【スージー鈴木のゼロからぜんぶ聴くビートルズ】#104


『ザ・ビートルズ(ホワイト・アルバム)』(1968年11月22日発売)④


  ◇  ◇  ◇


■『アイ・ウィル』


 今回はCDでいうディスク1の最後の2曲。ということはLPだと1枚目B面のラスト2曲を。


 まずはポールによるラブソング。「will」(ウィル)には未来と意志の意味があると学んだ記憶があるが、まさにそれ。「君を愛し続ける」という未来への意志を歌っている。


 さて『ホワイト・アルバム』にはこの曲のように「ビートルズ感が薄いな」「ソロアルバムの曲やな」と思わせる曲が多い。


 この曲も、ポールがほぼ一人で録音しており(リンゴとジョンがちょっとだけパーカッションで参加)、ビートルズというよりはポールの初めてのソロアルバム『マッカートニー』(70年)に入っていてもおかしくない曲である。


 このあたりが、他のアルバムにはない『ホワイト・アルバム』特有の「読後感」。つまり「あぁ4人それぞれの本領が出ているなぁ」と「4人の相互作用がなくて物足りないなぁ」という印象が交錯するのだ。


 特にポールは、このアルバムで曲を作りまくっている結果、一曲一曲の煮詰め方が弱いという気がする。【オリジナル記事で試聴する


 例えば、この『アイ・ウィル』も、次の曲と比べたら、何かが足りないのだ。その何かとは──。


■『ジュリア』


 こちらもラブソング。ジョンの曲で「ジュリア」は彼の母親の名前だが、歌詞の内容は、すでに交際していたオノ・ヨーコへの愛の歌だ(ご丁寧にも「オーシャン・チャイルド=洋・子」という言葉が歌詞に入っている)。


 さて『ジュリア』にあって『アイ・ウィル』にない「何か」とは「不思議感覚=センス・オブ・ワンダー」ではないかと、私は考えるのだ。


 それこそ「感覚」的な物言いで申し訳ないが、『ジュリア』からは「これまでの音楽にはなかった不思議な感覚を表現したい」というジョンの鼻息が伝わってくるようではないか。


 試聴リンク再生時間「1:01」からのパートが醸し出す、不思議の森に迷い込むような感じたるや、これぞまさにセンス・オブ・ワンダーだ。


 ジョンが不思議音楽を突き詰めていく。ポールが実質的リーダーとしてのバランス感覚も働かせながら、ジョンによる不思議の周辺に、不思議度は低いが完成度の高い作品を敷き詰めていく。この構図こそが後期ビートルズの本質的なありようだと思う。


▽スージー鈴木(音楽評論家) 1966年、大阪府東大阪市生まれ。昭和歌謡から最新ヒット曲まで幅広いジャンルの楽曲を、社会的な視点からも読み解く。主な著者に「中森明菜の音楽1982-1991」「大人のブルーハーツ」「日本ポップス史 1966‐2023」など。半自伝的小説「弱い者らが夕暮れて、さらに弱い者たたきよる」も話題に。日刊ゲンダイの好評連載をまとめた「沢田研二の音楽を聴く1980-1985」、最新刊「日本の新しい音楽1975~」は大好評。ラジオDJとしても活躍。


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