乃木坂46加入から5年目に突入し、ますます活躍の場を広げている井上和。映画『トイ・ストーリー5』では乃木坂46の現役メンバーで初めてディズニー&ピクサー作品の日本版声優に抜てきされ、キュートで仲間思いなデジカメのおもちゃのスナッピーを演じる。

さらに今年は自身初の大河ドラマ『豊臣兄弟!』(NHK総合ほか)にも出演予定で、キャリアの新たな扉を開く挑戦が続いている。そんな井上に“5年目の現在地”について尋ねると、「乃木坂46を“発信”するフェーズに入った」と語る。

■母親に一番に報告するもメンバーには…

 『トイ・ストーリー5』は、8歳になった想像力豊かで内気なボニーのもとに、タブレットのリリーパッドがやってくるという物語。子どもたちは画面に夢中で、ジェシーは「このままでは遊びの中で輝いていたボニーの笑顔が失われていく」と危機を感じる。再びタッグを組んだウッディとバズ、ジェシーはボニーの心を取り戻す大冒険へ。旅の途中で出会うのが、“ハイテクおもちゃ”のテック・トリオで、そのうちの一人が井上が演じるスナッピーだ。

 オーディション合格を聞いたのは、普段と変わらぬ日常の中でだった。「お仕事が一段落して『今から帰ろう』となり、メンバーみんなでエレベーターにぎゅうぎゅうになって乗ったんですけど、『井上だけ撮り物があるから別室に来てね』と呼ばれたんです。『なんだろう』と思いながら行くと、部屋に入った途端、カメラが回っていて。何が起きているのか考える間もなく、声優決定のお知らせが入った箱を『開けてください』という感じでした」。

 発表を聞いた直後、メンバーは帰らずに待っていてくれていたというが、母親に一番に報告したかったそうで、その場では伝えられずにいたとのこと。「結果を聞いて、急いでお母さんに連絡したのですが、一度目はつながらなくて…。
家に帰ってから改めて連絡し、報告することができました」と大切な日を振り返る。ちなみに、メンバーには言うタイミングを逃し続けてしまったそうで、「世間の皆さまに発表するタイミングで知ったメンバーも多かったと思います(笑)」と照れくさそうに笑う。

 井上が演じるスナッピーの持ち主は、ボニーと共に友だちの家に行くはずだったジェシーが、手違いでたどり着いてしまった牧場に住むブレイズという少女。スナッピーは、電池が切れ、長い間しまわれていたキャラクターだが、そんな背景を持ちながらも、ポジティブで明るい性格なのが魅力の1つ。自身とスナッピーの共通点を問われた井上は「グループで活動しているので、うれしいことがあったらメンバー同士で共有したり、一緒に喜んだりすることができるのですが、そんな時に100%で喜べるという点では、仲間思いで純粋で素直なスナッピーと似ているかもしれません」と話す。

 『ふしぎ駄菓子屋 銭天堂』で声優経験を積み、昨年は『スプリング!』で地上波ドラマ初出演にして初主演を務めるなど、芝居の道でも着実にステップアップしている井上。ところが、オリジナルの声優がいる吹き替えは、これまでの経験とは違う難しさを感じたと振り返る。

■乃木坂46を外へ広げた先輩たちの背中を追って

 「吹き替えるにあたって、どういう風にアプローチをしていくべきなのかすごく悩みました。オーディションで自分の声を認めていただいた点は大切にしたいと思いつつ、声帯を変えることはできないので、オリジナルのシェルビー・ラバラさんが演じるスナッピーの雰囲気を、すべて表現するのは難しい気がして。ただ、どのキャラクターも日本語吹替版だからこそ伝わる魅力が確実にあると、過去の『トイ・ストーリー』シリーズから感じていたので、スナッピーのキャラクター性を尊重しつつ、声を当てていきました」。

 特に井上が大切にしていたのは、スナッピーの話し方。「スナッピーはすごく明るくて、たくさんしゃべるキャラクターなので、その点を意識してほしいとオーディション時からディレクションがありました。
シェルビーさんのスナッピーもとても早口だったので、お芝居として大きなポイントだったかなと思います」と明かす。

 そんな井上の芝居は、驚くほど世界観に溶け込んでいる。ピクサーの生き生きとしたアニメーションに、井上のかわいらしいけれども芯のある声がマッチし、“初めまして”のキャラクターにもかかわらず、見る者を一瞬で虜(とりこ)にする。

 乃木坂46の現役メンバーで初めてディズニー&ピクサー作品の日本版声優に選ばれたことは、喜びとプレッシャーが入り混じった感情だったと井上。「乃木坂46は約15年続いているグループで、先輩たちが作ってくださった道があり、後輩たちには、それを汚さないように進まなければという怖さもあります。いろんな畑を耕してくださった先輩たちの姿を見てきたので、今回わたしが一番最初に新しい畑に足を踏み入れることができたのはすごくうれしかった。でもその反面、ここでしっかり頑張らないとというプレッシャーはすごく感じました」と打ち明ける。

 六期生が入って1年。乃木坂46加入から5年目に入った井上のまなざしには、先輩としてグループを引っ張っていく責任感もにじむ。そんな井上に「現在のフェーズ」を尋ねてみると、これまでとは違う立ち位置にいると答えた。

 「今までは自分の基盤を作って、グループが大切にしてきたものをしっかりと守ってきたような期間だったと思います。昨年後輩が入ってきたのですが、ここからは後輩のためにも、グループのためにも、“乃木坂46を発信していくフェーズ”に入ったんじゃないかなと。
5月にご卒業された先代キャプテンの梅澤美波さんや、(井上が3代目パーソナリティーを務める)『乃木坂46のオールナイトニッポン』の前任の久保史緒里さんらたくさんの先輩方は、これまでもいろんな作品に出演されたり、さまざまな機会を作ってくださりと、乃木坂46を外へ外へと広げてくださいました。わたし自身できているのかは分かりませんが、なんだか『できるようになりなさい』と言われているような気がして。なので、わたしも先輩たちのように乃木坂46を広げるタイミングに入ったんだと思っています」。

 穏やかな口調ながら、その一言一言に芯の強さがにじむ。グループをけん引する覚悟が見える一方で、幼い頃は弟と一緒に、バズ・ライトイヤーと『カーズ』のライトニング・マックィーンを戦わせていたという、アンディやボニーさながらの想像力豊かな遊び方もしていたというエピソードも披露。

 加えて、小さい頃から大切にしてきたクマのぬいぐるみを実家から持ち出し、今でもベッドの横に置いてあるという等身大の一面もあり、「その子を連れていろんなところに遊びに行ったという思い出があるわけじゃないのですが、離れるとちょっと不安になるなと。抱きかかえて眠るようなサイズではなく、両手に収まる大きさなのですが、そばにいてくれるんです」と明かす。

 おもちゃを大切に思う心や仲間を思いやる真っすぐな人柄は、『トイ・ストーリー』シリーズが一貫して描いてきたテーマとも重なる。スナッピー役を引き寄せたのは、作品世界に自然と溶け込む芝居だけでなく、井上自身の持つ人間的な魅力もあるのではないか。そうした符合は、まるで運命的なめぐり合わせのようにも映る。(取材・文:阿部桜子 写真:上野留加)

 アニメ映画『トイ・ストーリー5』は公開中。

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