衛星の打上げ支援から教育まで、幅広い事業で「宇宙の一大産業化...の画像はこちら >>


宇宙ビジネスの領域で実績を伸ばしているスタートアップがある。2017年創業のSpace BDだ。

同社は、宇宙空間を利用するためのハードルを取り除き、多岐にわたる事業を展開。なかでも衛星の打上げや軌道投入を支援するサービスは、着実に実績を伸ばしている。

市場で注目を浴びているトレンドを深掘りする連載「マネ部的トレンドワード」。宇宙ビジネス編の本記事では、Space BDの事業について、取締役COO 事業グループ統括の伊藤圭太氏に取材した。

これまでに100件を超える「衛星ミッション」を支援

衛星の打上げ支援から教育まで、幅広い事業で「宇宙の一大産業化」を加速させるSpace BDとは


Space BDは、「宇宙を一大産業にする」というミッションを掲げ、さまざまな事業に取り組んできた。宇宙ビジネスは近年成長しているとはいえ、まだ黎明期。自動車やITのような社会を支える“一大産業”に発展させるべく、同社はビジネスの側面から貢献していく。その決意がミッションに込められている。

そんなSpace BDが展開している事業は、多角的な展開を見せている。ここでは主要な4つの事業を紹介していきたい。

1つ目は、衛星の開発から宇宙空間への輸送までを支援する「衛星打上げ支援サービス」である。打上げ手段の確保から、衛星開発に必要な部品調達、打上げに向けた各種手続きの申請支援、さらには国際輸送まで一貫して支援する。また、同社は国際宇宙ステーション(ISS)の「きぼう」日本実験棟からの衛星放出サービスも提供しており、国内外の多様な打上げ手段の中から、ミッション要件に応じた最適なアクセス手段を選定、提供する。



これまでに100件を超える衛星ミッションを支援しており(2026年1月時点)、この領域で一定のシェアを築いている。 APACトップクラスのシェアを築いている。

2つ目は、ISSを中心とした宇宙空間の利活用サービスだ。先述した衛星放出もその1つだが、それ以外にも、同社ではISSの船外実験プラットフォーム「i-SEEP」を活用し、宇宙空間に直接曝露する環境でさまざまな実証実験を行う機会の提供や、ISS船内を活用したタンパク質結晶生成事業などを支援。宇宙特有の環境を利用したい事業者に対し、技術・運用の両面からソリューションを提供する。

衛星の打上げ支援から教育まで、幅広い事業で「宇宙の一大産業化」を加速させるSpace BDとは


これらのサービスを展開できる背景には、宇宙航空研究開発機構(JAXA)と築いてきた強固なパートナーシップがあるという。JAXAでは、2017年からISS「きぼう」の民間利用を拡大する取り組みを進めてきた。第一弾として行われたのが、「きぼう」からの衛星放出サービスであり、その事業者選定を公募型で実施。ここで選ばれた一社が、Space BDだった。

以降、同社はJAXAによる衛星打上げ・ISS利用に関する全公募にて選定事業者となった唯一の企業となっている。

宇宙で培ったノウハウを通じて、人と産業の可能性を広げる

衛星の打上げ支援から教育まで、幅広い事業で「宇宙の一大産業化」を加速させるSpace BDとは


3つ目に紹介するSpace BDの事業は、宇宙で活用するプロダクトの企画・設計を自社で行うものだ。開発に特化し、製造は外部メーカーに委託する形で進める、いわゆる「ファブレスメーカー(※)」のビジネスモデルである。

※自社で製造工場を持たず、製品の企画・設計・開発に特化し、その後の製造工程は外部企業に委託するビジネスモデル

この事業で開発している代表例が、宇宙空間で使用する汎用実験装置だ。

ISSでタンパク質結晶をはじめとするライフサイエンス実験などを行う場合、その都度専用装置を開発し、厳しい安全審査を受ける必要がある。「この装置は、装置自体のフレームを共通化し、実験に応じて中身の仕様を変えられる設計となっています。これにより、毎回の安全審査をゼロから始めることなく簡略化することができ、コストや時間、手間を大幅に削減することが可能になります」

もう1つ注力しているプロダクトが、複数衛星搭載システム「TOHRO(燈籠)」だ。 現在、世界の宇宙輸送の主流となっているのが、1機のロケットに多数の小型衛星を搭載する「相乗り(ライドシェア)」。複数の衛星で一回のロケットの打上げ費用を分担できるため、衛星1機あたりの輸送コストを大幅に低減できる。現在は米SpaceX社のロケット「Falcon 9」による相乗りサービスが大きな存在感を放っているが、特定のロケットに衛星輸送を依存することは、打上げ機会の制約を受けやすく、産業全体の課題にもなり得る。
こうした課題に対し、複数衛星の搭載を可能にするシステム「TOHRO(燈籠)」の開発を進めている。日本のロケットに汎用的に適用できる設計とすることで、特定の機体に依存せず、小型から大型まで幅広いロケットで共通的に利用できる点が特徴だ。これにより、日本のロケット全体で低コストなライドシェア環境の実現を目指す。

最後に4つ目の事業として、Space BDでは教育事業も展開している。代表的な取り組みが、宇宙産業の人材を育成する教育プログラム「HURDLES( ハードルズ)」だ。宇宙ビジネスに関わるノウハウを体系化し、実践的に学べる場を提供している。



「HURDLESの衛星システム開発編では、1講座から受講できる『オンデマンド』、数日間の『ワークショップ』、さらには『ハンズオン』といった多様なカリキュラムを展開しています」

このカリキュラムは、超小型衛星の第一人者である趙孟佑教授(千葉工業大学、九州工業大学所属)と、衛星開発のスタートアップであるアークエッジ・スペースの協力のもと開発された。このほかに教育事業では、一部の宇宙飛行士訓練を受託した経験をもとに、新たな人材育成プログラムを開発し、一般企業の研修や学生の授業に展開している。

「民需の掘り起こし」が産業を成長させる

衛星の打上げ支援から教育まで、幅広い事業で「宇宙の一大産業化」を加速させるSpace BDとは


宇宙を一大産業にするためには、何がカギになるのか。伊藤氏はまず「人材」を挙げる。宇宙産業に関わる優秀な人材を1人でも多く増やすことが重要だという。

次に同氏が口にするのは「技術」だ。「宇宙とは直接関係のない分野の企業でも、宇宙用途に転用できる高度な技術を持っているケースがあります。当社は、そうした企業の宇宙参入を支援し、技術の活用先を提案しています。こうして、高い技術を持つ企業の宇宙参入を後押しできればと思います」。

そしてもう1つ重要なのが「民需の掘り起こし」だという。国主導の”官需”だけでなく、一般消費者が宇宙産業の必要性を感じる”民需”の拡大こそが、産業自走の原動力になると語る。

「GPSや気象衛星は、宇宙産業のメリットを一般の方が感じた代表例ではないでしょうか。

こういうものを1つでも多く見出して、ビジネスの仕組みを構築していく。それこそが宇宙産業の発展に必要です。私たちは先頭に立って、その開拓を続けていきたいと思います」

ビジネスの構築力を武器に、宇宙の一大産業化を目指すSpace BD。2017年に誕生した若き同社は、多岐にわたる事業を通して、宇宙ビジネスの領域を切り拓いていく。

衛星の打上げ支援から教育まで、幅広い事業で「宇宙の一大産業化」を加速させるSpace BDとは


(撮影/森カズシゲ)

※記事の内容は2026年6月現在の情報です

編集部おすすめ