今年3月、ソーシャルワーカー(精神保健福祉士・社会福祉士)の斉藤章佳さんと助産師の櫻井裕子さんによる共著、『10代のための「性と加害」を学ぶ本』(時事通信社)が出版されました。斉藤さんは性加害を行った少年たちの専門外来と再加害防止プログラムに携わり、櫻井さんは全国の学校で包括的性教育の講演を続けています。


 本書は、お二人の経験に基づいたお話が、イゴカオリさんの漫画によってビジュアルでわかりやすく描かれているのも大きな特徴です。

成績優秀、問題行動なし…“普通の子”が「性加害者」になるまで...の画像はこちら >>
 性にまつわるトラブルは、決して一部の人だけの問題ではなく、10代の誰もが当事者になり得る——。そう語る二人に、子どもたちを取り巻く環境の変化と、子どもを加害者にも被害者にもしないために家庭でできることについて話を聞きました。

成績優秀、問題行動なし…“普通の子”が「性加害者」になるまでに起きていたこと。「みんなやってる」がエスカレートの始まり<漫画>
『10代のための「性と加害」を学ぶ本』著:櫻井裕子、斉藤章佳、画:イゴカオリ(時事通信社刊)※以下同じ


成績優秀、問題行動なし…“普通の子”が「性加害者」になるまでに起きていたこと。「みんなやってる」がエスカレートの始まり<漫画>
10代のための「性と加害」を学ぶ本


成績優秀、問題行動なし…“普通の子”が「性加害者」になるまでに起きていたこと。「みんなやってる」がエスカレートの始まり<漫画>
『10代のための「性と加害」を学ぶ本』著:櫻井裕子、斉藤章佳、画:イゴカオリ(時事通信社刊)


成績優秀、問題行動なし…“普通の子”が「性加害者」になるまでに起きていたこと。「みんなやってる」がエスカレートの始まり<漫画>
10代のための「性と加害」を学ぶ本


成績優秀、問題行動なし…“普通の子”が「性加害者」になるまでに起きていたこと。「みんなやってる」がエスカレートの始まり<漫画>
10代のための「性と加害」を学ぶ本

「ごく普通の子」が性加害者になっている

――斉藤さんはソーシャルワーカーとして、また加害者臨床家として活動されるなかで、性加害を起こした子どもたちと向き合う機会が多いと思います。斉藤さんのもとには、どのような子どもたちが来るのでしょうか?

斉藤章佳さん(以下、斉藤):埼玉県川口市にある西川口榎本クリニックで、10代の性加害少年たちのプログラムを始めてから、これまでにおよそ300例を超えるケースを見てきました。性加害という問題自体は、性別を問わずに起こりうるものです。ただ、私がこれまで見てきたケースが全員少年であったことから、今回は少年たちのケースをもとにお話ししたいと思います。

 彼らの平均年齢は16歳代で、高校生がボリュームゾーン。特徴的なのは、家庭環境に一見大きな問題が見えない子や学校への適応が悪くない子が多いこと。中には偏差値の高い進学校に通っている子や、優等生と呼ばれるタイプの子もいます。彼らには万引きや薬物の自己使用、自転車窃盗、住居不法侵入といった、いわゆる典型的な非行歴もほとんどありません。見た目では、誰も気づかないような「普通の子」たちばかりです。私自身、最初はそのギャップに驚きました。
性加害を行う少年たちは決して特別な子ではないということを伝えたいと思ったのも、この本を書いた理由の一つです。

――少年たちが行う性加害はどのような種類が多いのでしょうか。

斉藤:クリニックに来る少年たちの性加害で最も多いのは盗撮です。次いで、のぞき、痴漢などが続きます。ただし、彼らはある日突然このような加害行為をするわけではありません。話を聞いていくと、小学生や中学生のころから、同意なく他人のプライベートゾーンに触れたり、着替えをのぞいたり、露出するといった行動がすでに始まっていたケースが多いのが特徴です。ところが、誰にも注意されなかった。「男の子はそれくらい元気で当たり前」と大人側になかったことにされたり、被害者側が被害を訴えられず、事件が表面化しなかったことで、見過ごされてきた。その「負の成功体験」が積み重なって、誤った学習が修正されないまま、より深刻な性加害へとつながったパターンです。

