「僕が見たかった青空」、2023年6月15日に乃木坂46の公式ライバルとして結成したアイドルグループ(通称:僕青)だ。
同グループはセカンドシングル以降、シングル選抜システムを採用。
この連載「あの日夢見た雲組」は、12月17日リリースの7枚目シングル「あれはフェアリー」で活動していた雲組メンバーが何を思うのか。今回は、3枚目から5枚目シングルまで雲組で活動していた杉浦英恋とともに、全国ツアー2026のファイナル「結成3周年記念 僕が観たかった『青空野外』ライブ2026」を振り返っていく。
「ずっと雨予報は出ていたので、覚悟は決まっていた」
2026年6月20日。僕青にとって初めての野外ワンマンライブとなる会場、河口湖ステラシアターの空は、あいにくの雨だった。それでも杉浦英恋は、笑っていた。
僕青のやんちゃなムードメーカーとして知られる杉浦は、野外ライブの前日、6月19日に18歳の誕生日を迎えた。
「誕生日だからとかはあまり意識していなくて、まつ毛パーマをして、買い物をして、普段と変わらない休日を過ごしていましたね。一応、成人を迎えたということで両親や友達からメッセージが届いてお祝いしてもらいました」
そんな彼女も開演が近づくにつれて緊張が高まっていく。円陣では緊張した面持ちでリーダー塩釜菜那の言葉に耳を傾けていた。
ライブの開演を告げるチャイムが会場に鳴り響くと、ファンのコールが一段と大きくなった。オープニング「君と見た空は」は、このライブで初めてメンバーが客席から登場するという客降りの演出が組まれた。杉浦は最初の声出しという大事な役目を担っていた。
「今までツアーで回ってきたライブハウスやホールとは違って、半円形という会場だからお客さんが入ったらどうなるんだろうっていうワクワクがありました。いざ出ていくと、思った以上に迫力があって、声援がダイレクトに届くんですよ。その感覚が今までに感じたことがなくて、ぶわっと込み上げて泣きそうになりました。ファンの方の近くに行くと、どんな表情をしているのかも見えるし、こんなに笑顔でいてくれるんだっていうのが嬉しかった。最初にステージから掃けたときに、他のメンバーも舞台袖で同じことを言っていました」
普段なら見せない感情もパフォーマンスなら全力で表現できる
現役高校生3人組、杉浦・工藤唯愛、八重樫美伊咲による「夏YASUMING!」では、雨が降る会場を、灼熱の夏に変えてしまうほどの盛り上がりだった。「この日が初披露っていうことを忘れちゃうぐらい体が自然と動いていて、会場の盛り上がりもすごかった。調子に乗って予定になかった煽りとかも入れちゃったりして。でも、あの曲すんごい疲れるんですよ。ステージの右へ、左へ、ずっと動きっぱなしなので(笑)」
「過去には八木仁愛ちゃんと二人でダンスインターを披露させてもらったり、全員でダンスしているなかでソロなどはあったりしたんですけど、あんなに堂々と立ってひとりで踊る時間をいただいたのがなかったので、ずっと緊張しました」
この曲は、杉浦にとって特別な楽曲だ。普段は明るい曲でメインメンバーを担うことの多い彼女にとって、自分の内側にあるものをそのまま乗せられる感覚があるという。
「私は昔から完璧主義なところがあって、悩んでいる姿を見せるとか、そういうネガティブなところを人に知られるのが苦手なんです。でも、パフォーマンスならそういう感情も曲を通して全力で表現できる。それが誰かに届いて、『あなたはひとりじゃないよ』と支えるきっかけになれたらいいなと思うんです」
「これまでの会場だと、『炭酸のせいじゃない』はアカペラから始まって、そこから(早﨑)すずちゃんのピアノが入って合唱の演出していたんですけど、野外ライブで初披露する『雨かんむり』という合唱曲の印象が弱まってしまうじゃないかという意見があって、アレンジを変えたりもしました。八木仁愛ちゃんのソロ曲『This is heaven!』の演出はかっこいいなって思いました。あれは演出家さんたちが決めたんじゃなくて、仁愛ちゃんが自分で提案した形で実現した演出だったので、初めての会場でこういう使い方を思いつくのはやるなぁって」
終演後、金澤亜美とツアー初日に行ったラーメン屋へ
