世界第2位の経済大国として急成長を遂げた中国。その華やかな繁栄の陰には、表の経済システムと複雑に絡み合いながら肥大化を続ける、巨大な「地下経済」が存在している。
中国における汚職や不正資金の還流は、単なる一部の個人の道徳的逸脱にとどまらない。それは強大な国家権力と市場経済が密結合したシステムそのものに深く組み込まれ、独自の経済圏を構築している。

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 中国の汚職の底知れなさを物語るのが、2012年から始まった習近平政権による「反腐敗キャンペーン」の規模だ。公式統計によれば、これまでの約10年間で調査や処分を受けた党員や政府高官の数は約500万人に達し、そのうち実際に厳しい処分を下されたのは470万人を超える。この数字は、一般的な一国の全公務員数に匹敵する規模であり、まさに他国とは桁違いのスケールで行われてきた。摘発された地方の局長級や国有企業のトップらの自宅から、トラック数台分の現金や数10キログラムの金塊が押収されるニュースは、今や中国の日常的な風景となっている。

 この桁違いの汚職を生み出す最大の構造的要因は、土地やインフラ開発に対する国家の強大な許認可権にある。中国では土地はすべて国有または集団有であり、地方政府の幹部が開発権や利用権を民間の不動産デベロッパーに売却する裁量権を握っている。高度経済成長期、この開発権をめぐって巨額の「賄賂」が飛び交った。デベロッパーは役人に巨額の非公式資金、すなわちアンダーマネーを提供することで、割安に一等地を獲得し、役人はその見返りに莫大な個人資産を築き上げた。地方政府の幹部が主導するインフラ建設や不動産開発の裏側には、常にこうした利権構造が張り巡らされていたのである。

 こうして蓄積された莫大な不正資金は、国内にとどまることなく、巧妙なルートを通じて海外へ流出している。
中国政府は個人による海外への外貨送金を「年間5万米ドル」までに厳しく制限しているが、この規制こそが皮肉にも巨大な「地下銀行(アンダーグラウンド・バンキング)」を発展させる温床となった。地下銀行が用いる代表的な手法が、古くから伝わる非公式送金システム「飛銭(フェイチェン)」の現代版である。このシステムでは、実際に国境を越えて現金を輸送することはしない。資金を海外へ移転させたい依頼者が、中国国内の地下銀行が指定する国内口座に人民元を振り込む。すると、ほぼ同時に、香港やシンガポール、欧米などにいる地下銀行の提携相手が、現地通貨で同額を依頼者の指定する海外口座へと入金する。資金移動は簿記上の相殺だけで行われ、国境を越える国際送金の記録は一切残らない。ある一つの地下銀行グループが、年間で数700億元(約1兆数千億円)もの資金を海外に不法送金していた摘発事例もあり、中国全土を網羅する地下マネーの流出額は年間で数10兆円規模に達すると推定される。

 さらに近年、この地下経済圏は最先端のテクノロジーと融合し、さらなる進化を遂げている。中国国内では暗号資産(仮想通貨)の取引が全面的に禁止されているが、地下送金ルートでは米ドルと連動するステーブルコイン「テザー」などが盛んに利用されている。追跡が困難な暗号資産は、マネーロンダリングの道具として瞬時に国境を越え、当局の監視網を無力化している。また、貿易取引の偽装による資金流出も常套手段だ。架空の商品取引や、実際の商品の価値を大幅に過大申告する手口によって、正規のビジネスを装いながら合法的に巨額の資金が海外のダミー会社へと流れている。


 このように、中国の急激な経済成長を支えてきたのは、表の法秩序だけでなく、こうした巨大な「影のマネー」が潤滑油として機能してきたという側面がある。徹底的な摘発キャンペーンによって表立った派手な汚職こそ減少したものの、富と権力を求める人々の欲望は途切れることなく、地下深くへとその根を伸ばし続けている。合法と違法の境界線が極めて曖昧な中国特有のアンダーマネー経済圏は、今やグローバルな金融システムをも巻き込み、世界一の「影の帝国」として君臨しているのだ。
【編集:af】
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