――櫻井さんは助産師活動の一環として、学校での性教育講演などを通じて、多くの子どもたちと接してこられました。教育現場で子どもたちを見ていて、どのようなことを感じていますか。

櫻井裕子(以下、櫻井):斉藤さんがおっしゃった「一度うまくいってしまうとエスカレートする」という図式は、教育現場でも同じことが起きていると感じます。
子どもたちは、とくに集団になると歯止めが利かなくなることがあります。最初は緊張しながら「よくないことかも……」とやっていたことが、一度明るみにならずにすんでしまうと、だんだん感覚が麻痺してしまうようです。

 さらに、スマホやSNSの普及によって、盗撮をはじめとする性加害行動はより身近に、カジュアルになっています。私の感覚では、そうした問題がまったく起きていない学校はないと言っていいほど、広く見られるようになっています。

――著書には、内輪の悪ノリがエスカレートした結果、加害行動へと発展してしまった事例が掲載されています。

斉藤:私が実際に担当したケースです。校内での盗撮を仲間内のSNSグループに投稿した少年がいました。その投稿が仲間に受け入れられ、評価されたことで、盗撮行為がエスカレートしていきました。結局、その少年は学校外で行った盗撮で逮捕されました。

子どもの加害意識を麻痺させるSNSの存在

――スマホやSNSの普及によって、子どもたちを取り巻く性加害や性被害がより身近な問題になっているように感じます。

櫻井:やはり、性に関する情報の入手方法に大きな問題があると感じています。私は講演の前に学校から協力していただける場合、子どもたちへ「性に関する情報をどこで得ていますか?」というアンケートを取ってもらうのですが、記名式だと「授業」や「教科書」と答える子が多いです。ところが、無記名で自由に回答できる場だと、情報源の上位はほぼ「ネット・SNS」になります。


 子どもたちが信頼しているのは、必ずしも正しい知識を発信している専門家ではありません。フォロワー数の多い人や影響力のある人の発信です。たとえ間違った避妊法や根拠のない情報であっても、発信者の知名度が高かったり、内容にインパクトがあったりすると信じてしまう。そして、「これ知ってる?」と友人同士で共有されるうちに、どんどん拡散されていきます。

――著書の中には、「童貞だと『童貞臭』がする」という話を信じて、焦る男の子のエピソードも紹介されていました。

斉藤:間違った情報であっても、「みんながそう言っている」というだけで信じてしまう傾向があります。子どもたちの話を聞いていると、「~らしいよ」という形で伝わる情報がとても多いことに気づかされます。では、その情報源はどこなのかというと、ほとんどがSNSです。しかも、その内容の出どころもあいまいで誇張されすぎたり間違っていることも少なくありません。

 もちろん、誤った情報を信じてしまうこと自体も問題です。ただ、私がそれ以上に問題だと感じているのは、その間違いを修正してくれる大人や環境が、今の子どもたちの周りにほとんどないことです。

「悪ふざけ」の延長でも、人生を左右する結果に

――負の成功体験や悪ふざけの延長線上に性加害があるとのことですが、加害行動をした子どもたちは、自分が悪いことをしているという認識を持っているのでしょうか?