東京に着いてから、金澤亜美ちゃんとラーメン屋に行き、塩白湯ラーメンをかきこんだ。二人だけだったが、ささやかなお疲れさま会をしたそうだ。
「そのラーメン店には、全国ツアーの1か所目の神田公演が終わった日も行っていて、ツアーのスタートとファイナル、同じお店で過ごしたっていうのもよかったなと」
「そんなに取り繕うこともなく、明るい人ではあったかな。誰とでも話せる人間ではありましたけど、深い話ができる親友は2人だけでした」
漫画やアニメが好き。とくに、『アイカツ!』の星宮いちごに心を奪われていた。
「『アイカツ!』に出てくる星宮いちごちゃんっていう主人公の子が好きで、その姿に憧れてアイドルになったといっても過言ではないですね。いつも明るくて、何ごとにも努力を惜しまないところが、誰もが想像するザ・アイドル。それに、自分の夢は絶対に諦めないところも憧れていました」
クラスでもムードメーカーだったのかと思いきや、誰にも言えない悩みを抱えながら苦しんでいた時期もある。
「14歳、中学2年生の頃からあんまり人間関係がうまくいかなくて、学校に行っても、ひとりで過ごすことが多くなりました。つらい思いをしてまでわざわざ行きたくないなというか。全てを逃げ出したいなと思っていて、アイドルに限らず、いろんな芸能事務所のオーディションを受けていたんです」
「あなたは不合格」って言われるのが怖かった
新しい居場所として芸能界に目を向けたのは、両親の影響が大きかった。「昔から周りの人と考え方が違うことが多くて、『英恋は変わってるね』と言われてしまうことが馴染めない理由でもあったんです。でも、そういう私をお母さんは一度も否定しなかった。お父さんとお母さんが昔、表舞台を目指していたっていうことを聞いて興味が沸きました」
だが、オーディションに応募して書類審査に合格しても、次の審査には行かずに辞退を繰り返していた。
合格を知ったとき、家族は喜んでくれた。でも杉浦の心境は複雑だった。
「自分は運がいいなとは思っていましたけど、上手くいきすぎているというか。初めてちゃんと受けたオーディションで、合格したっていうことに驚いてしまって。私は愛知に住んでいたので、1週間後にはひとりで上京して生活が一変するっていうのも不安でした」
「その苦しさを誰かに伝えて頼ることもできなくて、また、ひとりなのかなって。
「私はライブで勝負できるアイドルになりたい」
「自分が好きじゃなかったというか、こんなんじゃ戦っていけるわけないじゃんって思ったんです。マネージャーさんから提案されて切ることになったので、私だけだったら絶対にその決断はしていなかったと思います。ショートカットにして、周囲からの見られ方が変わった気がしました」
3枚目~5枚目シングルに収録された雲組楽曲「涙を流そう」「初めて好きになった人」 「青春の旅人よ」でメインメンバーを務める。とくに定期的に行う雲組単独公演のステージは、今でも彼女の軸になっている。
「ライブの楽しませ方を深く知ることができたのは、雲組単独公演かなって思います。雲組の公演にはモニターがなかったので、ファンの方に自分の表情やパフォーマンスがすんなり伝わる環境じゃないんです。だから現場の空気感を理解して、どう煽ろうかなとか、どうしたらたくさんの人にパフォーマンスを届けられるか。そういうことをずっと考えていたので、その経験は今でも生きていますね。
「雲組にいたときの私は、『いつメインメンバーの話が来ても立てますよ』っていうぐらいの気持ちでした。6枚目の活動期間が始まって、徐々にグループの中心に立つというプレッシャーを襲ってきて、ずっときつかったです。気にしいな性格だから、ファンの方の声も気になっちゃうんですよ。否定的なコメントに対する申し訳なさというか、本当に私でよかったのか?って。それが17歳になった頃だったので、本当に最悪なスタートでした」
「できることなら今のメンバーで最後まで」
そのなかでも、雲組の定期公演には足を運んでいた。ほかの青空組メンバーも見学に来るなかで、杉浦はひとり違う気持ちを抱えてステージをじっと見つめていた。
雲組のメンバーにしかわからない苦悩や葛藤がある。杉浦はその立場を誰よりも知っていたからこそ、観ている側にも真剣になってほしいという気持ちがあった。
