【再発見 ちょうど10年前のテレビ】#19


 今からちょうど10年前、2016年の真夏は、オトコたちが主役の〈食ドラマ〉が大繁盛していた。1本目はドラマ24「侠飯~おとこめし~」(テレビ東京系)だ。

三流大学に通う良太(柄本時生)は就活の真っ最中。討ち死にの日々が続いていたが、ひょんなことから逃げ込んできたヤクザの柳刃(生瀬勝久)と同居するハメになる。


 しかもこの柳刃という男、出自や経緯はまったく不明だが、料理の腕前がプロ並みなのだ。毎回のお楽しみは、柳刃が披露する安くて簡単でうまい料理である。「焦がし醤油のにんにくチャーハン」や「塩辛カレーリゾット」など、料理に不慣れなオトコでも実際に作れそうな品が登場した。「キッチンは俺のシマ(縄張り)だ!」というタンカに嘘はない。


 また、このドラマのもうひとつのキモは、料理について語る柳刃の言葉が、そのまま就活中の良太へのアドバイスになっていることだ。「どんな食材も工夫次第(=大学のランクなど関係ない)」「他人の家の味をうらやむ必要はない(=自分の個性を大事にしろ)」などの名言が並んだ。「孤独のグルメ」とは、またひと味違うアプローチの〈食ドラマ〉であり、夏バテ対策にも有効な深夜の佳作だった。



主人公の設定が秀逸だった「ヤッさん~築地発!おいしい事件簿」

 そしてもう1本、異色の食ドラマが同時並行で放送されていた。金曜8時のドラマ「ヤッさん~築地発!おいしい事件簿」(同)である。


 何より主人公の設定が秀逸だった。

ヤッさん(伊原剛志)はホームレスだが、銀座の高級店で賄い飯をごちそうになる。また築地市場の仲買人とも対等の付き合いだ。食の知識が豊富で料理の腕も一流。築地と銀座を結ぶ隠れコーディネーターのような存在なのだ。IT企業から落ちこぼれ、宿無しだったタカオ(柄本佑)は、ヤッさんに拾われて弟子になった。


 このドラマは、ホームレスである2人が築地や銀座で起こる事件を解決していく物語だ。個人の洋食店を乗っ取ろうとする悪徳外食グループと戦ったり、世代交代に悩む築地の人たちのために一役買ったりと大忙しだ。人としての矜持を持ち、ホームレスという生き方を選んだヤッさん。困っている人を、「ありきたりな身の上話なんか聞きたくねえ」と言って、ある距離感を保ちながら助ける姿勢も好ましい。


 確かに、「どん底に落ちた人間を救うのは人とうまいメシ」かもしれない。一見、いわゆる食ドラマを思わせるが、実は脚本も含め、丁寧に作られた人情ドラマなのだ。脇役陣も2人をしっかり支えている。

ヤッさんを応援するそば屋の主人(里見浩太朗)、ヤッさんを慕う韓国料理店主(板谷由夏)、そば職人を目指す女子高生(山本舞香)など、皆適役だった。 


 今年の夏、テレビ東京系では「一緒にごはんをたべるだけ」や「晩酌の流儀5~夏編~」を放送中だ。それぞれ個性的な食ドラマだが、ヤクザの柳刃やホームレスのヤッさんの現在の様子もちょっと見てみたくなる。


(碓井広義/メディア文化評論家)


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