【写真】NHK土曜ドラマ『ムショラン三ツ星』の場面カット【8点】
エンタメというポップさで包みながらも、一般人にはあまり知られていない刑務所や受刑者の実情を示した挑戦的な内容だ。楽しさの中にも、刑務所の在り方を考えたくなる本作で制作統括を務める渡邊竜氏に、制作の裏側などについて話を聞いた。
◆取材を通して変わった受刑者のイメージとは
――本作を制作するために実際に刑務所に取材されたそうですね。
渡邊 はい。岡崎医療刑務所に加え、規模の大きい千葉刑務所にも行きました。原作にもありましたが、みりんやバナナは食材として使えないこと、食事の量が身長によって違うことなど、初めて知ることばかりでした。それと同時に、罪を犯した人だけが行く場所なので、「どこか受刑者がこの世界からいないものにされている」という感覚も抱きました。
――“塀”の内と外には大きな隔たりがありますよね。
渡邊 足を運んで分かったのですが、刑務所は辺鄙なところにあるわけではなく、住宅の近くにあるケースもあります。私たちの日常のすぐ近くにあるのに、その概要はあまり知られていない。そこに違和感を持ちました。また、刑務所での勤務経験があり、今回監修にも入ってもらっている福山大学教授の中島学さんも「もう少し刑務所について知ってほしい」と話していました。
――取材などを通して、受刑者に対するイメージに変化はありましたか?
渡邊 取材過程で聞いた言葉で、「犯罪者は弱者である」というものがありました。犯罪を犯す人も、かつて傷ついた経験があるんですよね。刑務官の方も「受刑者というと凶悪犯のイメージが強いけれど、どちらかというと社会的弱者が多い」と話してくれて、受刑者のイメージが大きく変わりました。
――荒くれものだけが罪を犯すわけではないと。
渡邊 もちろん、被害者がいる罪もあるので、簡単に犯罪者を擁護することはできません。それでも、「かつて苦しい立場に置かれてきた人たちも中にはいるんだ」という目線は、取材で得た大きな発見です。このことは描きたいと思い、第4話で刑務所長の名取恒太朗(國村隼)と葉子のやり取りの中に入れました。名取が過去に受刑者から傷を負わされた時に気づいたエピソードです。
◆最終回で注目してほしいシーン
――「犯罪者は弱者である」という視点だけではなく、他に制作のうえで意識したことはありますか?
渡邊 再犯率は約5割で、出所した人が5年以内に再び刑務所に入る「5年以内再入率」は約3割と言われています。この「再犯率の高さ」もこだわった部分です。第3話のラストで、前向きな表情で出所した梅川龍二(板橋駿谷)は出所後、「世間が冷たい」という理由から早々に再び罪を犯してしまいました。
――川口心平(玉置玲央)が「どう変わっていくのか」を体現する人物なのですか?
渡邊 そうですね。第4話では、竹田照男(温水洋一)が突然死しました。竹田は娘との仲を良好と口にしていましたが、実際は絶縁されていたことを川口は知らされます。そんな竹田の死を受け、さらには葉子との交流を通し、川口は「人の死」、さらには「自身が犯した罪の重さ」に気づくことになります。
――川口の変化が最終回で描かれると。
渡邊 最終話では、川口が被害者遺族と対峙する場面があります。「加害者を許せない」という遺族の感情がある一方で、「罪を犯した側は何をすべきなのか」という議論になるシーンがありますが、そこが本作で一番言いたいことです。そして、「人は変われるのか」という本作が大切にしているテーマを示すシーンにもなっているので、ぜひ注目していただきたいです。
◆「食」を介することで描ける多様性
――刑務所や受刑者だけではなく、「食」についてもいろいろ考えたくなる内容です。
渡邊 「食は人の生育環境を表す」という側面を大切にしています。
――「食」というフィルターを通すことで、人がいかに多様であるのかが鮮明になっている印象です。
渡邊 第1話で川口が自分の罪の重さに耐えかねてアレルギーがあると分かっていてサバを食べ、これに葉子が「ごはんは死ぬために食べるんじゃない、生きるために食べるのよ」と言うシーンがあります。また、第4話では葉子の息子・翔(川口和空)の友達で、ネグレクトを受けている男子中学生が空腹のために万引きをしてしまう。そして、葉子はその子のために簡単なみそ汁の作り方を教え、「万引きしなくてもお腹を満たせる方法がある」ということを伝えるシーンもありました。「食」という1つのテーマで、いろんなことを視聴者に提示できることが、このドラマの面白さだと思っています。
――ちなみに、2025年6月1日に「拘禁刑」が施行されましたが、そのあたりも意識されたのですか?
渡邊 企画段階ではあまり意識していませんでした。ただ、懲役刑と禁錮刑が拘禁刑に一本化され、これまで以上に再犯防止や更生を重視する制度へと変わりました。この変化はドラマの方向性ともリンクする部分があるため、「更生を促す」というテーマも意識しています。
――最後に、本作をどのように楽しんでほしいか、改めてお聞かせください。
渡邊 すごく敷居を低く、誰でも楽しめるエンターテインメントとして作っているので、まずは楽しんでいただきたいです。その中で、刑務所に関することなど、知らないことを少しでも知っていただければ。また、受刑者たちが悩み考えているシーンを映し、単純なコメディドラマで終わらない社会派な側面を持っています。見た後に、みなさんが何か考えていただけると嬉しいです。
土曜ドラマ『ムショラン三ツ星』
放送予定:毎週(土)夜10時~10時45分(全5話)
※NHK ONE(新NHKプラス)で同時・見逃し配信中
最終話は6月27日(土)放送予定。その後「NHK ONE」の見逃し配信予定
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