斉藤:それが、ほとんどないんです。実際に加害行動をした子に話を聞くと、「みんなやっていたから」「悪いことだと思わなかった」「こんな大事になるとは思わなかった」と言います。
すごく無邪気で、無自覚なんです。相手がどう感じるかというところまで考えや想像力が及んでいない。

 これは心理学の用語で「暗黙理論」といいますが、SNSのアルゴリズムによって似たような情報ばかりが流れてくる環境のなかで、「みんなやっている」「それが普通なんだ」という感覚が、じわじわと植え付けられていくのだと思います。

――性加害は身近なところから始まる一方で、その後の影響はとても大きいように感じます。

櫻井:そうですね。性加害は非常にハードルが低い犯罪だと思います。スマホ一台あれば盗撮もできますし、仲間内の悪ふざけの延長で一線を越えてしまうこともある。でも、ひとたび事件になれば、その影響は他の暴力行為以上に長く続くことがあります。

 どんな加害行為も決して許されるものではありませんが、性犯罪は社会から向けられる目がとりわけ厳しく、その後の人生に長く影を落とすことが少なくないと、加害者臨床に参加するようになって強く感じるようになりました。

――たしかにそうですね。

櫻井:子どもたちにはまだそこまで想像するのは難しいかもしれません。しかし、性加害は「ちょっとした悪ふざけ」では済まされないこと、一度起きてしまうと取り返しのつかない結果につながることを知ってほしいです。
そのことをきちんと大人が伝えていくことも重要なのではないでしょうか。

自分ごととして考える

――ここまでお話を伺うと、性加害は決して一部の特別な子どもの問題ではなく、どの家庭にも起こり得ることだと感じます。

斉藤:まず、「うちの子に限って」という感覚は、今の時代は通用しないと考えています。私がこれまで見てきたケースも、いわゆる問題児ではなく、ごく普通の子どもたちでした。誤った学習や成功体験の積み重ねによって、本人が無自覚なまま加害者になってしまう現実を、まずは大人が知っていただきたいです。

櫻井:子どもたちを取り巻く環境が、親世代の子ども時代とは大きく変わっていることを知った上で考えたいですね。

 今の子どもたちは、スマホひとつで膨大な性情報にアクセスできます。そのなかには正しい情報もありますが、誤った情報や加害を助長するような情報も少なくありません。親が知らないところで、子どもたちは日々そうした情報に触れています。だからこそ、親として「うちの子が性加害・被害に巻き込まれるはずがない」と思わず、「誰にでも起こり得ること」として関心を持ち続けることが大切です。

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 親世代と全く異なる環境に、子どもたちがいることを改めて痛感させられます。「普通の子」が性加害者になる——。
遠い話のように感じるかもしれませんが、誤学習の積み重ねとSNSがつくる「感覚の麻痺」は、今やどの家庭にも起こり得ると考えることが大切です。

【斉藤章佳(さいとうあきよし)】
西川口榎本クリニック副院長(精神保健福祉士/社会福祉士)
1979年滋賀県生まれ。大卒後、我が国最大規模といわれる依存症施設である榎本クリニックにソーシャルワーカーとして、25年にわたりアルコール依存症を中心に様々なアディクション臨床に横断的に携わる。その後、2024年10月から現職。専門は加害者臨床で現在まで3500名以上の性犯罪加害者の治療に関わり、その家族支援も含めた包括的な地域トリートメントに関する実践・研究・啓発活動に取り組んでいる。最新刊として『校内盗撮』(集英社インターナショナル)が8月7日に刊行される。

【櫻井裕子(さくらいゆうこ)】
助産師(さくらい助産院開業)  
産後ケア、養育支援、看護・助産専門学校非常勤講師を務める傍ら、小中高大学生や保護者に包括的性教育やプレコンセプションケアについての講演を年間150回以上実践。2021年より斉藤氏と共に性犯罪加害者臨床で包括的性教育を行っている。
著書に『10代のための性の世界の歩き方』『性的同意は世界を救う』『10代のための「性と加害」を学ぶ本』共に時事通信出版局。

<取材・文/大夏えい>

【大夏えい】
ライター、編集者。大手教育会社に入社後、子ども向け教材・雑誌の編集に携わる。独立後は子ども向け雑誌から大人向けコンテンツまで、幅広く制作中。
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