「私が思い込み過ぎていたというか、本気で取り組んでたからこそ、青空組のメンバーから『応援しにきたよ』みたいな空気を感じると悔しかった。他のメンバーがどう思っていたかわからないけど、私はそう思ったので。だから、私が雲組公演を見るときは誰よりも厳しい目で見ようっていうのは決めています」
僕青は結成4年目を迎える。グループの個性は輝き始めているものの、令和のアイドルグループが直面する難しさも、杉浦は肌で感じている。
「今の時代は流行れば楽曲もより多くの人に聴いてもらえるわけなんですけど、流行らなければこっち側がいくら『すごく良い曲なんです』って提示しても見てもらえない。僕青らしさは、楽曲の世界観やパフォーマンスにあると思うけど、短い動画がスワイプ一つでどんどん飛ばされてしまう時代でもあるから、そこは難しいなって思いますよね。だから、今はSNSの使い方についても全体でかなり話し合ってます。なりふり構わずいっぱい出すっていうのも作戦の一つなのかなと思ったりもするんですけど」
「未来のことはわからないです。ただ、僕が見たかった青空っていうグループを長く続けていくなかで、人数の変動っていうのはどうしてもあるわけで。できることなら今のメンバーで最後まで頑張りたいっていう想いは持っていますけど、常に頭の片隅に考えてはいますね」
「自分が信じている目標を大きな声で言い続けます」
彼女の口からは、何度か「緊張しい」「気にしい」というワードが出てくる。ステージに立つエネルギーに満ちた姿からは想像もつかない。その切り替えはどうしているのだろう。「公演の1曲目が流れるとその曲の世界に入っていく感覚があるので、ステージに立っているときはあまり緊張は感じないかもしれないです。でも、ライブ前日の夜は、いまだに眠れないくらいですし、ステージ立つ直前の僕青チャイム(Overture)が流れてる時ぐらいは心臓バクバクしてるんですけどね。そういう二面性があるタイプなので、他人から見ると憑依タイプに見えるのかもしれない。まあ、自分でも自分がよくわからない人間なんですよ(笑)」
その言葉が生まれた背景には、青空野外ライブの数日前に行われた2回目のメンバーミーティングがあった。現状の僕青への思い、グループの未来への思い。それぞれが本音をぶつけ合い、対立した部分もあった。「僕青はアリーナでの公演を目指しているが、現状ではその目標を大きな声では言えない」。そんな空気が流れても、杉浦は真っ向から異を唱えた。
「全国ツアーを通して、どの会場もチケットを完売させることはできなかったし、動員でみたら厳しい状況かもしれない。だけど、私たちは『僕が見たかった青空』という名前もそうだし、デビュー曲『青空について考える』でも、夢を見ることを忘れちゃいけないっていうことを語っているグループなんです。なおさら、自分たちが現実を見すぎていて、夢を語るのを止めるのは違うんじゃないかなと思って。私は無理だと思っていないし、誰に何を言われても、自分が信じている目標を大きな声で言い続けます」
「私は誰かを引っ張れるようなタイプではないので、背中を見てほしいというか。だから、またメインメンバーになりたいです。良い意味でやりたい放題できるんですよ、真ん中に立たせてもらうって。あと、デビューしたときに当時のマネージャーさんと『18歳でキラキラスーパーアイドルになる』って目標を立てているんです。なにをもってキラキラスーパーになれるのか、まだ見えてないですけどね」
そう言って、杉浦はまたいたずらに笑った。
【杉浦 英恋(すぎうら えれん)】
2008年、愛知県生まれ。ニックネームはえれん。2023年6月15日に結成したアイドルグループ「僕が見たかった青空」(通称「僕青」)のメンバー。8thシングル「FUNKY SUMMER」が発売中。デビュー3周年となる8月30日には「アオゾラサマーフェスティバル2026」の開催を控える。最新情報は公式HPをチェック。杉浦の公式instagram:@sugiuraeren_bokuao
<取材・文/吉岡 俊 撮影/後藤 巧>
―[あの日夢見た雲組]―
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