「今は症状がないから大丈夫」という油断が、将来の健康リスクにつながるかもしれない。『毎日の小さな習慣が病気をつくる ヤバイ健康負債』(Dr.パンダ/あさ出版)では、高血圧や糖尿病、認知症などの病気と生活習慣の関係を「健康負債」という新しい視点で解説する。
日々の小さな選択が将来にどう影響するのか、医学的な知見をもとに読み解いていく。

今回のテーマは「65℃超の飲み物を定期的に飲むと、食道への負担の要因に」。
○「熱いもの」とは具体的に何度のことを指すのか?

一般的に食道がんの主な原因として知られているのは喫煙や飲酒の習慣です。タバコとお酒はそれぞれ食道の細胞を傷つけ、がんのリスクを高める代表的な要因です。しかし近年、「非常に熱い飲食物」の習慣も食道がんのリスク要因として注目されています。

皆さんは次のような「熱いものの摂取」をする習慣に心当たりはないでしょうか。

・淹れたてのお茶やコーヒーを「湯気が立っているうちに」すぐ飲む
・スープやラーメンを熱々のまま食べる
・鍋料理は熱さを我慢して食べるものと考えている
・熱いものを食べたあとに口内炎や喉のヒリヒリが度々起きる

チェック項目に一つでも当てはまった方は、食道の粘膜に負担をかけやすい飲食習慣があるかもしれません。実は、日々の「熱いもの」の摂取が粘膜へダメージを与えて、食道がんや食道炎のリスクを高めると、多くの研究や国際機関の報告から明らかになりつつあるのです。

「熱いものの摂取」というと定義が曖昧ですが、国際がん研究機関は、65℃を超える非常に熱い飲み物について、食道がんとの関連があるとして「おそらく発がん性がある」と分類しています。これは、飲み物そのものよりも、温度による食道粘膜への熱刺激が問題と考えられているためです。

そのため、本書では「熱いもの」の目安として「65℃を超えるような、口に入れた瞬間に熱いと感じる飲食物」と考えることにします。湯気が強く立っているお茶やコーヒー、煮えたぎったスープ、熱々のラーメンなどは、この温度帯に近い可能性があります。


舌や喉がヒリヒリする、口の中を軽くやけどする、といった感覚がある場合は、食道にも同じような熱刺激が加わっている可能性があります。
○「熱いもの」が食道の粘膜を損傷し続ける

なぜ「熱いもの」ががんや食道炎のリスクを高めるのでしょうか。

口の中は熱さを敏感に感じますが、実は食道も熱すぎるものが入ってくるとその粘膜がやけど状態になります。

例えば、出来立てのたこ焼きや湯豆腐を急いで飲み込むと、粘膜に軽いやけどのような症状や炎症を起こすことがあります。

胃には粘液によるバリアがあるため一度の摂取で深刻なやけどになることは稀ですが、食道は粘膜が薄く繊細なので、高温に繰り返しさらされると小さな損傷が蓄積しがちです。その結果、粘膜に炎症が起き、細胞が傷つくことになるのです。
○粘膜の損傷と修復を繰り返し、食道がんを引き起こす

熱いものを摂取すると食道の粘膜が反復して損傷を受け、その度に細胞の修復・再生(細胞分裂)が繰り返されます。この慢性的なダメージと再生の繰り返しが、細胞の遺伝子にエラーを起こさせやすくし、がん細胞が発生するリスクを高めると考えられています。

アルコールやタバコは食道細胞のDNAを傷つける代表的な刺激ですが、高温の飲食物も、物理的な熱刺激として食道粘膜を傷つけるのです。

国際がん研究機関は伝統的に熱いお茶やマテ茶を飲む中国・トルコ・南米などの地域では、飲む温度が高いほど食道がんの発生リスクが増加したと報告しています。

また、イラン北東部ゴレスタン州で約5万人を対象に行われた調査では、70℃以上の熱いお茶を飲む人は、65℃未満で飲む人に比べて食道がんリスクの指標が大きく上昇していました。

このように、飲食物の種類よりも「熱さ」が重要なリスク因子であることがわかります。

○食道がんはほかのがんとどう違うのか?

