かつて自動車と半導体を「お家芸」とした日本。現在も自動車は日本経済を支える重要産業ですが、経済安全保障という視点では、別の産業が日本の「盾」になり得るといいます。
他国が簡単には代替できない、日本が握る強みとは何なのでしょうか。

『空の地経学戦略 日本の経済安全保障と航空サプライチェーン』(伊藤恵理,鈴木均/日本経済新聞出版)から抜粋してご紹介します。
○「日本の盾」は何か

日本にとっての防衛上の「盾」は何か。1990年代のバブル崩壊前、日本のお家芸は自動車と半導体だった。しかし半導体は米国、韓国、台湾に競争優位を奪われ、自動車産業が残った。

自動車は経済の稼ぎ頭であるものの、他国産でも代替がきく製品であり、戦略的不可欠性を日本にもたらすものではない。自動車は輸出などによる「矛」ではあっても、他国のチョークポイントを握る「盾」にはなりきれていない。一方、半導体はパソコンやスマートフォン、戦闘機をはじめ国家防衛や生活必需品に不可欠な部品だ。

ミラーが『半導体戦争』において指摘するように、日本が握る半導体製造装置の技術優位は、容易に模倣できない国家的強みであり、同時に戦略的不可欠性でもある。精密な生産装置と工程管理、その一つひとつが日本の工業技術の結晶であり、他国がすぐに代替できるものではない。

2019年末に始まったコロナ禍は、その依存構造を白日の下にさらした。半導体価格の高騰と深刻な供給不足は、あらゆる産業を直撃した。
新車の納期は1年を超え、トイレの温水洗浄便座すら手に入らず、建設現場が止まった。背景にあったのは、世界同時多発的な在宅ワークと巣ごもり需要の爆発である。スマートフォンやノートパソコン、周辺機器の需要が一斉に跳ね上がり、サプライチェーンが悲鳴を上げた。

自動車も例外ではなかった。自動車のサプライチェーンといえば、海外に完成車を輸出する四角いRORO船(自動車運搬船)など海運のイメージが強いが、実はトヨタ自動車が他社よりも途絶リスクに強い秘密の裏側には、航空輸送があった。コロナ禍により半導体がグローバルに不足するなか、トヨタも2021年の自動車生産を前年比で減らしたが、他社よりも落ち込みを少なくできた。その理由は、通常時の海運と陸運に加え、工場を止めないために航空輸送も併用したからだ。

トヨタグループの総合商社、豊田通商は東北地方で最初の国際空港である仙台国際空港の主要株主の一つであり、地方経済を盛り上げると同時に、空のサプライチェーンの一翼を担っている。

○『空の地経学戦略 日本の経済安全保障と航空サプライチェーン』(伊藤恵理,鈴木均/日本経済新聞出版)

「空を制する者は、世界を制す」――。現代社会に不可欠な半導体とその製造装置、ノートPCやスマートフォン、医薬品・ワクチンなど貴重な戦略物資は、どれも航空機で運ばれている。そしていま、地政学リスクの高まりによって、空の覇権争いは激しさを増している。本書は、世界の「空のつながり」を、複雑ネットワーク分析の手法を用いて可視化し、地政学と経済安全保障を掛け合わせた「地経学」の視点から、アメリカ、中国、ヨーロッパ、ロシア、インド、中東、ASEAN、中南米諸国など主要各国の動向を解説する。
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