レビュー

「文化人類学」と聞くと、遠い異国の文化や風習を研究する学問というイメージを持つ人も多いだろう。しかし本書を読むと、その認識は大きく変わる。

実際、グーグルをはじめとする世界的企業は早くから文化人類学者を採用し、製品開発や事業戦略に活用してきたという。
著者の大川内直子氏は、文化人類学をビジネスに応用する日本初の専門組織を設立した研究者である。学問とビジネスの双方を知る著者だからこそ、本書は専門的な内容を実践的かつわかりやすく伝えている。
文化人類学の核心は、徹底的な他者理解にある。研究者は調査対象のコミュニティに入り込み、人々と生活を共にしながら、その行動の背景にある意味を理解しようとする。たとえば、タイで行われた調査では、一見、不謹慎にも思われた賭けトランプが、実は葬儀費用を支える相互扶助の仕組みであることがわかったという。
著者は文化人類学の効能を、「遠くのものを近くのものにする」と「近くのものを遠くのものにする」の2つに整理している。前者は異なる文化や価値観を理解することであり、後者は自分たちの常識を相対化することである。特に印象的なのは後者で、私たちが「あたりまえ」だと思っている働き方や組織文化も、実は数ある選択肢の一つに過ぎないことに気づかされる。
新しい市場や顧客を理解したい人はもちろん、組織を変えたい人や、自分の固定観念を見直したい人にもおすすめの一冊である。本書を読めば、「相手が理解できない」のではなく、「自分が見えていないだけかもしれない」と気づかされる。その視点は、変化の激しい時代を生き抜くための武器になるだろう。

本書の要点

・ビジネスパーソンにとっての文化人類学の効能は、「遠くのものを近くのものにする」ことと、「近くのものを遠くのものにする」ことにある。
・自社の強み、製品の価値、組織の制度といった「あたりまえ」を異文化のように見直すことで、新たな発見やイノベーションにつながる。



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