今年4月にテレビ東京で放送された『最強大食い王決定戦2026春』では過去のレジェンドが残した記録が次々に更新され、この競技が積み重ねてきた歴史と技術の革新を強烈に印象付ける内容となった。
今大会で優勝を果たしたのは、“大食いターミネーター”Ryuだ。
大食いというジャンルに足を踏み入れてまだ2年足らずの彼が、短いキャリアにかかわらず日本一を獲得。

怒涛の成長スピードを見せた彼のモチベーションは、「大食い業界を変えたい」「このままだと、日本の大食いは廃れていってしまう」という危機感だったようである。

これからの大食い界を背負い、牽引していくつもりの彼が発した覚悟の言葉をとくと受け止めてほしい。

日本一の大食いファイターが抱く、尋常ではない“覚悟”「このま...の画像はこちら >>

独学のトレーニングで掴んだ頂点

――優勝直後、男泣きされているRyuさんの姿が印象的でした。大食い日本一になった今のご気分は?

Ryu:大食いの活動を始めて2年弱なんですけど、短いようで長かったです。本当にいろいろあったので。めずらしいですが、僕は最初から食べられた天才型ではなく、トレーニングして食べられるようになったタイプなんです。

――大食いできるように、どんなトレーニングを積んできたのですか?

Ryu:人によって違うと思うのですが、僕は食べられる胃をつくることが先決だった。それで初めて経験不足を補えると思っているので、まずは胃を広げるトレーニングに励みました。事前に重量を計ったうえでデカ盛りメニューを食べきり、限界をねらっていく。

今、国内の現役で10㎏を完食できるのは今回の『大食い王』で決勝に進出したカワザイル君とていねい木下さんと僕くらいで、僕は最大値が11㎏。国内で一番食べられる位置にまでは来たと思っています。

僕が大食いを始めた頃、日本で現役最強と言われていたのはカワザイル君でした。
頭一つ飛び抜けた存在だったので、「自分が大食いをするうえで、彼の実力に追いつけるか否かが目安になる」と思っていました。

生成AIに相談した大食いの技術

――今回の決勝には、図らずもそのトップ3が揃っていたわけですね。そんな今大会に向けて、直前にはどのようなトレーニングを行いましたか?

Ryu:決勝がラーメン対決(スープは飲まなくて可)になることは知っていたので、つけ麺や替え玉形式のトレーニングを重ねて食道に詰まらないよう対策しました。

『大食い王』のラーメン対決は普通のラーメン対決と違います。まず、伸びていないフレッシュな麺がずっと出てくる。ということは、伸びて水分を含んだ麺と違い、食道で詰まりやすくなります。

だから、麺を口に入れたタイミングで水を“飲む”のではなく、少し流して麺をすべりやすくします。トッピングの具は詰まりにくいものから食べ、最後に一番詰まりやすいメンマを食べる。そういった細かなことの繰り返しをルーティンにしていきました。

あと、ChatGPTに相談もしたんです。「俺、超食いRyuという名前で活動していて塩ラーメンが詰まりやすいんだけど、どうしたらいいかな?」って(笑)。

――本当ですか(笑)?

Ryu:「決勝のラーメン対決はめちゃくちゃ技術戦だよ」と、飲み込むときの姿勢とか専門的なテクニックを本当に教えてくれるんですよ。

もともと、僕は一口で大きく塊にした麺をガンガン入れていくタイプだったんですね。
でも、ChatGPTから「団子状にしないで小さな束にしよう」「すくったばかりの麺は激熱だから冷ましながら端から食べていこう」「一口の咀嚼の回数は4~5回にして」と、いろいろなテクニックを教わりました。

実力派の新人ゆえに干された過去も

――先ほど、「この2年間はいろいろなことがあった」と伺いましたが、トレーニングでつらいことがあったのでしょうか?

Ryu:トレーニング以外にもいろいろありました。大食い界に入ってすぐ、業界ではメジャーなとあるYouTubeのコンテンツへ呼んでいただき、MAX鈴木さんとの大食い対決で僕が勝ったんですね。

すると、そこからピタッとお声がかからなくなり「力を持っている人たちから距離を置かれている」と感じるようになりました。

――つまり、出る杭が打たれるような?

Ryu:でも、逆に動きやすくなりました。そこからは全国の大食い記録を片っ端から塗り替えていったんです。現役最強の大食いファイターになれたら、そこでやっとスタートラインだと思っていたので。発言権を得て、業界を盛り上げるために、みんなが今まで言ってこなかったことを口にしていく。

――それは、大食い業界に対して?

