モータースポーツ界で年に一度のお祭りともいえる「スーパー耐久シリーズ2026 第3戦 富士24時間レース」が6月5~7日にかけて開催されました。本格的なレーシングカーから、フィットやヤリスなど街中で見かけるクルマ、さらにプロドライバーからジェントルマンドライバーが入り乱れて24時間を走り抜く、非常にエキサイティングなレースです。
近年、この24時間レースは各メーカーの実証実験の場となっており、「ST-Qクラス」はそれらの実験車が走るクラスになっています。
今回は、マツダのCO2回収システムと、IIJのデータ遅延に関する取り組みを紹介します。
マツダが目指すカーボンネガティブな未来
マツダは2035年に向けて、「走るほどにCO2を減らす」モビリティの実現を目指しています。その中核となる技術が、現在開発中の車載CO2回収装置「Mazda Mobile Carbon Capture」です。
大気中に残留し続けるCO2を削減するためには、排出量を実質ゼロにするカーボンニュートラルにとどまらず、CO2を能動的に減少させるカーボンネガティブへの挑戦が必要不可欠だとマツダは考えています。そのため、内燃機関の革新や電動化技術の追加、さらにはカーボンニュートラル燃料の普及と並行して、このCO2回収技術を組み合わせることでカーボンネガティブの達成を目指しているそうです。
排出ガスから効率的にCO2を集める仕組み
このCO2回収技術の大きな特徴は、大気中から直接回収するのではなく、濃度の高いエンジンの排出ガスからCO2を回収する点にあります。大気中のCO2濃度が約400ppmであるのに対し、ディーゼルエンジンの排出ガスには約12%ものCO2が含まれているため、より少ないエネルギーで効率的に回収できるようです。
CO2を捕集するための吸着剤としては、多孔質構造を持ち、構造的に安定しているゼオライトが採用されています。ゼオライトは熱を加えると吸着したCO2を脱離しやすくなる性質を持っているため、走行中に発生する排出ガスの熱を利用して吸脱着のプロセスをコントロールします。さらに、電動コンプレッサーを用いてシステムの流量や圧力を制御することで、脱離したCO2を専用のタンクに掃気・貯蔵する仕組みとなっています。
レースの舞台で証明された回収技術の進化
このシステムの開発は、モータースポーツの場を通じて着実に前進しています。2025年11月に開催されたスーパー耐久シリーズ第7戦において、マツダはレース車両に初めて装置を搭載し、排出ガス中のCO2を吸着するという最初の実証実験に成功し、84gのCO2を回収しました。
そして今回、富士24時間レースで行なわれた2回目の実証実験では、吸着器に脱離機能を追加し、貯蔵用CO2タンクを搭載して走行しました。このプロセスを24時間のレース中に繰り返した結果、マツダとして初めて走行中のCO2貯蔵に成功し、前回の約9.6倍にあたる合計804gのCO2を回収するという大きな成果を挙げました。
この実験では、市販車の一般的な利用を想定した回収目標値を上回る状態を一時的に作り出し、短時間ながら市販車においてカーボンネガティブとなり得る可能性を確認しているとのこと。
回収したCO2の再利用と今後の展望
回収したCO2のその後の利活用についてですが、CO2を車内で水酸化カルシウムと反応させて炭酸カルシウム化して取り出し、それを再生プラスチックやセメント、肥料などの有用な資源として再利用・固定化する案が検討されています。
今後の目標として、マツダは今年11月のレースでレーシングカーによる短時間のカーボンネガティブ達成を目指し、さらなる技術改良を進める予定です。また、こうした先進的な取り組みを一般の人々にも理解してもらうため、レース車両のサイドステップなどにLED表示器を設けてCO2回収状況をリアルタイムで可視化しているほか、レース会場においてMRやラジコンを活用した体験型コミュニケーションを実施しています。
これからのマツダの実験に注目しましょう。
IIJが考えるサーキットにおける通信の課題
サーキットではさまざまな電波が飛んでいます。通信事業者のIIJ(インターネットイニシアティブ)が、今回プレスルームで行なっていた実験は、モニター画面の遅延を限りなく少なくすることでした。
レース開催時のサーキットは、毎回数万人規模の観客が集まるほか、チーム(エントラント)による走行車両データの伝送や、メディアによる大容量の写真・動画アップロードなどで通信需要が急増します。しかし、レースがない日は通信量が大幅に減るため、ピーク時に合わせた高性能な通信設備を各サーキットが常設することは、大きなコスト負担となっていました。
IIJグループはこうした課題を解決するため、昨年からサーキットに特化したネットワークの実証実験に取り組んでいるのです。
ローカル5Gを活用した超高速通信の検証
2025年9月、IIJグループは富士スピードウェイにて、日本レースプロモーション(JRP)の協力のもと、スーパーフォーミュラの大会中にローカル5Gネットワークの通信検証を実施しました。この実証実験では、フォーミュラカー(SF23開発車両)に専用の通信端末を搭載し、最大290km/hという極めて過酷な環境下で検証が行なわれました。
結果として、高速走行する車両からのオンボード映像やテレメトリー情報(マシン情報)を低遅延で伝送することに成功し、270km/h走行時の基地局切り替え(ハンドオーバー)時にも通信が途切れないことが確認されました。IIJグループはネットワーク設計や基地局工事などを担い、この実証で得た知見をもとに、導入コストを抑えた「サーキット向けローカル5Gソリューション」の提供を開始しています。
大容量データ通信に対応した「共用ネットワーク」実証
今回は大容量データ通信に対応したネットワークの新たな実証実験を行ないました。この取り組みは、日本自動車会議所モータースポーツ委員会や国内主要サーキットが連携した、業界全体のインフラ最適化プロジェクトの一環です。
本実証ではウーブン・バイ・トヨタ(トヨタのモビリティ技術開発を担う子会社)が保有するネットワークを一時的に活用し、主に以下の3点を検証しました。
●チーム向け:オンボード映像や走行データの安定した大容量伝送による、戦略判断や安全性向上の支援。
●メディア向け:混雑時でも写真や動画のアップロード、記事更新がスムーズに行える通信品質の改善。
●低遅延動画配信:通信網内に配信サーバを設置し、外部回線を経由せずにサーキット内の映像をリアルタイム配信する仕組みの構築。
今後の展望と業界への貢献
今回の実証結果を踏まえ、今後はチームやメディアだけでなく、来場するお客様や運営スタッフを含む、すべての利用者が快適に使える通信環境への拡大が検討されています。この実験は筆者も多くのメリットが実感できました。プレスルームのWi-Fiが非常に快適で、ファイルのダウンロードも早くなって、かなり仕事の効率化ができました。通常、大勢の記者がWi-Fiを使うので、途切れたり、遅くなったりしてしまうのです。
また将来的には、複数のサーキットが広域ネットワークを共用する仕組みを作ることで、個別の設備投資コストを抑えながら、モータースポーツ業界全体のデジタル基盤を強化することを目指しているようです。
★★★
このように、サーキットはただレースをするだけでなく、社会を変えるテストも行なわれているのです。サーキット発のテクノロジーで、暮らしが快適になる日は近そうです。
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