毎日きちんと歯磨きをしていたのに、虫歯になってしまった。そんな経験はないでしょうか。
歯磨きをしっかりすれば虫歯は防げる。多くの人がそう信じています。しかし、『もう二度と歯医者の治療がいらなくなる3つの習慣 歯を失わないための本気の予防法』(KADOKAWA刊)の著者であり、歯科医師の前岡遼馬先生は「歯磨きで虫歯予防はできない」と言います。

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 歯磨きで虫歯予防ができないとは一体どういうことなのでしょうか?「歯を残す」歯科医師として各メディアで活躍中の前岡先生に、歯の新常識と間違った虫歯予防ケアについて話を聞きました。

がんばった歯磨きを無駄にする行動とは?

――先生の著書の中にある「歯磨きで虫歯は予防できない」という項目が、かなり衝撃的でした。

前岡遼馬先生(以下、前岡):
虫歯ができる最大の原因は、「歯が溶ける時間」と「歯が修復される時間」のバランスが崩れることにあります。

口の中にはたくさんの菌がいるのですが、虫歯菌は糖質をエサにして「酸」を作り出します。この酸によって歯の表面が溶ける現象を「脱灰(だっかい)」といいます。一方で、唾液には溶けた歯を修復する「再石灰化」という働きがあり、通常は「脱灰」と「再石灰化」のバランスが保たれることで、歯は健康な状態に保たれています。

しかし、再石灰化によって歯が修復されるまでには1~2時間ほどかかるため、その間に甘いものをつまんだり、スポーツドリンクやジュースを少しずつ飲み続けたりすると、歯が修復される前に再び酸にさらされ、溶ける時間のほうが長くなって虫歯になってしまうのです。

「歯磨きで虫歯は防げない」歯科医が断言。毎日の歯磨きを台無しにする“食習慣の落とし穴”
画像はイメージです(以下同)
――虫歯は「脱灰」と「再石灰化」のバランスの問題だったのですね。

前岡:
はい。ですから、どんなに歯磨きをがんばっても歯が修復する前に糖質を口に入れてしまえば、虫歯ができてしまうのです。
実際、歯磨きがとても丁寧で口の中がきれいなのに、虫歯を繰り返す患者さんは珍しくありません。

――では、私たちは何のために毎日歯を磨いているのでしょうか?

前岡:
歯磨きの本来の目的は、歯の表面にへばりついた細菌の塊である「プラーク」を物理的にこすり落とすことです。このプラークを放置することによって引き起こされるのが歯周病です。ですから、歯磨きは、基本的には歯周病対策なんです。プラークを取り除くことで口内の細菌数が減り、結果として多少は虫歯予防にもプラスにはたらきますが、メインの目的はあくまで歯周病予防なんです。

しかし、ほとんどの方が「食べかすを取るため」や「虫歯を防ぐため」に歯を磨いていると思っています。口の中の食べかすは自然と唾液などで流れていきますし、歯磨きだけで虫歯を防ぐことはできません。

結局のところ、虫歯になるかどうかは「磨き残しの有無」ではなく、「歯が溶ける時間」と「唾液が修復する時間」のバランスがとれているかで決まるのです。

虫歯予防のカギは「歯磨き」よりも「食べ方」

――日常生活の中でどのように虫歯対策をすればいいでしょうか。

前岡:
口の中に存在する細菌の種類は、中学生くらいまでにほぼ決まります。また、歯の組織や唾液の質も生まれ持った要素が大きいものです。そう考えると、私たちが自分でできる確実な対策は「食生活(糖質を摂る頻度と時間)を意識すること」だけなんです。

ですから、自分でできる虫歯対策としては「糖質が口の中に入る頻度」をコントロールすることです。
コントロールといっても、難しいことではありません。朝・昼・晩の食事と3時のおやつ以外には、水かお茶しか口に入れない。それだけです。

三食の中で好きなものを食べてもいいと思いますが、たとえば昼食が菓子パンだけだと虫歯リスクが非常に高くなるので、できれば和食などを選ぶのが理想ですね。おやつも、焼き芋やおにぎりのような素朴で腹持ちの良いものを選ぶくらいがちょうどいいと思います。

「歯磨きで虫歯は防げない」歯科医が断言。毎日の歯磨きを台無しにする“食習慣の落とし穴”
和食
――甘いものをおやつに食べたがる方や子どもは多いと思います。

前岡:
市販のチョコレートなどは砂糖の塊のようなものですから、当然おやつにそのようなものを食べれば虫歯のリスクは跳ね上がります。

でも本来、朝・昼・晩の食事でしっかり栄養と量を摂っていれば、途中でむやみにお腹がすくことは起きないはずです。逆に、四六時中、甘い物を口にしたがる方やお子さんは、砂糖依存のような状態になっているケースが多いので注意が必要です。これは虫歯予防以前の問題ですね。

