実は、子どもが溺れる事故を経験した保護者の8割以上が「悲鳴や助けを求める声が聞こえなかった」と回答しています(※こども家庭庁調べ)。溺れるとき、子どもは声を出さず、静かに沈むのです。
また、「泳げなかったから溺れたのでは?」「危険な場所で遊んでいたのでは?」と思う人も多いかもしれません。
しかし毎年、流されたサンダルや浮き輪、ボールを取りに行こうとして溺れる事故が後を絶ちません。今年も島根県で、ため池に落下したサッカーボールを拾おうとしたとみられる男子中学生が転落し重体となる痛ましい事故が発生しました。
「たった1つの物を取りに行く」という何気ない行動が、なぜ一瞬で命に関わる事故につながってしまうのか。水難事故予防の啓発活動を行うNPO法人 AQUAkids safety projectの代表理事・すがわらえみさんに聞きました。
■「泳げる子」ほど危ない? 親が知らない「あと一歩で届く」のわな
水難事故というと、「泳げない子が溺れる」と思われがちですが、実際には泳げる子どもでも事故に遭っています。泳ぐことと、水辺で安全に行動できることは、同じではないからです。
事故の引き金になるのは、泳いでいる最中だけではありません。サンダルや帽子、浮き輪、釣れた魚など、「何気ない落としもの」がきっかけになります。
▼「取れそう」が、一番危ない「水に流されたものを追いかけた(追いかけそうになった)ことがありますか?」。そう尋ねると、子どもだけでなく、大人でも経験のある人は意外に多くいます。
中には「子どもの浮き輪を追いかけた」という保護者や、親が流されたものを取りに水に入り、岸に残されて不安を感じたという子どもの声もありました。
▼なぜ人は危険でも追いかけてしまうのかでは、なぜ人は危険だと分かっていても、流されたものを追いかけてしまうのでしょうか。理由はシンプルで、「取れそうだから」です。
流された直後はまだ近くにあるため、「あと一歩で届きそう」「今なら間に合う」と思ってしまいます。その瞬間、人の視線は流されたものだけに集中し、足元の滑りやすい石や急に深くなる場所、速い水の流れなど、本来なら気付くはずの危険が見えなくなってしまうのです。
お気に入りの物やスマートフォンであれば、「取り戻したい」という気持ちはさらに強くなります。つまり、事故はその人が特別に無謀だから起きるのではなく、誰にでもある自然な心理が引き金になります。
だからこそ、その場で冷静に判断しようとするのではなく、水辺へ行く前から、流されたときにどう行動するかを決めておくことが大切です。
■「気を付けて」は伝わらない。出かける前に親子で交わすべき「1つの約束」
出掛ける前に「気を付けて遊んでね」と声をかけても、子どもには具体的な行動が分かりません。
そこで、とっさに思い出しやすい合言葉として伝えられているのが「サンダルバイバイ」です。流されたものが何であれ、「大切なものが流されたらバイバイする(追いかけない)」という意味が込められています。
実際、川辺でお弁当を食べていた子が割り箸を水に落とした際、隣の子が「サンダルバイバイだから追いかけたらダメ!」と声をかけて止めた事例もありました。割り箸であっても、「流された大切なものにはバイバイする」と理解できていたのです。
合言葉を繰り返し口にしておくだけで、いざというときの行動につながります。
▼「サンダルバイバイ」を家族の約束に流されたものを見た瞬間に「取れそう」と思ってしまうのは、大人も子どもも同じです。
だからこそ、水辺へ出かける前に家族で約束しておきましょう。サンダルも、帽子も、浮き輪も、流されたらバイバイする。モノはあとから買い直せますが、命は取り戻せません。
流された大切なものには、サンダルバイバイ。
その一言を親子で共有しておくことが、とっさの一歩を止め、命を守ることにつながります。
すがわら えみさん
NPO法人AQUAkids safety project代表理事。大阪芸術大学を卒業後、リクルートホールディングスに入社。その後、水泳インストラクターとして障がい児水泳指導に携わり、2019年に子どもの水難事故予防を目的としたAQUAkids safety projectを設立。
この記事の執筆者: 廣田 美絵子
大手化粧品会社で人事部にて採用・教育・広報を担当。その後教育系のベンチャー企業を経てフリーランスで取材・編集・執筆を行う。キャリアコンサルタントでもあり、人のキャリアや生き方にフォーカスした記事執筆を得意とする。









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