女性アイドルグループ・FRUITS ZIPPERのメンバーとして華やかなステージに立つ鎮西寿々歌が、清水崇監督によるホラー映画『だぁれかさんとアソぼ?』で映画単独初主演という大役に挑んだ。長らく芝居から離れていた鎮西だが、未知なる恐怖表現や座長としての重圧と向き合う中で、演じることへの情熱を確実に再燃させていく。

アイドルとの両立を通して見つけた表現者としての新たな扉と、芝居への愛情を語った。

【写真】かわいすぎる! 鎮西寿々歌、撮り下ろしフォト(8枚)

■一度は離れた芝居の世界 巨匠の現場で挑んだ未知の表現

 快進撃を続けるグループの活動の一方で、個人のキャリアとしては大きな分岐点に立っていた。心の奥底に眠っていた「表現者」としての欲求が顔を出しかけたまさにその瞬間、ホラー界の巨匠がメガホンを取る作品の看板を背負うという途方もないオファーが舞い込んだ。

 「最初は『えっ、本当ですか?』とびっくりしました。FRUITS ZIPPERとしてアイドルを始めてから長らくお芝居から離れていたのですが、また挑戦してみたいなと思っていたタイミングだったんです。清水監督の最新ホラーということで、私なんかがこんなに大きな看板を背負わせていただいていいのかという思いはありましたが、このチャンスを掴むべきだと思い、覚悟を持ってお受けしました」。

 彼女が演じたのは、生徒たちの心に寄り添う心理カウンセラーの小春。台本を徹底的に読み込むだけでなく、専門家の監修や個人的な演技レッスンを通して役の輪郭を掴んでいった。しかし、いざカメラの前に立つと、見えない恐怖を相手にするホラーならではの壁が立ちはだかる。恐怖の根源が存在しない空間で、極限の感情をスクリーンに焼き付けることは決して容易ではなかった。

 「見えないものを『見える』とし、見えているものを『見えない』ことにするのが難しかったです。暗闇のシーンでは、実際に一度目をつむって歩き、どれだけ歩きにくいかを感じてから、その感覚のまま本番に臨んだりもしました。
絶叫が続くシーンでは、段取りっぽくならないよう、前のシーンとの繋がりや怖さのバランスを考えながら演じました。技術と感情、そのどちらも殺さずにやるというのは、まるでスポーツを頑張っているような感覚でした」。

■最年長で臨む座長 和やかな現場で生まれた絆

 子役時代から芸能界という厳しい大人たちの世界で育ってきた鎮西にとって、常に自分が「年下」であることは当たり前の環境だった。しかし、今作の共演者は若手俳優が中心。かつてないポジションは、戸惑いとともに新鮮な景色をもたらしてくれた。プレッシャーに押しつぶされることなく、現場をどう導いていったのか。

 「一度お芝居を辞めようと思ってからの再スタートだったので、本当に初心に返る気持ちでした。未熟ながらに、いかに現場が楽しく、みんなが作品に入りやすい環境になるかを考えていました。ただ、清水組はホラーを撮っているとは思えないぐらい明るいんです。共演した大西利空くんをはじめ、年下でも現場の居方がベテランの方ばかりで。自分から引っ張らなきゃという気持ちもありつつ、ある意味で皆さんに『乗っかる』形で座長としていられました」。

 カメラが回っていない時の控え室は、恐怖を描く本編とは裏腹に、笑い声の絶えない和やかな空気に包まれていた。
一回り近く年齢の離れた共演者たちを温かく見守る中で、思わず自分自身の年代を忘れてしまうような微笑ましい瞬間もあったという。

 「(妹役の星乃)あんなちゃんなんて10個ぐらい年が違うので、妹を通り越して娘のような気持ちでした。みんながゲームをしているのを外から見て『ああ、こういう年の重ね方も悪くないな』と思ったり(笑)。でも、楽屋で平成リバイバルの話題になった時、一線を引いていようと思っていたのについテンションが上がってしまって。『めっちゃわかる!』と会話に入っていき、『あ、ダメだ、私10個上だった』と気づくこともありました。壁を感じてほしくなかったので、いい意味でみんなが気を遣わないようなフレンドリーな関係でいられたと思います」。

■アイドルと俳優の相乗効果 ファンを驚かせた変化

 熱狂的なライブステージで観客を魅了するアイドルとしての日常と、恐怖に怯え、カメラの前で繊細な心理描写に挑む俳優としての非日常。この二つのまったく異なる世界を行き来する生活は、彼女の中に明確なスイッチの切り替えを生み出した。撮影期間中、友人からかけられた思いがけない一言が、その変化を物語っている。

 「クランクアップしてすぐの頃、友達に会ったら『めっちゃ大人っぽくなったね』と言われたんです。撮影中は本当にお芝居に集中できる期間があって、そのモードのまま会ったからだと思います。ライブの後に会うのとは全然違うと、自分でもはっきりわかるくらいでした」。


 そこで得た新たな引き出しは、決してスクリーンの中だけで完結するものではなかった。グループの活動に戻った時、彼女のまとう空気感の変化はメンバーの目にも明らかだった。そしてそれは、いつも鎮西を応援してくれるファンの心にも、これまでにない新鮮な驚きをもたらすことになる。

 「合間にライブに出た時、メンバーから『なんか表現変わったね、ちょっと緊張する』と言われました。私たちのグループは自分らしさを出せる場所なので、変化することも正解なんです。だから『最近大人っぽい気分だな』と思ってメイクを変えてみたり、今までの天真爛漫な笑顔から少し『大人な笑顔』に挑戦してみたりしました。そしたらファンのみんながすぐに気づいてくれて『めっちゃいい!』と言ってくれたんです。この映画に出会っていなかったら出せなかった表現ですし、それが受け入れられたのはすごく嬉しかったです」。

■「恋しているみたい」——演じる喜びとの再会

 もしも今作を通じて違和感を覚えたなら、きっと芝居をすることはないだろう。そんな覚悟を胸に秘めて飛び込んだ現場だった。しかし、すべての撮影を終えた今、彼女の心を満たしているのは、かつて失いかけた演じることへの純粋な渇望だ。

 「アイドルとの両立でしんどいなと思う時もあったはずなのに、撮影に行くことが私にとっての喜びであり、原動力であり、憩いの場だったんです。
演じながら自分が癒されるような感覚があって。人って、誰かに恋したらあんまりお腹が空かなくなるじゃないですか。まさにそんな感じで、映画というものにすごく惹かれて、本当にお腹が空かなかったんですよ(笑)」。

 恐怖と狂気が渦巻くホラー映画の現場で、彼女が見つけたのは自分自身の魂が震えるような「ときめき」だった。過酷な挑戦を乗り越え、表現者として一回りも二回りも大きくなった鎮西は、これからもスクリーンの中で新たな顔を見せてくれるはずだ。

 「『ああ、こういう感覚になれてうれしい、もっとお芝居やりたい』と心から思えました。本当にこの作品に出会えたことが人生の宝物です。普段抱えている悩みや不安をどうやって乗り越えていくかといった、人間関係から学ぶこともたくさんある作品です。一方で、シンプルに怖いものを見てゾクゾクしたい方も、幅広い方に楽しんでいただける令和一の学園ホラー映画になったので、ぜひ劇場に足をお運びください。これからも、お芝居を頑張ります」。

(取材・文:磯部正和 写真:松林満美)

 映画『だぁれかさんとアソぼ?』は、7月24日より全国公開。

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