マウスウォッシュよりも「正しいブラッシング」

――虫歯予防は「食事のタイミングや食べ方」で、歯周病予防は「歯磨きで」ということですね。

前岡:
はい。それぞれ対策が異なります。
ただ、歯周病対策については「歯磨き」という言葉自体が抽象的なため、自己流の“歯磨きっぽい動作”で終わってしまっている方が大半です。実際に正しく磨けている人は1~2割程度しかいないのが現状で、だからこそ歯周病になる人が減らないのだと思います。

正しい歯磨きについて解説すると長くなるので、詳しくは私の本やYouTube動画などで学んでいただければと思います。歯と歯の間のプラークは歯間ブラシかデンタルフロス、歯の表面や裏面は歯ブラシで落とす形になりますが、「どのようにブラシが歯に当たるとプラークが落ちるのか」を理解することが最重要です。

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歯ブラシ、歯間ブラシ、デンタルフロス
――ちなみに、うがいや殺菌系のマウスウォッシュは虫歯予防に効果がありますか?

前岡:うがいによる虫歯予防効果は、ほぼゼロと言っていいくらいです。歯の表面にくっついたプラーク(細菌の塊)は、歯ブラシなどで物理的にこすり落とさなければ取れません。水やマウスウォッシュでゆすぐだけでは落ちないんです。

仮に殺菌系のマウスウォッシュで口内の細菌が一時的に減ったとしても、細菌は時間とともに倍々で繁殖するため、数時間も経てば元の数に戻ってしまいます。もしうがいやマウスウォッシュだけで根本的な効果があるなら、歯科医院のうがい用コップにもマウスウォッシュなどの殺菌液が出てくるはずですが、そんな光景は見かけませんよね? つまり一般的なマウスウォッシュだけで虫歯を予防することは難しいということなのです。

――たしかに、そうですね。普段使う「歯磨き粉」についてはどう捉えればよいでしょうか。

前岡:
世の中にはいろんな機能をうたった歯磨き粉がありますが、歯磨き粉の中で虫歯予防効果が認められている成分は「フッ素」です。
おすすめの使い方としては、フッ素配合のジェルを少量使い、何もつけずにしっかりブラッシングした後の仕上げとして、歯の表面に軽く塗布するのが効果的です。

「泡立つ歯磨き粉をたっぷりつけないと磨いた気がしない」という感覚は、長年のCMなどによるイメージの刷り込みが大きいと思います。

親が見せる生活習慣が、子どもの虫歯予防の第一歩

――子どもの虫歯対策の一つとして、親から子へ虫歯菌がうつるのを恐れて、食器やスプーンを厳重に分けるご家庭もあるかと思います。

前岡:
口の中に細菌が存在すること自体は、人間の体として正常な状態です。腸内細菌と同じように、生きていく中で自然とお口に入ってくるものなんですね。ですから、食事中に神経質になりすぎる必要はありません。虫歯菌がうつることを気にして、食器を分けることは必要な対策ではないのです。それよりも、親子で食事中の会話やスキンシップを楽しんでほしいと思います。

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食事する子どもと母親
繰り返しになりますが、大切なのは「菌を排除すること」ではなく、菌が増殖して悪さをしないような「家庭の生活環境や食習慣」を作ることです。

もし親御さんが「子どもの虫歯を防ぎたい」と本気で願うなら、食器を神経質に分ける前に、まず親御さんご自身の口内環境をきれいに整えて清潔に保つことが先決です。そして何より、正しい食生活や丁寧な歯磨きをする姿勢を、親御さん自身が日常の中で実践して見せてあげてください。子どもは親の姿を常に観察しているので、自然と真似をして育っていきます。


虫歯に怯えるよりも、規則正しい食生活を送り、正しく歯をケアする背中を見せていくこと。それこそが、親から子どもへ贈ることができる最初の虫歯予防になります。

前岡遼馬(まえおかりょうま)
前岡歯科医院院長。北海道大学歯学部卒。室蘭市の日鋼記念病院歯科口腔外科にて研修後、様々な事情から2014年に実家のある愛知県一宮市に戻り、父の医院を引き継いで最年少で開業。歯科衛生士が在籍しない医院として院長がすべての治療と説明を行う、ワンオペ医院として経営を続けている。著書に、『もう二度と歯医者の治療がいらなくなる3つの習慣 歯を失わないための本気の予防法』。

<取材・文/大夏えい>

【大夏えい】
ライター、編集者。大手教育会社に入社後、子ども向け教材・雑誌の編集に携わる。独立後は子ども向け雑誌から大人向けコンテンツまで、幅広く制作中。
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