。そこいらの焼肉屋だと断るのであるが。

「予約半年待ち」などという言葉につられ、何度か足を運んだ。すると出てくること、出てくること。
カルビなんかも、よく言う、

「火をつけると燃え上がりそう」

脂肪のつきよう、残すのがイヤ、というよりも、肉で異様にハイになる仲間からはずれたくない、という気持ちになりつい食べ過ぎて次の日具合が悪い、ということになる。

そう、年をとってくると仲間はずれになるのがコワい。若い時、皆で飲んだ後、誰かが言う。

「締めのラーメンに行こう!」

少しも食べたくない。あんな脂っこいラーメンはまっぴらだと思うのに、よく六本木の裏道の店に行った。年をとってもあのようなことは起こる。

「焼肉行こう」
「トンカツ行こう」

ノリが悪いと言われても、はっきりこう言う。

「年とったから、油っこいものはもう遠慮します」

焼肉やトンカツを食べないからといって疎遠になるのはそれだけの仲なのだ。

私は太りやすい体質のうえに、食べることが大好き。食べることには相当のお金を遣ってきたと思う。私の願いは、いつまでも自分のお金で、好きなものを、好きなように食べたいということ。

とはいえ、めっきり食べる量は減った。
私はこの頃、お店の人にはっきりと言う。

「量を減らしてください」
「パスタはいりません」

その分、若い人に食べてもらうようにしている。そして手をつける前に、

「私の分、半分とって」

と頼むようにしている。最近はこういうのをフーハラ、フードハラスメントと言うらしいが、残りものをイヤイヤ食べさせるわけじゃない。自分が箸をつける前のものを、

「よかったら食べてくれませんか」

と聞くわけだ。いりませんと言われたら、あ、そうで終わり。たいていの若い男性は「喜んでいただきます」と言ってくれる。

こちらがご馳走するのだから、フードなんたらにそれほど気を遣わなくていいのではないかというのが私の考えである。

安いものでいいから、若い人たちにはご馳走する。そしてその空気を楽しむ。

もっとお金があったら、どこかのスポーツのクラブ員を焼肉屋に誘い、とことん食べてもらいたいと夢見る私である。
この書籍の執筆者:林真理子 プロフィール
1954年、山梨県生まれ。
82年エッセイ集『ルンルンを買っておうちに帰ろう』が大ベストセラーになる。86年『最終便に間に合えば』『京都まで』で直木賞、95年『白蓮れんれん』で柴田錬三郎賞、98年『みんなの秘密』で吉川英治文学賞、2013年『アスクレピオスの愛人』で島清恋愛文学賞、20年、菊池寛賞、22年、野間出版文化賞を受賞。18年、紫綬褒章を受章。22年、日本大学の理事長となる。
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