またひとつ、ホラー映画史に伝説が生まれた。新鋭カリー・バーカー監督の劇場長編デビュー作『オブセッション 災愛』は、製作費100万ドル未満の低予算作品ながら、全米公開後のオープニング3日間だけで1720万ドルの興行収入を達成。
【写真】ニッキーの表情の変化が怖すぎる! 『オブセッション 災愛』場面写真
本作の主人公は町の小さな楽器屋でバイトする青年のベア。優しく夢見がちで、いいヤツだが、不器用で意気地がない。バイト仲間のサラに好意を抱かれていると薄々知りつつ、職場の高嶺の花、ニッキーに叶わぬ恋心をこじらせ続けている。彼女の転職を機に告白を決意したベアは、プレゼント選びに立ち寄ったパワーストーン・ショップで「願いの柳」なる不思議グッズを入手。つい勢いでニッキーが自分を好きになるよう願う。
話題作『MICHAEL/マイケル』と『プラダを着た悪魔2』に次ぐ、全米初登場第3位を記録した本作は、SNSで口コミが拡散。公開2週目、3週目の興行収入が前週を上回る異例の事態となり、2週連続で前週の収益を上回るのは、『E.T.』以来、実に44年ぶりの快挙となった(※クリスマス公開映画を除く、ワイド公開作品として)。
■誰かに見せたくなる「衝撃」
――まず、本作『オブセッション 災愛』がアメリカで大成功を収めた理由をご自身で分析するとしたら?
カリー・バーカー監督(以下、バーカー監督):僕の映画作りの根底にあるのは、劇場で強烈なシーンに出くわす瞬間の「衝撃」だ。例えば、トッド・フィリップス監督の『ジョーカー』。あの生放送の銃撃シーンでは劇場内が騒然となった。僕は家に帰るなり、友達に連絡して「絶対に見なきゃダメだ!」と勧めまくった。「なんならもう一度、僕も一緒に観に行くからさ」って。あるいは『TALK TO ME トーク・トゥ・ミー』で幼い少年が頭を机に叩きつけるシーン。『透明人間』で妹の喉が切り裂かれる場面。『ミッドサマー』で崖から老人が身を投げる棄老の儀式も忘れられない。
――本作は脳裏に突き刺さる「衝撃」が満載ですが、どこから映画の着想を得ましたか。実体験ってことはないですよね?
バーカー監督:実体験じゃないよ(笑)。でも、僕は「自分に語れないこと」はやらない。逆によくある設定でも、僕にしかできない変な方向に話を進めたい。今回は恋愛がいかに常軌を逸したものになり得るか、というアイデアから出発し、思いついた要素をスマホにメモして、徐々に肉付けした。相手に執着する恋愛関係は普遍的だけど、特に映画のベアとニッキーは互いに激しく執着(オブセッション)することになる。
――若い頃は恋愛経験も少なく、悟りの境地にも遠いので、つい自分にとってハードルの高い高嶺の花を狙って失敗する。客観的に見れば、ベアは身の丈に合ったサラと一緒になればいいのに、と思ってしまいます。
バーカー監督:それは真理だね。友人関係のなかで特定の誰かに夢中になってしまうことはよくある。
――ベアとニッキーが見せるジェットコースターのような激しい執着からは目が離せません。次第に変化してゆく二人の関係性、互いに刺激し合う芝居を引き出す秘訣とは?
バーカー監督:ニッキーは常に予測不能でいて欲しかった。僕にとってのホラー要素はそこにあった。意図が読めず、何をするか分からない相手は本当に怖いからね。一方、ベアは徐々に本性が露呈する。序盤では共感できる人物だったのが、消極的な行動のせいでだんだん悪役に思えてくる。関係性の逆転を狙ったんだ。芝居で最も重要視したのはリアリティ。
■邦題は「最高のタイトル」/新たな『悪魔のいけにえ』への挑戦
――本作の邦題には「災愛」とサブタイトルがついています。「災」は災害や災難を表し、直訳すれば「災いをもたらすような愛」の意味。ただ、音の響きとしては「最愛」、つまり「人生で最も愛する人」とも聞こえる。二重、三重の意味を込めたこの邦題はいかがでしょう?
バーカー監督:大好きだ。日本には英語圏にないニュアンスの言葉があり、いろいろな解釈ができる。逆にひとつの日本語の意味を説明するのに、英語なら3つ、4つの単語が必要だったりする。簡単に他言語に翻訳できない言葉には非常に心ひかれる。その言葉本来の力強さがあると感じるから。英語の「love」に愛の度合いの強弱や、種類の幅を示すニュアンスは少ない。この邦題は映画が掘り下げるテーマとも深く関わっているし、すごくいい。
――最近、「お勧め」したくなったお気に入りの作品はありますか?
バーカー監督:オリヴィア・ワイルド監督、セス・ローゲン主演の『The Invite』(原題/日本未公開)だね。日本での公開状況は分からないけど、絶対に観て欲しい。主な舞台はアパートの部屋だけ。でも、クレイジーで心に訴えかけるものがあった。僕はストーリーテリングや、キャラクターを重視しているので、そんなツボに入ったのかも。
――では、オールタイムベストをもし1本、選ぶなら?
バーカー監督:好きなジャンルをひとつ選ぶならホラー。映画なら『ヘレディタリー/継承』を挙げようかな。
――『オブセッション 災愛』は恐ろしくもあり、同時にお茶目で、どこか「カワイイ」感触がありました。監督はこの後、A24で『悪魔のいけにえ』の新作を撮る予定ですが、他のシリーズ作品とは違う個性をどこに打ち出したいですか?
バーカー監督:『悪魔のいけにえ』だから、まずはブルータル(残虐)であるべきだけど、それ以外の要素も取り入れたい。オリジナル版は剥き出しの生々しさ、奇妙な滑稽さが入り混じり、居心地の悪さが最高だよね。僕が撮るなら、襲われた人々が茂みに隠れて思考停止状態になったりせず、本来ならどう行動するかを突き詰め、脱出を阻む障害も理にかなったものにしたい。
(取材・文:山崎圭司)
映画『オブセッション 災愛』は公開中。
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