Ryu:そう、業界に対してです。あと、ファンの人たちにも見る目を持ってもらい、本物と偽物を区別してもらいたいと思っています。

つい最近も、食べていないデカ盛りメニューをまるで食べきったように編集した大食い系YouTubeチャンネルが炎上していましたよね。5㎏しか食べていないのに「7㎏食べました」と言ったり、トイレへ離席したのにその場面をカットしたり。そういう動画を平気で発信しているし、それがまかり通ってしまっている。


僕からすれば、「きついトレーニングをして努力した意味って何?」と思っちゃいます。難しい大食いチャレンジに成功しても、真っ当に評価されなくなるかもしれない。このままだと日本の大食いはエンタメのままで終わってしまいます。

お茶の間に“本物の熱狂”を取り戻す覚悟

――エンタメに寄った大食いには抗いたいですか?

Ryu:僕はどっちもアリだし、おいしく味わいながら食べるのも好きです。ただ、真剣勝負で「負けたくない」という気持ちが出たときは、フェアに競い合いをして勝ちたい。

昔、日本にも本気の大食いが流行っていた時期がありました。ジャイアント白田さんと小林尊さんが活躍していた時代です。でも、僕が入ってきた頃の大食い界は「おいしく楽しくきれいに食べてください」という風潮でエンタメ寄りだった。僕が見ておもしろいと思うもの、子ども時代にお茶の間で触れていた大食いはそんな感じではなかったんです。

体力を使う競技なので、年齢的にも時間がないという焦りが自分にはあった。だから、『大食い王』の開催がずっと待てませんでした。この大会はできるだけ早めに優勝しておいたほうがいい。国内で“ガチの大食い”を流行らせるために必要な最後の実績が、『大食い王』優勝だったんです。


いくら偉そうなことを口にしても「いや、『大食い王』で優勝してないじゃん」と思われかねない。だから、有無を言わさない実績が必要でした。

真の強者を呼び込む開かれた環境作りを目指す

――業界を変えるために、これからどんなことをしていくのですか?

Ryu:大食いはトレーニングがしんどいだけじゃなく、食費もかかる。僕も月に40~50万円くらい出費します。だからこそ、見返りのある業界に変えていきたい。今は大食いをもとにしたインフルエンサー活動で稼ぐ人が主ですが、「大食いできる」という能力自体が稼ぎに直結する環境にしていきたいです。

たとえば、大食いの大会をもっと増やしていきたいし、テレビでも勝ち負けがはっきりする本気の大食い番組をつくってほしい。それが一番熱狂できるし、eスポーツのように選手や大会にスポンサーが付くのも理想ですよね。

「ここに懸けたい」と思えるくらいの見返りがあれば、がんばる人たちが出てきやすいと思います。新しい人たちがもっと入ってきやすいオープンな業界にしていきたいですね。

――『大食い王』に優勝し、業界を変えるためにようやく動き出せる。そういう意味の男泣きでもあったのですね。

Ryu:はい。
この2年間、大食い界で僕以外に強い新人は出てきませんでした。なぜなら、努力を重ねて強くなっても見返りが少なすぎるから。

食費はかかるし、「どうしてこんなことをやってるんだろう?」と思うくらいトレーニングは孤独でつらい。新しい人が入ってきやすい、もっとライトでオープンな業界にしなければならないと思っています。

閉鎖的な業界構造への危機感

――今の大食い界はオープンな世界ではないのですか?

Ryu:そうです。

――先ほど、Ryuさんは「ベテランたちから距離を置かれた」とおっしゃいました。既得権益を持った人たちが自分のポジションを守るため、強い新人を村八分にする構造があるのでしょうか?

Ryu:それはファンの人たちも感じていたと思います、わかりやすかったので。それまでは「Ryuという新人が出てきたよ」という感じだったのが、いきなりスッと干されてしまう流れがありました。

でも、そういう働きかけをする人たちのなかにガチのファイターはいないと思います。気質が本当にガチならば、そんな汚いことはしないし。今の国内の大食いは、2年間努力しただけの自分が日本一に到達できてしまう程度だったということです。

僕が業界に入った頃、当時のトップ勢を見て「『本気で打ち込んでる』と語る面々がこれぐらいだったら、日本の大食いはこのまま消えてなくなってしまう」と思いました。好きな大食いだから流行ってもらいたいし、活気が出れば大きな見返りが選手たちへ勝手に返ってきます。


