湧き上がる感情を思い切り発散できるヘヴィメタルのフェスに通うファンは、痛みに耐える力が強くなる可能性があるという。
ドイツのマックス・プランク人間認知・脳科学研究所は、2023年、ドイツで開催された世界最大のメタルフェス「ヴァッケン・オープン・エア」で、122人のファンを対象に痛みの耐性を調べる実験を行った。
その結果、体を激しく動かし、感情を吐き出して音楽に身を浸したファンは、開幕前に測定したファンよりも長く氷水の痛みに耐えられたという。
痛みに耐える力の向上は、慢性的な痛みに苦しむ患者の治療に役立つと期待されている。
この研究成果は『Scientific Reports[https://www.nature.com/articles/s41598-026-67389-x]』誌(2026年8月20日付)に掲載された。
世界最大のメタルフェスで行われた痛みの耐性実験
ドイツ北部で開催される「ヴァッケン・オープン・エア」は、毎年約8万人のファンが集まる世界最大級のヘヴィメタルフェスティバルである。
マックス・プランク人間認知・脳科学研究所の研究チームは、ヘヴィメタルのライブ体験が、観客の痛みの耐性にどのような影響を与えるのかを調べるため、2023年の同フェスに足を運び、現地のファンを対象にフィールド調査を行った。
実験には122人のヘヴィメタルファンが参加し、心拍数と心拍変動を測定したあと、氷水で満たされた装置に手と前腕を浸して、水に入れてから痛みを感じ始めるまでの時間と、痛みを感じてから手を引き抜くまでの時間を分けて計測した。
水温は2℃に保たれ、体を傷めないよう最長4分で打ち切られた。
122人はライブが始まる前日に会場でテントを設営していた60人と、フェスが3日目と4日目に入ってから測定した62人の2つのグループに分けられた。
前日のグループも会場で友人と過ごし、酒を飲み、音楽を聴いている点は変わらない。違いはライブに参加する前か、後かだけになる。
ライブに参加した後は氷水の痛みに長く耐えられる
122人全員を対象にした最初の分析では、2つのグループの間に統計的な差は出なかったが、フェスの会場では酒を飲む参加者も多く、アルコールには痛みの感じ方を狂わせる働きがある。
そこで研究チームは、測定した日に6杯以上飲んでいた14人を除いて分析し直した。
すると明確な違いが表れた。
ライブに参加したグループの方が、氷水の痛みに長く耐えられることがわかったのだ。
研究チームを率いたリディア・シュナイダー氏によると、ライブに参加したファンは、痛みそのものが軽くなったわけではないという。
実際、水に入れてから痛みを感じ始めるまでの時間は、2つのグループでほとんど変わらなかった。
痛みがどれだけ不快だったかを申告してもらっても、差は出ていない。
違っていたのは、痛みを感じてから手を引き抜くまでの時間だ。
これはどういうことなのかというと、ライブに参加したファンは、痛いまま、不快なまま、それでも我慢し続けることができるようになっていたということだ。
怒りや不快な感情を受け入れられる「回復力」の向上
研究チームは、この結果の背後には回復力の向上があると推測している。
慢性的な痛みに苦しむ患者において、抑圧された怒りが痛みを悪化させる最大の要因であることは以前から知られていた。
ヘヴィメタルは怒りなどの不快な感情をストレートに表現する音楽ジャンルである。ファンは激しい音楽を通じて負の感情を思い切り吐き出している。
シュナイダー氏は、痛みの経験に伴う不快な感覚を深く受け入れることで、ファンが打たれ強さを身につけた可能性があると指摘している。
怒りを発散し、不快な状態を受け入れるプロセスが、痛みに耐える精神的な強さを養ったのだ。
ただし、その仕組みはまだ解明されていない。
研究チームは大勢で音楽を共有する場でオキシトシンが分泌された可能性を挙げているが、ホルモンは測定しておらず推測にとどまる。
頭を振り、体を動かし続けたこと自体が影響した可能性も残されている。
今回の結果は大量に飲酒した参加者を除いた追加の分析で得られたものであり、ヘヴィメタルを聴けば誰でも痛みに強くなるわけではない。
慢性疼痛患者の治療に役立つ新たな可能性
それでもこの発見は、慢性的な痛みに苦しむ患者の治療に新たなアプローチをもたらす可能性がある。
研究チームの一員であるトム・フリッツ氏は、「臨床の現場ではポジティブな感情を引き出してリラックスさせるために音楽が使われることが多いが、怒りを発散させたいときにはリラックスできる音楽が必ずしも適しているとは限らない」と説明する。
不快な感情や困難な状況を受け入れることは、回復力や痛みの耐性を高めるうえで極めて重要な役割を果たす。
痛みのせいで強い怒りを感じている患者にとって、ヘヴィメタルのような激しい音楽を聴くことは、ネガティブな感情をポジティブなもので無理に覆い隠すよりも有益なのかもしれない。
ヘヴィメタルと健康の関係を調べた研究は、他にもある。
フィンランドではヘヴィメタルバンドが多い地域ほど死亡率と入院率が低いことがわかっており、トルコの研究ではヘヴィメタルに血圧を下げ、ストレスを軽減する効果があることも判明している。
もちろんヘヴィメタルが嫌いな人なら効果は望めないかもしれないが、負の感情を吐き出し、昇華させることができるなら、痛みに耐える力が付くかもしれない。
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References: Nature[https://www.nature.com/articles/s41598-026-67389-x] / Metalheads Can Endure Pain Longer Thanks to the Festival Experience | Max Planck Institute for Human Cognitive and Brain Sciences[https://www.cbs.mpg.de/2510200/2026-08-24] / Heavy metal fans may handle pain better than others[https://www.popsci.com/health/metal-fans-pain-tolerance/]