食道がんは、食道(口から胃へ食べ物を運ぶ管)の粘膜から発生する悪性腫瘍です。初期にはほとんど自覚症状がありませんが、進行すると胸の違和感や喉のつかえ、飲み込みづらさ、体重減少、胸や背中の痛みなどの症状があらわれることがあります。

食道がんが怖いのは、初期にはほとんど自覚症状がない一方で、症状が出る頃には病気が進んでいることが少なくない点です。

食道は食べ物の通り道であるため、腫瘍が大きくなると「食べ物がつかえる」「飲み込みにくい」「胸の奥がしみる」「体重が減る」といった症状が出てきます。さらに、食道は気管、肺、大動脈など重要な臓器の近くを通っているため、進行すると周囲の臓器に広がったり、リンパ節に転移したりして、治療が大がかりになりやすいのです。

ちなみに、熱いお茶そのものもリスク要因ですが、これに喫煙や大量飲酒が加わると、リスクは一層高まります。

中国で行われた大規模研究では、毎日とても熱いお茶を飲む習慣に加えて、15g以上のアルコールを日常的に摂取している人は、ほとんどお酒を飲まない人に比べ、食道がん発症リスクが約5倍に増加したと報告されています。喫煙者が毎日熱いお茶を飲む場合も、非喫煙者に比べリスクが約2倍に上昇しました。

つまり、これらの研究から、「熱いもの+タバコ」「熱いもの+お酒」の組み合わせは、単独以上に食道への有害な影響が大きいことがわかります。
○食道がんを予防するための日常習慣

食道がんや食道の炎症を予防するには、とにかく熱々の状態で飲食しない習慣を身につけることが第一です。

【前提】●飲み物は少し冷ましてから飲む
健康のためには熱々で飲むのは避け、少し時間を置いて温度を下げてから口にするよう心がけましょう。目安として、湯気がおさまって、カップを触ったときにほんのり温かい程度が適温です。

急いでいるときなどは、お水で割る、氷を一つ入れる、ミルクを加えるなどして温度を下げても構いません。舌先で一口含み、「熱っ」と感じない温度まで冷ます習慣をつけましょう。

【パンダ式健康習慣】
・食道の粘膜を守る食生活
温度だけでなく、粘膜の健康維持に必要な栄養を不足させない方法があります。ビタミンやポリフェノールなど抗酸化作用のある栄養素は細胞の修復や炎症軽減に役立ちます。日常生活では、朝食に果物を添える、昼食に野菜の小鉢を追加する、夕食に魚や大豆製品を取り入れる、汁物にきのこや海藻を加えるといった方法であれば手軽に摂取できるはずです。
緑黄色野菜や果物、適度なタンパク質は粘膜の健康を支えますし、お茶も適温であればカテキンなど抗酸化物質を摂取できるので、無理に避ける必要はありません。
もしかしたら、最初は低い温度で飲み物、食べ物を摂取することに物足りなさを感じるかもしれません。しかし、人間の舌や嗅覚は慣れるものです。少し冷ましたお茶でも、続けていればそれが普通になり、美味しく感じられるようになります。
熱すぎる飲食物を習慣的に摂ることは、食道や胃の粘膜に余計な負担をかけます。がんだけでなく食道炎・胃炎などの予防のためにも、日頃から熱すぎる飲食は避けることが賢明です。

○『毎日の小さな習慣が病気をつくる ヤバイ健康負債』(Dr.パンダ/あさ出版)

登録者数約40万人を誇る人気YouTuber・Dr.パンダが、予防医学の観点から“本当に正しい健康習慣”をやさしく丁寧に解説!私たちは、何気ない日々の生活の中で、悪いと気づかないまま身体に負担をかけ、「健康負債」を積み重ねています。
本書では、健康負債につながる間違った健康法や生活習慣を明らかにし、その背景にある医学的根拠=エビデンスとともに、改善策をわかりやすく紹介します。がんの予防と早期発見の方法や気をつけたい大病の予防、さらには健康寿命を延ばす食事術や生活習慣まで網羅。「正しい知識」と「続けられる実践法」を一冊に凝縮した“健康書の決定版”です。
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