【スージー鈴木のゼロからぜんぶ聴くビートルズ】#73
アルバム『リボルバー』(1966年8月5日発売)③
■『エリナー・リグビー』
アルバム『リボルバー』の中でまさに異彩を放つ一曲である。
バックは弦楽八重奏。
ここで私が強調したいのは『エリナー・リグビー』の「ロック性」について。
ストリングスを使ったからといって、カフェのBGM的な、というか『ミッシェル』的な甘~い方向には行かずに、むしろロック的なグルーヴにあふれている。全然甘くない。むしろ辛くて強い。【オリジナル記事で試聴する】
その理由の1つは「♪チャッ・チャッ・チャッ・チャッ」とビートを刻むようなストリングスアレンジ。もう1つはストリングスの録音方法である。
通常のストリングスの録音では、弦のこすれる音が入らないよう、一定の距離を置いたところにマイクを設置するらしいのだが、この曲の録音では、かなり楽器に接近して録音したのだという。
結果、最近の音質改良もあって、まさに目の前で8人が演奏されているような迫力にあふれている。つまりは「ストリングス・ロック」が、ここに確立したのである。
歌詞は劇的に暗い。
主人公のエリナー・リグビー(名前)は、教会で孤独死し、埋葬される。参列者などいない。そしていよいよ悲しいのは「結婚式が終わった教会で落ちた米を拾う」という描写。拾うか、米……。
登場人物はもう1人、ファーザー・マッケンジー(マッケンジー神父)。この人も「誰も聞くことのない説教を書き」、そして「靴下をつくろう」。つくろうか、靴下……。
アルバム『ラバー・ソウル』も全体的に暗かったが、ここでは暗さがいよいよ極まっている。
音楽的クライマックスは、試聴リンク再生時間「1:48」から、「♪オール・ザ・ロンリー・ピープル~」と「♪アー・ルック・アット・オール・ザ・ロンリー・ピープル~」という2つの異なるメロディーが、一気に歌われるところだ。
この手法、「対位法」などと言われ、クラシックでは、ごくごく普通に使われる手法だが、ビートルズではというか、大衆音楽としては、とても新しかった。この後のポールの得意技となっていくのである。
▽スージー鈴木(音楽評論家) 1966年、大阪府東大阪市生まれ。昭和歌謡から最新ヒット曲まで幅広いジャンルの楽曲を、社会的な視点からも読み解く。主な著者に「中森明菜の音楽1982-1991」「大人のブルーハーツ」「日本ポップス史 1966‐2023」など。半自伝的小説「弱い者らが夕暮れて、さらに弱い者たたきよる」も話題に。日刊ゲンダイの好評連載をまとめた「沢田研二の音楽を聴く1980-1985」、最新刊「日本の新しい音楽1975~」は大好評。ラジオDJとしても活躍。

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