別に、僕が一番じゃなくてもいいんです。逆に、自分より強い人に出てきてほしい。そこで自分も燃えるような気持ちになり、「もっと勝ちたい!」と思いたいし。

男性選手に立ちふさがる、大いなる壁

――今回の『大食い王』は、配信者の新人が多かったですよね。“大食いYouTube”を入り口に、多くの人材が大食い界に入ってきました。この流れが業界全体の底上げになるのでは? という期待感があります。

Ryu:100%、その流れだと思います。僕は業界内に新しい人が出てこないとダメと思っているんですね。でも、結局は昔からいる人ばかりで、いつまでも顔ぶれは変わらなかった。はっきり言って、その状況で流行るんだったらとっくに流行っています。

最近は大きな重量が食べられるよう意識してトレーニングする若い女の子たちが急に出てきました。今年になって本気の大食いが流行る流れをすごく感じています。

特に、多部田ねるちゃんとあさりちゃんは9㎏以上入れられる胃を持っている。食べられる量で言ったら、女性のなかでトップです。この2人は意識が真面目で、ものすごくトレーニングを積んでいますね。

――男性で注目の新人はいますか?

Ryu:大食いYouTubeは“若い女の子”という属性のメリットがすごく大きいです。男女がそれぞれ配信を行ったら、若い女の子のほうがみんなに見てもらいやすい。

逆に言うと、いくらポテンシャルのある男子が配信を始めても毎日続けるのは難しいです。食費がめちゃくちゃかかる活動だし、視聴回数が伸びないから収益にはつながらない。だから、食費が賄えられない。

すべて、“ガチの大食い”が流行っていないからです。結果、男子の強い若手が育っていない。僕は男のほうも盛り上げていきたいと思っているのですが。

競技性とエンタメ性を両立させるには

――難しい問題ですね。

Ryu:よっぽどキャラクターがあったり、セルフブランディングできる人じゃないと、特に男は難しい。だから、食べることだけじゃなく見てもらうための努力も必要です。

それは、僕自身にも言えます。ガチ大食いが好きで、流行らせたいと思うならば、ライト層へも広げなければならない。だから、「ガチとエンタメ、どっちもやらないといけない」と思っています。好きなことだけやり続けても、流行にはならない。得意ではないですがエンタメもやり、ガチと合わせてどちらも両立していきます。

――そういえば以前、『クイズ☆正解は一年後』(TBS)の企画で“デカくてマズいラーメン”を食べていましたね(笑)。結果は制限時間に間に合わず、スープを残した状態で完食ならずでした。

Ryu:あれは、今だったら食べられるという感覚があります。でも、本当においしくなかった(笑)。あのラーメンにはかえし(タレ)が入ってないんです。大量の酢が使われて、もやしも4kgぐらいある。

――よく、あそこまで食べましたね(笑)。

Ryu:ラーメンが10㎏もあるとマラソンのような感覚になります。その状況ですべてがおいしくないのはキツすぎました(笑)。

――「なんのために食べているんだ」の極地ですね。

Ryu:ただ、今ははっきり「完食できる」という感覚があります。自分は予想を外さないので。

新王者が描く未来の競技シーン

――それは胃の容量が増えたから?

Ryu:そうですね。だから、あのときより早く食べられる範囲が増えました。実際、あのときもスープが約1リットル残っていただけでもう少しだったんです。よほどの限界量じゃなければ、そのまま走りきればいいだけの話なので。

――ちなみに、次回の『大食い王』で「こいつは来るぞ」という注目の存在はいますか?

Ryu:国内で新しい人はいないですね。いきなり厳しいトレーニングを始めたらわかりませんが、我々と競えるレベルの人はしばらく出てこないと思います。

でも、それが嫌なんですよ。自分だけがトレーニングして、自分だけが食べられるようになって、自分だけ盛り上がって……ではなく、業界が盛り上がり、強くなるであろう新人たちが出てきて、そういう人たちを育て上げられる環境に変えてみせたい。自分も新しい人を育てられるメンタルでいたいなと思うし。

<取材・文/寺西ジャジューカ>

【寺西ジャジューカ】
1978年、東京都生まれ。2008年よりフリーライターとして活動中。得意分野は、芸能、音楽、(昔の)プロレス、ドラマ評。『証言UWF 最後の真実』『証言UWF 完全崩壊の真実』『証言「橋本真也34歳 小川直也に負けたら即引退!」の真実』『証言1・4 橋本vs.小川 20年目の真実 』『証言 長州力 「革命戦士」の虚と実』(すべて宝島社)で執筆。
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