天野為之は、明治から昭和初期にかけて活躍した経済学者・教育者です。特に、早稲田大学の学長を務めたことや、経済原論を刊行したことなどで知られています。
経済について学ぶなかで「天野為之」という名前を目にすることはあっても、具体的に何をした人物なのかまでは知らない方もいるのではないでしょうか。日本の経済学史を理解するには、日本に本格的な経済学を広めた天野為之のことも押さえておくことが大切です。
本記事では、天野為之が何をした人物なのか説明したうえで、関係の深い歴史上の人物についても解説します。
天野為之とは
天野為之(あまの ためゆき)は、明治から昭和初期にかけて活躍した経済学者・教育者です。大学で経済学を教えながら、「経済原論」などを執筆し、日本における経済学教育の発展に尽力しました。
また、衆議院議員や大学学長を務めたほか、学校の創設・発展にも関わるなど、教育界や政界でも活動した人物として知られています。
天野為之が生きた時代
天野為之(1859~1938年)が生まれた1859年(安政6年、江戸時代末期)は、日米修好通商条約(1858年締結)に基づいて横浜・長崎・箱館(函館)が開港し、日本が本格的に海外との貿易を始めた時期でした。江戸幕府の終焉と明治維新を経て、日本では近代国家の建設が進められます。
天野為之が青年期を迎えた1880年代には、国会の開設や憲法の制定などを求める自由民権運動が活発化しました。天野為之は、大隈重信の考えに共鳴して政治活動に参加し、後に衆議院議員も務めています。
また、明治後半には日清戦争(1894~1895年)や日露戦争(1904~1905年)が起こり、日本は国際社会における地位を高めていきました。そのような中で、天野為之は経済学者・教育者として活動し、大学での教育や著作の執筆に携わっています。
さらに、大正時代には民主主義の発展を目指す大正デモクラシーが広がります。天野為之が学長を務めた1910年代は、特に大正デモクラシーの機運が高まっていた時期でした。
天野為之の生涯
天野為之の生涯について年表形式でまとめました。
・1859年(※):江戸で誕生する
・1869年:父の死去に伴い、唐津へ帰郷する。その後、唐津藩洋学校に入学する
・1875年:東京開成学校に入学する
・1877年:東京大学予備門生徒を経て、東京大学に進学して経済学を学ぶ
・1882年:東京大学を卒業後、立憲改進党に入党する
・同年:大隈重信が創設した東京専門学校の専任講師として、経済学を教える
・1886年:「経済原論」を刊行する
・1890年:第一回総選挙で衆議院議員に当選し、1期務める
・1897年:東洋経済新報の経営や論説に尽力する(10年間)
・1902年:早稲田実業学校校長を務める
・1915年:早稲田大学学長を務める(~1917年)
・1919年:早稲田実業学校の校長に復帰する(~1938年)
・1938年:死去
ここから、上記年表のうちいくつかのトピックを紹介します。
※天野為之の生年については、1859年(安政6年)とする資料のほか、1860年または1861年とする資料もあります。
江戸で誕生し唐津に移住する
天野為之は、唐津藩(現在の佐賀県唐津市)藩医の長男として江戸に生まれました。しかし、父の死去に伴って唐津へ帰郷し、その後は1871年に開設された唐津藩の洋学校「耐恒寮(たいこうりょう)」で学んでいます。
耐恒寮は、唐津城内に設けられた洋学校で、主に英語教育が行われていました。近代日本建築を代表する建築家の辰野金吾や、実業家として知られる 大島小太郎 なども同校で学んでいます。
東京開成学校に入学する
1875年、天野為之は東京開成学校に入学しました。東京開成学校では、その後首相を務める加藤高明や、日本で最初の近代的文学論とされる「小説神髄」を発表した坪内逍遥らと交流しています。
その後、東京開成学校は、その後東京医学校と合併して東京大学として創設されました。天野為之も、東京大学予備門生徒を経て、東京大学に進学し、英国流の経済学を学んでいます。
東京専門学校(現・早稲田大学)の講師となる
天野為之は、東京大学を卒業してから新設された東京専門学校(1902年に早稲田大学と改称)の講師に就任して、学生たちに経済学を教えます。
東京専門学校の創立者は大隈重信です。大隈重信は、東京専門学校を創設後に、早稲田実業中学の開校にも携わりました。
その後、早稲田実業中学が早稲田実業学校に移行してからは、天野為之が校長を務めています。
早稲田大学の第二代学長に就任する
