問題となったのは、Tシャツにデザインされた「Hey, you yellow monkey!」というロゴです。
これを受け、THE YELLOW MONKEYは当該グッズの販売を取りやめることを発表しています。
繰り返されるアーティストグッズの「撤回劇」
もっとも、著名アーティストのグッズがネット上で議論を呼び、販売中止やデザイン変更に追い込まれるケースは、今回に始まったことではありません。椎名林檎のヘルプマークをモチーフにしたグッズや、旭日旗をデザインに取り入れたグッズも大きな批判を招きました。またRIP SLYMEがドナルド・トランプ米大統領のスローガン「MAKE AMERICA GREAT AGAIN」をもじった「MAKE RIP SLYME GREAT AGAIN」というグッズを販売した際にも、政治的なメッセージを軽々しく消費しているとの声が上がりました。
いずれも、際どいユーモアや挑発的な表現を持ち味としてきたアーティストたちです。だからこそ、彼ららしいアイデアとして受け止めるファンも少なくありませんでした。
しかし、ひとたびネット上で問題点が指摘されると、いずれも撤回や販売中止という結論に至っています。
では、なぜ彼らの挑発は、結果として上滑りしたような印象を残してしまうのでしょうか。
ファンとの間では共有されていたアイロニー
第一に考えられるのは、オリジナルのデザインや表現が持つ歴史的な重みを、十分にコントロールできていなかった可能性です。「Yellow Monkey」という言葉は、日本人に対する差別的な呼称として、第二次世界大戦の記憶とも深く結び付いています。THE YELLOW MONKEYというバンド名自体が、その言葉を逆手に取った自虐的なアイロニーとして成立してきた側面は否定できません。しかし、その文脈は長年バンドを知るファンとの間で共有されているコードであって、一歩外へ出れば事情は変わります。
現代のネット空間では、サブカルチャー特有の複雑なコンテクストよりも、瞬間的でストレートな解釈のほうが優先されます。
もちろん、THE YELLOW MONKEY自身も、その危うさを理解していなかったとは考えにくいでしょう。むしろ、その危うさを承知の上で踏み込む姿勢こそが、彼らというバンドの魅力でもありました。
だからこそ、販売中止という結論があまりにも早かったことに、違和感を覚えた人も少なくなかったのではないでしょうか。
ネット炎上が一気に燃え広がる時代です。被害を最小限に抑えるための危機管理という側面も当然あったはずです。しかし一方で、この粘りのなさは、近年のアーティストグッズ騒動に共通する「表面的な挑発」という印象まで浮かび上がらせています。
椎名林檎、RIP SLYMEのケース
ヘルプマークは、病気や障害など外見からは分かりにくい事情を抱えた人が支援を受けやすくするための公共性の高いユニバーサルデザインです。それを商品として転用したことに対しては、「表現の自由」という以前に、公共性を私的な利益へ転換しているという批判が集まりました。
旭日旗のデザインについても、ネット上で大きな議論になることは容易に予想できました。それでも椎名林檎というアーティストであれば、そこには何らかの思想や美学が込められているのだろうと期待した人もいたはずです。
しかし結果として本人から十分な説明はなく、ヘルプマークを模したグッズはデザイン改訂されました。
RIP SLYMEのケースでは、その軽さはさらに際立っていました。
「MAKE AMERICA GREAT AGAIN」は、単なる選挙スローガンではありません。2021年には、その支持者らによる連邦議会議事堂襲撃事件という、アメリカ民主主義を揺るがす出来事とも深く結び付いた言葉です。その歴史を踏まえれば、2025年になってなお、そのフレーズを気軽なパロディとして商品化した感覚には違和感を覚えざるを得ません。
しかも、販売中止に際してメンバーやスタッフ、レコード会社から十分な説明はありませんでした。ただオンラインストアから商品が削除されただけです。
そこには、表現に対する覚悟も、ユーモアに対する責任も感じられませんでした。際どさだけを借りながら、その意味を最後まで引き受ける意思は見えなかったと言われても仕方がないでしょう。
覚悟なき「表層的な引用」の危うさ
今回のTHE YELLOW MONKEY、椎名林檎、RIP SLYMEの一連の事例から見えてくるのは、日本のポップミュージックが、表層的な引用や挑発の遊戯にとどまりがちであるという危うさです。もちろん、音楽そのものの価値まで否定されるべきではありません。しかし、グッズもまたアーティストの表現の一部である以上、そのデザインやメッセージには作品と同じだけの思想と責任が求められる時代になっています。
いま、J-POPは世界市場への進出が盛んに語られています。だからこそ必要なのは、日本のファンだけが共有する暗黙の文脈ではなく、多様な文化や歴史を持つ人々にも通用する、新たな表現のコードなのではないでしょうか。
<文/石黒隆之>
【石黒隆之】
音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。いつかストリートピアノで「お富さん」(春日八郎)を弾きたい。Twitter: @TakayukiIshigu4
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