●4年連続で赤字…それでも守りたかったアイドルシーンの灯火
いまや多くのアイドルファンに愛される一大ライブイベントとなった『@JAM(アットジャム)』。だが、その歩みは決して順風満帆ではなかった。
4年連続の赤字を経験し、一時は存続の危機に。それでもシーンの火を守るために走り続けてきたのが総合プロデューサーの橋元恵一氏(ソニー・ミュージックエンタテインメント/ライブエグザム)である。

そんなアットジャムが新たに、ノンアルコール飲料を片手にライブを楽しめる『サントリー ノンアルコール アイドルパーティー Vol.0 Produced by @JAM』を8月5日にZepp Haneda(TOKYO)で開催。アルコール飲料の提供を禁じてきたアットジャムに“ノンアル”が投入されることで、現場にはどのような変化が生まれるのか。橋元氏にその狙いと背景を聞いた――。

○「多様なカルチャーを潰したくない」

――2010年に『ヲタジャム』、2011年に『アットジャム』がスタートしましたが、当時はアイドルシーンにどのような可能性を感じていたのでしょうか?

その当時はソニー・ミュージックの中にライブ事業部が立ち上がり、「ライブという形で新しいコンテンツを創造しよう」というミッションがありました。

ブラックミュージックをテーマにしたフェスやキャンプフェスなどもスタートするなか、「オタクを集めたフェスをやったら面白いんじゃないか」という話になり、言わば「コミックマーケットの音楽版」として始まったのが、前身の『ヲタジャム』です。

ただ、初年度にやってみて「オタク」という言葉で一くくりにするのはファン層も違い難しいこと、またネーミングも失礼なんじゃないか、と感じて……。それで2011年から、より音楽に特化したアットジャム」に名前を変え、アニソン、アイドル、ボカロをテーマに再始動しました。

――これまでを振り返って、最大のターニングポイントはどこでしたか?

2014年から横浜アリーナで『@JAM EXPO』と銘打ったフェスを始めたのですが、僕自身それまでイベント制作の経験がなくて、事業としての収支管理がかなり甘かった。そのため最初はずっと赤字が続いていたんです。ただ、こんなこと言ったら会社に怒られそうですが、ビジネスとして利益を求めるより、「シーンを盛り上げる役割になりたい」という思いが強く、結果的に4年連続で大赤字を出してしまったんです(苦笑)

社内には「もうやめろ」という空気も漂っていましたし、2017年の開催中には、すでに赤字が確定していて「ああ、もう終わったな」と思ったこともあります。
でも、アイドルシーンはどんどん面白くなっていて、ロックっぽいグループもいれば、ラップを歌う子もいる。この多様なカルチャーを潰したくないな、というモチベーションだけで動いていました。

――その苦境をどうやって乗り越えたのでしょうか。

2018年から日本テレビさんと共催でフェスをやるようになり、そこから初めて黒字転換できました。今は、複数のパートナー企業さんと一緒に事業を運営しています。リスクを分散し、みんなでつらい思いもおいしい思いも分け合えるようになったことで、正直、精神的にも随分楽になりましたね。

ただ、これで金儲けしたいとは今も思っていなくて。アイドルになりたい子のための学校を作ったり、プロモーション用の配信番組を制作したりと、今も昔もシーン全体の活性化を常に第一に考えています。

●広がるファン層と変化する距離感
――ここ数年で「推し活」という言葉も一般化しました。この変化をどう見ていますか?

この「推し活」という言葉は、もう本当に素晴らしい発明ですよね。僕らが始めた頃は「オタク」という言葉しかなくて、どこか「ニッチで特殊な世界」みたいな偏見的イメージもありました。それが今は、性別も世代も関係なく堂々と「これが私の推しです」と言える状況なわけですから。


最近の傾向としては、特に女性ファンやライトなファンが劇的に増えたと感じます。TikTokでダンスを見て「面白そうだから行ってみよう」と、気軽にフェスに足を運んでくれる人も多く、かつてのニッチな世界から、分母がはるかに大きくなっていますよね。

