ホルムズ海峡が、かつてない緊張の淵に立たされている。ペルシャ湾の出口を扼するこの狭隘な海域は、世界の原油供給の約20%が通過する大動脈だ。
2026年に入り、米国とイランの対立は軍事衝突の応酬へと発展した。米軍の空爆とイランのドローン攻撃が繰り返される現状は、単なる「地政学的リスク」の枠を超え、世界経済のサプライチェーンを麻痺させかねない実体的危機へと変貌している。

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 この危機の最大の犠牲者の一角が、フィリピンをはじめとするエネルギー輸入依存型の新興国だ。自国内での精製能力が限られ、ガソリンや軽油、ジェット燃料といった石油製品の調達を海外に仰ぐ国々にとって、ホルムズ海峡の機能不全は国家の経済活動そのものを停止させる「致命的なボトルネック」となる。

 封鎖の連鎖、エネルギー市場の混迷

 米国とイランの対立は単なる摩擦ではない。今年2月に開戦した「2026年イラン戦争」を経て、4月にパキスタンの仲介で一度は停戦合意に達したものの、両国の対立は解消されていない。双方が停戦合意違反を互いに主張し、軍事的応酬が連日のように続いている。

 特筆すべきは、海峡を管理しようとするイランの動きと、それを阻止する米国の海上封鎖という対立構造だ。イランが設立した「ペルシャ湾海峡当局(PGSA)」による通航料徴収制度化に対し、米財務省は制裁指定という強硬措置をとった。この結果、ホルムズ海峡は事実上の閉鎖状態が続き、数千人の船員が湾内に取り残される事態に陥っている。

 エネルギー調査会社「ロジスティック」の分析によれば、この事態は単なる価格高騰を招いたのではない。戦争危険保険料の急騰や通航不能に伴う物流停滞が、原油の物理的供給不足を深刻化させている。
市場が最も恐れるのは価格高騰以上に、燃料が届かないという「量」の欠乏である。

 フィリピン経済が抱える構造的脆弱性

 フィリピンはこの危機の最前線に立たされている。同国はエネルギー源の9割以上を中東からの輸入に頼っており、ホルムズ海峡の停止はフィリピンのエネルギー供給停止と同義だ。

 フィリピン政府が3月に「国家エネルギー非常事態」を宣言した背景には、石油備蓄がわずか45日分程度に減少していた現実がある。国内製油所の閉鎖が相次いだことで、同国は原油を輸入して加工するのではなく、精製済み燃料を調達する「石油製品依存型の経済構造」へと移行していた。この経済合理性の選択が、今、安全保障上の脆弱性として顕在化している。

 現地メディアや経済分析機関の報告によれば、ガソリンや軽油の価格は高騰を続け、物流コストの増大が食料品や生活必需品の物価を押し上げている。さらに深刻なのは交通機関への打撃だ。市民の足であるジープニーやトラックの燃料価格が2倍以上に高騰し、事業停止やストライキが各地で相次いでいる。物流網の寸断は食料や医薬品の供給を停滞させ、社会不安を増幅させている。

 経済安全保障の再定義が急務

 今回のエネルギー危機は、市場原理だけでは解決不能な「構造的難問」を突きつけている。

 かつて「石油を買えば手に入る」という前提で成立していた経済成長モデルは、ホルムズ海峡の緊張ひとつで瓦解する脆さを露呈した。
フィリピンのマルコス政権が講じる補助金や流通統制といった緊急措置は、あくまで対症療法に過ぎない。再生可能エネルギーへの転換や備蓄拡充といった長期戦略は不可欠だが、それらが結実するまでの期間、この国がどのような燃料供給網を維持できるのか、その見通しは極めて不透明だ。

 主要メディアや各国エコノミストが警鐘を鳴らすように、我々は今、地政学とエネルギー供給が直結した「新たなリスクの時代」に直面している。特定海域への過度な依存が、いかに国民生活の根幹を揺るがすか。フィリピンの現実は、グローバルな供給網の中で自国がどの程度の自律性を確保できるかという「経済安全保障」の原点に立ち返るよう、全ての関係国に問いかけている。

 エネルギー問題は単なる市場価格の上下ではない。それは国家の存続と国民生活を守るための、最も重い政治的課題であり続けている。
【編集:Eula】
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