【スージー鈴木のゼロからぜんぶ聴くビートルズ】#89


 アルバム『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』(1967年5月26日発売)⑦


■『シーズ・リーヴィング・ホーム』


 曲名通り「彼女は家を出ていく」という家出ソング。新聞に載っていた家出少女の記事を基にして、ポールが歌詞を考えたそうだ。


 そういえば『ア・デイ・イン・ザ・ライフ』のジョンのパートも「今日、新聞を読んだんだ」から始まる。


 ビートルズは新聞好きだったのだ。だからロックを目指す若者は、「オールドメディア」などとバカにせず、新聞を読もう。そう、特に日刊ゲンダイを。


 ストリングスをバックに歌われる美しい曲なのだが、ちょっと美し過ぎると思う。同じストリングスを使っても、前作『リボルバー』(66年)の『エリナー・リグビー』に感じるロック感が、この曲には決定的に欠けている。【オリジナル記事で試聴する


 調べるとアレンジを手掛けたのは、いつもの、ジョージ・マーティンではなく、別のフリーの編曲家だったらしい。もしマーティンが手掛けていれば、もう少しロックっぽい「家出記事ロック」になったことだろう。


 歌い出しは「水曜の朝5時」というフレーズから始まる。そういえばサイモン&ガーファンクルに『水曜の朝、午前3時』という曲があって、こちらは酒屋で強盗事件を犯した男の歌。


 家出ソングといい、強盗ソングといい、洋楽における水曜の朝は物騒だ。


■『ホエン・アイム・シックスティー・フォー』


 演奏や録音に凝りに凝りその分、聴く人間の方も凝りに凝りがちなアルバムの中で、ほほ笑ましく気が安らぐオアシスのような曲。


 のちの『ハニー・パイ』(68年)や『マックスウェルズ・シルヴァー・ハンマー』(69年)などにも通じるポールお得意のトラッドな曲調である。


 歌詞の内容はタイトル通り「僕が64歳になっても」。つまり森高千里『私がオバさんになっても』(92年)の男性版、ポール版。


 ちなみにポールは、1942年6月18日生まれ。「ライバル」であるビーチ・ボーイズのベース担当、ブライアン・ウィルソン(6月20日)とたった2日違い。というわけで、この42年6月は、ベーシストの当たり年、当たり月ということになる。


 なので64歳になったのは2006年のこと。そして20年後の今は、もちろん84歳である。


「僕が84歳になっても、新譜を出してるかい?」──出しているのだ。誕生日直前の5月29日にソロアルバム『ダンジョン・レインの少年たち』をリリース。この事実に、いちばん驚いているのは、ポール本人ではないか。


▽スージー鈴木(音楽評論家) 1966年、大阪府東大阪市生まれ。

昭和歌謡から最新ヒット曲まで幅広いジャンルの楽曲を、社会的な視点からも読み解く。主な著者に「中森明菜の音楽1982-1991」「大人のブルーハーツ」「日本ポップス史 1966‐2023」など。半自伝的小説「弱い者らが夕暮れて、さらに弱い者たたきよる」も話題に。日刊ゲンダイの好評連載をまとめた「沢田研二の音楽を聴く1980-1985」、最新刊「日本の新しい音楽1975~」は大好評。ラジオDJとしても活躍。


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