――ファンとアイドルの距離感も、以前より近くなっているのでしょうか。

それはあると思います。AKB48が作った「会いに行ける」文化以降、ライブの後に握手会やチェキ会があるのは当たり前になりました。ライブハウスを中心に活動する子たちは、ライブと特典会がセットです。ファンの皆さんも、パフォーマンスの感想を直接本人に伝えられる今の距離感を楽しんでいますし、これはこの文化の大きな魅力だと思います。

ただ、シーンが広がった分、フェスの価値も問われています。今となっては毎週末どころか、毎日どこかでアイドルイベントが開催されています。3,000円でアイドルに会える環境がある中で、1万円を払ってフェスに来てもらうには、各々のフェスそれぞれが独自の提案していくことが不可欠ですから、これからまたさらに頑張らないといけない状況になっています。

○アイドルライブ×ノンアルの必然

――新たな試みとして、ノンアルコール飲料を片手にライブを楽める『サントリー ノンアルコール アイドルパーティー Vol.0 Produced by @JAM』が始まります。この経緯を教えてください。


実は、これまでは基本お酒の提供をしてこなかったんです。ライブ後の特典会で、酔っ払ったお客さんがアイドルの子たちと接触するのを避けるためのリスク管理です。そんななか、サントリーさんからノンアルコール飲料のご提案を頂きました。

お酒の提供がないアイドルイベントにおいて、ノンアルはお客様から積極的に求められる可能性が高いと感じましたね。

――ノンアルの投入によって、ライブ会場での楽しみ方はどう変わると期待していますか?

これまでは水やお茶、コーラなど限られた選択肢でしたが、そこに「オールフリー」や「ノンアルでワインの休日」など7種類のラインナップが加わります。しかもすべて飲み放題です。ジュースではなく、ノンアルを飲むことですごく気分も上がるし、リッチな体験にもなると思います。

お酒が飲めない方や、車で来場される方も、お酒のような感覚で喉を潤しながら音楽を楽しめる。ただ水分補給するのではなく、ライブのプレミアム感を演出する要素になってくれるはずです。ノンアルとアットジャムは完璧に好相性だと思いますね。

――橋元さんご自身もノンアルコール飲料を飲まれますか?

飲みます。特に車を運転するときなど、飲みたいけれど飲めないタイミングには欠かせませんね。
先日、サントリーさんの会議室にお邪魔したとき、ドリンクコーナーにノンアルがずらっと並んでいるのを見てビックリしました。今はこんなに種類が増えているんだ、と。

実際に飲み比べてみましたが、誤解を恐れずに言えば、「これ、全然いけるじゃん!」というのが率直な感想です(笑)。ビールテイストのものだけでなく、カシスオレンジやワインテイストなど、フレーバーが豊富なのもうれしいですよね。

アットジャムで一度ノンアルを試してもらえれば、「今日はカロリーも控えたいし、ノンアルがいいかも」と日常的に選ぶ人も増えてくるんじゃないかと期待しています。

――今後の展開については、どのようにお考えですか?

まだ発表できないのですが、今回のZepp Hanedaを皮切りに、これからもアットジャムのシリーズイベントを通じて、定期的にノンアルを提供していきたいと考えています。ノンアルを飲まず嫌いだった方にも、ぜひ会場で試してみてほしいですね。

●橋元恵一1967年、東京生まれ。日本大学法学部卒業後、Tooを経て、93年ソニー・ミュージックコミュニケーションズに入社。アーティストの販促サポートやビジュアルプロデュースを担当し、絢香、ケツメイシ、山崎まさよし、森山直太朗などのクリエイティブを担当。10年、ソニー・ミュージックエンタテインメントへ異動し、ポップカルチャー音楽イベント『@JAM』を立ち上げる。現在では国内外で年間30本以上のシリーズイベントの総合プロデューサーを担当。
また、TOWER RECORDSとの共同レーベル『MUSIC@NOTE』のプロデュースや、アイドルグループのプロデュースワークも精力的に行っている。

猿川佑 さるかわゆう この著者の記事一覧はこちら
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