1915年、早稲田大学の初代学長である高田早苗が第二次大隈内閣の文部大臣に就任することが決まり、学長を退任したため、天野為之が第二代学長に就任しました。高田早苗は、東京開成学校時代から天野為之と交流のあった人物です。
しかし、大学内の派閥争いとして知られる「早稲田騒動」をきっかけに、天野為之はわずか2年で早稲田大学を去っています。
早稲田実業学校の校長に就任する
天野為之は、早稲田大学を去ってから2年後に早稲田実業学校の校長に復帰し、1938年に亡くなるまで校長を務めるなど、教育活動に尽力しました。晩年も、自ら生徒に英語や経済学などを教えていたとのことです。
また、天野為之の死後には、早稲田大学で生誕百年記念祭が開催されるなど、その功績をたたえる取り組みが行われました。
天野為之の主な功績
天野為之の主な功績は、以下の通りです。
・経済評論誌「東洋経済新報」に携わる
・「経済原論」で日本人に経済理論を伝える
それぞれ解説します。
経済評論誌「東洋経済新報」に携わる
1897年に、天野為之は経済評論誌「東洋経済新報(現・週刊東洋経済)」の主幹に就任しました。
東洋経済新報は1895年に創刊された経済雑誌で、現在まで続く経済メディアのひとつです。
また、後に自身の著作である『経済学綱要』を東洋経済新報から刊行しています。
「経済原論」で日本人に経済理論を伝える
1886年に20代の若さで「経済原論」を刊行したことも、天野為之の功績として挙げられます。
経済原論は、東京専門学校での自身の講義をもとに、古典派経済学をわかりやすい形にまとめた書籍です。外国の経済学書をそのまま翻訳するのではなく、日本人が理解しやすいように咀嚼したものとして、注目を集めました。
その後、経済原論は何度も版を重ねたため、「日本語で書かれた経済学書の最初のベストセラー」と称されることもあります。
天野為之と関係の深い人物
天野為之は、以下の歴史上の人物と関係があります。
・大隈重信
・高橋是清
・ジョン・スチュアート・ミル
それぞれの人物像や、天野為之とのつながりについて、押さえておきましょう。
大隈重信
大隈重信は、維新後に参議や大蔵卿に就任した人物です。その後、立憲改進党や憲政党を組織し、第8代首相・第17代内閣総理大臣にも就任しています。
天野為之は、大隈重信の唱える思想に共鳴し、衆議院選挙への出馬など政治活動をしていたことがあります。また、大隈重信の早稲田実業学校創設などをサポートし、その後第2代校長として同校の基礎を築きました。
高橋是清
高橋是清は、英語教師や特許局長、日本銀行総裁などを経て、第20代総理大臣を務めた人物です。
高橋是清は、米国での留学経験があり、語学に長けた人物としても知られています。天野為之が少年期に入学した唐津藩の洋学校「耐恒寮」では、高橋是清が英語の授業をしていました。
高橋是清の具体的な政策について詳しく知りたい方は、以下の記事を参考にしてください。
高橋是清は何をした人?政策や日本史の重要事件との関係も解説
ジョン・スチュアート・ミル
ジョン・スチュアート・ミル は、ベンサムの功利主義を発展させたイギリスの哲学者・経済学者です。「経済学原理」「自由論」「代議制統治論」などの著作を残し、自由主義思想や政治思想の発展に大きな影響を与えました。
天野為之は、ジョン・スチュアート・ミルの経済学の影響を受けながら研究や教育を行い、自身の著作や講義を通じて経済学の普及に取り組みました。
天野為之は日本に本格的な経済学を導入した人物
天野為之は、「経済原論」などの著作を執筆した経済学者です。また、早稲田実業学校の校長や早稲田大学の学長を務めるなど、教育活動にも尽力しました。
天野為之は、ジョン・スチュアート・ミルらの経済学の影響を受けながら研究や教育を行ったとされています。日本における経済学の発展過程を知るため、この機会にアダム・スミスやミルなど古典派経済学者の著作に触れてみてはいかがでしょうか。
参考:コトバンク(精選版 日本国語大辞典、ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典)「天野為之」
参考:佐賀県立佐賀城本丸歴史観「人物名鑑」
参考:佐賀県立名護家城博物館「明治維新150年記念企画展「高橋是清と辰野金吾ー唐津藩洋学校耐恒寮をめぐる人々ー」」
ライター:Editor HB
監修者:高橋 尚
監修者の経歴:
都市銀行に約30年間勤務。

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