中国においてビジネスや政治を円滑に進める上で、決して避けて通ることができない概念がある。それが人と人との強固なネットワークを指す「関係(グアンシー)」である。
法律や公式な契約文面よりも、誰と誰が繋がっているかという属人的な結びつきが圧倒的な効力を持つこの国において、関係を構築し、維持し、そして深化させるための最も強力なツールが「接待」である。しかし、中国における接待は、日本のビジネスパーソンが想像するような単なる飲食の場の提供や親睦を深めるための懇親会とは次元が全く異なる。それは相手の最も深い個人的な欲望を刺激し、理性と道徳のタガを外させ、最終的には相手を自らの影響下に完全に組み込むための極めて計算し尽くされたシステムなのだ。高級食材を並べた豪華絢爛な宴席はあくまで序章にすぎない。夜が深まるにつれて、接待の舞台は公の場から隔絶された空間へと移り、酒、カネ、そして「性」が複雑に絡み合うダーティーな深淵へとターゲットを引きずり込んでいく。

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 2012年に習近平政権が苛烈な「反腐敗キャンペーン」を開始して以降、5つ星の高級ホテルや誰もが知る有名レストランでのあからさまな大宴会は影を潜めた。しかし、それは接待文化が浄化されたことを意味しない。当局の監視の目を逃れるため、接待の舞台はより閉鎖的で秘匿性の高い「会所」と呼ばれる完全会員制のプライベートクラブや、防音設備と専用エレベーターを備えた超高級な「KTV(カラオケボックス)」へと地下潜行を遂げたのである。こうした施設は外観からは何の変哲もないオフィスビルや隠れ家的な邸宅に見えるが、1歩足を踏み入れれば、そこには特権階級のためだけに用意された別世界が広がっている。1本数10万円もする最高級の白酒や年代物のボルドーワインが水のように消費され、高レートの賭けマージャンなどを通じて、事実上の現金の譲渡が日常的に行われている。参加者は監視カメラが排除されたこの密室で、日頃のプレッシャーから解放され、極限の享楽に身を委ねる。

 そして、この密室空間において最も強力な武器として機能するのが「性接待」である。
中国のアンダーグラウンドな接待文化において、性的サービスの提供は単なる一時的な娯楽ではなく、極めて戦略的な投資として位置づけられている。高級KTVや会所には、モデルや女優の卵、あるいは有名大学の女子学生などが多数在籍しており、ターゲットとなる高級官僚や重要顧客の好みに合わせて手配される。接待を主催する企業側は、単にその場のサービス料を支払うだけでなく、ターゲットが気に入った女性を「愛人」として継続的に囲うための費用すらも全面的に負担することが珍しくない。高級マンションの購入費や高級車のリース代、さらには毎月の生活費に至るまで、これらはすべてビジネスを成功させるための「必要経費」として裏帳簿で処理される。生きた人間を賄賂として提供し、相手の最も個人的で秘められた欲望を満たすことで、強固な忠誠心と依存関係を人工的に作り出しているのである。

 この常軌を逸した接待文化の根底にあるのは、「共犯関係」の構築という冷酷な計算である。共に法を犯し、道徳を破り、快楽を貪ったという事実こそが、関係を絶対的なものにする。中国の政財界には「一緒に悪事を働いた者でなければ、本当に信用することはできない」という不文律が存在する。極秘の密室で性的な接待を受け入れた瞬間、その役人やビジネスパートナーは接待側と一蓮托生となる。もし将来的に相手の要求を拒絶したり、裏切ろうとしたりすればどうなるか。密室での乱痴気騒ぎや性行為の一部始終は、実は隠しカメラによって周到に録画・録音されているケースが少なくない。いわゆる「ハニートラップ」である。
この決定的な証拠を突きつけられた者は、もはや抵抗する術を持たない。社会的な破滅や汚職での摘発を恐れるあまり、企業側から提示される理不尽な認可の要求や、自国に著しく不利な契約書に判を押し続けるしかなくなるのだ。

 これは海外から進出してきた外資系の経営者や、他国の外交官、さらには一帯一路の投資先である途上国の要人も決して例外ではない。中国企業は相手の隙を突き、巧妙に接待の場へと誘い込み、1度でも欲望の誘惑に負けた者を徹底的にコントロール下に置く。人間の最も根源的な本能である色欲と金銭欲を人為的に操作し、それをビジネス上の絶対的な権力や交渉力へと変換させる。これこそが、中国が国内外で驚異的なスピードで勢力を拡大してきた裏側に潜む、最もダーティーで抗いがたいエンジンである。表向きの法整備やクリーンな企業統治がどれほど声高に叫ばれようとも、人間の欲望を冷酷にハックするこの密室の接待文化が存在する限り、中国におけるビジネスの真の意思決定は、常に暗闇の中で下され続けるのである。この闇の深さを理解せずして、中国という巨大なシステムの本質に迫ることは不可能と言わざるを得ない。
【編集:af】
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